経営難にあるEVメーカーのリヴィアンは、小さくて“手ごろ”な価格の新モデルで危機を脱却できるか

EVの新興メーカーであるリヴィアンが、従来モデルより小型で“手ごろ”な価格を訴求する電気SUVを発表した。この新モデル「R2」は2026年に米国で発売予定だが、いまの厳しい経営状況から脱却できるのか注目されている。
Rivian R2 driving on an open road
Photograph: Rivian

電気自動車(EV)の新興メーカーであるリヴィアンが3月7日、カリフォルニア州ラグナビーチで開催したイベントで3つの新モデルを発表した。これでリヴィアンのEVのラインナップは倍以上に拡大することになる。

最初に発売されるのは、リヴィアンの最新かつ同社として最も小さく手ごろな価格になる「R2」だ。この電気SUVはリヴィアンの他のモデルより小型かもしれないが、世界的なEVの“失速”と自社の生産不振に直面しながらも成功を追求するリヴィアンの将来にとって、大きな役割を果たすことだろう。

小型の電気SUV「R2」。乗用車としては「R1」シリーズに続く新モデルだ。

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リヴィアンは、ほかにも2つのモデルを発表した。クロスオーバーモデルの「R3」と、ハイパフォーマンスモデルの「R3X」だ。これらのモデルはR2の後に発売される予定だが、時期はまだ明らかになっていない。リヴィアンによると、いずれも米国で発売されてからすぐに海外でも発売される予定だという。

電動クロスオーバーの「R3」。

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リヴィアンによると、R2の基本モデルの価格は「およそ」45,000ドル(約670万円)で、航続距離は300マイル(約483km)になるという。リヴィアンは7日から米国でR2の予約受付を開始しており、2026年前半に発売する予定だ。

R2のサイズは、リヴィアンの従来モデルである「R1S」より全長が16インチ(約41cm)短い186インチ(約4.7m)で、全高は67インチ(約1.7m)と5インチ(約13cm)低い。それでも、依然として大きなクルマといえる。

R2のグレードは搭載するモーターの数によってシングルモーター、デュアルモーター、トライモーターの3種類が用意されている。最速のグレードなら静止状態から時速60マイル(約97km)まで3秒以内に到達できるという。

また、搭載された11個のカメラと5個のレーダーによって、ハンドルを操作することなく高速道路を走行できるような「非常に高いレベルの自動運転機能」が実現していると、最高経営責任者(CEO)のRJ・スカリンジは説明している。

電気SUVである「R2」は大自然が映える。

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生産コストを抑えられるほど十分な数の車両を大規模には生産できていないリヴィアンの将来にとって、新型SUVの成功は非常に重要だ。ルシッド・グループフィスカー、ボルボの高級EVブランドであるポールスターなど多くの競合ブランドと同様に、リヴィアンも投資家の関心を収益性の高い事業に結びつけることに苦労している。

新車の開発のみならず、EVの工場も建設しなければならない事業には困難も多い。R2は、その事業をリヴィアンが成功させられるかどうかを左右する可能性がある。

「R2」の室内の様子。大型のディスプレイが特徴的だ。

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リヴィアンが2021年に米国でデビューし、株式市場において2014年以降で最大規模の新規株式公開(IPO)になって以来、リヴィアンにとっても世界にとっても状況は確実に変化している。大きな変化のひとつは、金利の上昇だろう。大きな買い物により高額な資金が必要になり、買い手は新車を含むあらゆる製品の購入に慎重になっている。

EVに関する“常識”も変わった。販売データによると、あらゆる新技術に大きな関心を寄せる傾向のある高所得のアーリーアダプターの支持によって、EVメーカーは躍進してきた。実際にリヴィアンがターゲットとしているのは、そうしたお金に余裕があり、アクティブに週末を過ごすドライバーたちである。

