ソノスは「Sonos Ace」で、ヘッドフォンの“ディスラプト”に挑む

オーディオメーカーのソノスがワイヤレスヘッドフォンの分野に参入し、「Sonos Ace」を発表した。ソノスらしい多様な機能を備えた新モデルは静かなる存在感を放ちながら、ヘッドフォンの分野における“ディスラプト”に挑もうとしている。
ソノスは「Sonos Ace」で、ヘッドフォンの“ディスラプト”に挑む
PHOTOGRAPH: SONOS

「パンデミック前」という言い回しは曖昧なもので、いつだったのか明確に定義することは難しい。ソノスのヘッドフォンに関しても「パンデミック前」から噂があったことは間違いないが、それを待ち望んでいた期間が正確には4年だったのか、それとも10年だったのかは、もう誰にもわからない。

それもいまとなっては机上の空論であり、ソノスのヘッドフォンはここに存在している。ソノスは、消費者向け電化製品における特定の分野を“ディスラプト”する(創造的破壊を起こす)と約束した最初の企業でも最後の企業でもないが、今回ばかりはこの使い古された言い回しが当てはまるようだ。

オーバーイヤータイプのアクティブノイズキャンセリング機能付きワイヤレスヘッドフォン「Sonos Ace」は、アップルやボーズなどの確立された市場のリーダーと肩を並べる仕様を備えている。そして、価格もそれに見合ったものになっている。

それでは、Sonos Aceの対価として449ドル(日本では74,800円)を支払うと、実際のところ何を得られるのだろうか。

静かなる存在感

まずデザイン面に関していえば、優雅なマット仕上げの非常に細身のスタイルが特徴で、ブラックかソフトホワイトのオーバーイヤーヘッドフォンである。312gと軽量で、締め付ける力は理想的に思える。イヤーカップ本体にヒンジ式のヨークを隠すという巧みなハンガーの配置で、一日中ずっと快適に装着できそうだ。

形状記憶フォームにヴィーガンレザー、ステンレススチールという組み合わせは、快適さと美しさの双方において効果をもたらしている。ブランドのロゴは片方のイヤーカップにのみレーザーエッチング加工で印字されており、控えながら目を引く。アップルの「AirPods Max」が「見てくれ!」と言わんばかりの主張をしている一方で、Sonos Aceは静かに、だが確実に存在感を主張している。

PHOTOGRAPH: SONOS

Sonos Aceは細身で手触りのいいトラベルケースに入っており、USB-Cと3.5mmケーブル用のマグネットで固定できるポーチも付属する。このケースは75%リサイクルされたペットボトルからつくられたという。

性能に関しては期待されるすべての機能が揃っている。ワイヤレス接続はBluetooth 5.4規格で、「Apple Lossless Audio Codec(ALAC)」や「Snapdragon Sound」「aptX Lossless」といった形式と互換性のあるSBCやAACのコーデックに対応している。

サウンドの再生には、カスタム設計された40mmのダイナミックドライバーを備える。ソノスは周波数特性を公表しないことで知られるが、このほどロンドンで開催されたプレス向けイベントで短時間だけ試した限りでは、本格的な低音再生に十分なフルレンジの再生能力をもっていた。バスレフダクトのある音響アーキテクチャーによって、最適な低域の伸びを実現している。

空間オーディオは、Dolby Atmosや360 Reality Audioに対応したストリーミングサービスを利用して楽しめる。また、「Dolby Head Tracking」に対応したソノスの「Intelligent Motion Processing」機能によって頭の動きに動的に追従し、優れた没入感と包みこまれるような感覚を提供するという。

PHOTOGRAPH: SONOS

ソノスならではの機能も搭載

多くの家庭に普及しているソノスだからこそ実現できる、大半のヘッドフォンにはない優れた機能はほかにもある。

例えば、当初から実装されている機能として、 Dolby Atmos対応のサウンドバー「Sonos Arc」とシームレスに連動し、ボタンを押すだけでテレビ音声をサウンドバーとヘッドフォンとの間で切り替えできる。ソノスによると、リスニング空間をマッピングして部屋の特性をSonos Aceのサウンドで再現するという新機能「TrueCinema」と併せて、ほかのサウンドバー(Sonos Beam、Sonos Beam Gen 2、Sonos Ray)との互換性も近い時期に実現するという。

イコライザーなどの設定は新しい「Sonos」アプリのほか、2つある物理的なインターフェイスのひとつで可能になっている。まさに文字通り「コンテンツキー」と呼ばれるこのスイッチは右側のイヤーカップの端にあり、適度なクリック感がある。スライドして音量を調節できるほか、決められた回数だけ押せば通話への応答・終了・拒否、音楽の再生・一時停止、曲送り・曲戻し、Bluetoothのペアリング開始といったことが可能だ。

コンテンツキーのすぐ下には別の物理ボタンがあり、ノイズキャンセリングモードとアウェアモードを切り替えられる。アクティブノイズキャンセリング機能は装着状態に合わせて最適化されるアダプティブタイプで、イヤーカップごとに4つのビームフォーミングマイクが用いられる。このマイクは、通話や音声アシスタントとのやりとりにも対応する。

PHOTOGRAPH: SONOS

ソノスによると、アクティブノイズキャンセリングをオンにした状態でのバッテリー駆動時間は30時間だという。いまのところは、その言葉を信じるしかない。だが、これはソニーなどの競合メーカーと近い数値なので、特に疑わしい点はないだろう。

それに最悪の場合にも、3分間ほど充電すれば3時間ほど利用できるようになる。ちなみにバッテリーの残量ゼロから100%までの充電は、所要時間が約3時間だ。ほかの多くのヘッドフォンと同じくSonos Aceも有線接続だけでは使用できず、バッテリーの残量が必要である点には注意したい。

PHOTOGRAPH: SONOS

Sonos Aceが、どれほどのディスラプション(創造的破壊)をヘッドフォンの分野にもたらしたのか。それを試したければ、世界の多くの地域では発売日の6月5日から実機で確認できる。製品レビューについては、十分に試用できた時点で公開する予定だ。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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