ところがいま、EVメーカーは普通のドライバーを獲得しなければならない。新しいタイプのクルマに適応することに対して忍耐強くも寛容でもなく、ましてや“特権”のために割高なコストを支払うこともない人々だ。

CEOのスカリンジは投資家との最近の電話会議で、次のように語っている。 「EVを購入していない市場の93%の人々に、どうすればこの製品に興味をもってもらえるでしょうか?」

「R2」のセンターコンソールには十分な収納が用意されている。

Photograph: Rivian

それを実現する一端を、より手ごろな価格のモデルが担ってくれることをリヴィアンは期待している。新モデルのR2は価格が45,000ドル(約665万円)からで、ヒョンデ(現代自動車)の「IONIQ 5」や「IONIQ 6」、フォードの「マスタング マッハE」、テスラ「モデル3」といった中級モデルのEVと比較しても遜色ない。

自動車を専門とする調査会社のKelley Blue Bookによると、動力源を問わないあらゆる車種の米国車の2月の平均取引価格は47,400ドル(約700万円)だった。R2の価格は、これにも近い。

それでも2年後にR2が生産ラインから出荷され始めるころには、より手ごろな価格の競合モデルが数多く存在しているはずだ。例えば、カリフォルニアのスタートアップであるTelo Trucksイヴ・べアールが主宰するデザインファームのFuseprojectがデザインを担当)が手がけるコンパクトな都市型のピックアップトラックは、そのころまでに市場に出ている可能性がある。

いまはコンセプトモデルのみが存在しているキア(起亜自動車)の「EV3」もそうなるかもしれない。フォードは新型の電気SUV「エクスプローラー」の生産を計画している。これに対してテスラは2025年にプラットフォームを刷新し、ついに25,000ドル(約370万円)という“神話的”ともいえる価格帯を実現する可能性がある次世代の新モデルを発表するという。

「R2」の荷室。

Photograph: Rivian

厳しい経営難から脱却できるか

賢明なことにリヴィアンは、競争の激しい分野でリヴィアンのフラッグシップモデルの存在感を際立たせたユニークな機能の一部について、小型モデルにも採用しようとしている。R2でも運転席側のドアに懐中電灯が内蔵されており、キャンプの際に取り出してテントに持ち込んだりできるのだ。

新たなサプライズもある。左右と後部の窓を完全に下げることで、“オープンエア”のような体験が可能になった。さらにユーザーからのフィードバックを受け、リヴィアンはグローブボックスを2つに増やしている。

リヴィアンによる“提案”は、これまで常に野心的なものだった。不可能と思えるほどにである。電動のオフロード車がスポーツカーでもあるとしたら──といった具合だ。別の言い方をしよう。このEVが「乗り物としても素晴らしい」ものだとしたらどうだろうか──。

現実が見えてくるまでは、これは実に楽しいアイデアといえる。2024年のリヴィアンは財政難に直面しており、昨年は50億ドル(約7,400億円)以上の純損失を計上した。現段階での手元資金は、その2倍程度である。2月には社員の10%を解雇するなどコスト削減を進めており、重荷となっているサプライヤーとの契約を再交渉するためにR2を利用しているのだという。

「R3」の高性能バージョンとなる「R3X」。

Photograph: Rivian

これに伴いリヴィアンは、今年後半にイリノイ州ノーマルにある工場を閉鎖する計画を打ち出した。そして新たな製造工程を導入することで、長期的には車両の生産コストが下がることになると説明している。

しかし短期的には、ウォール街はこのことを喜んではいない。リヴィアンが2024年は昨年と同じ台数の車両を生産すると2月に発表したとき、アナリストたちは失望したのだ。

いまのところ、注目されているのは2026年の動きである。リヴィアンはジョージア州に第2工場を建設中だったが、この工場での作業を中止し、最初のR2をイリノイ州で生産するとCEOのスカリンジが7日に発表したのだ。

この決定により、R2の生産スケジュールは前倒しになり、生産コストも削減されるとリヴィアンは説明している。だが、リヴィアンには生産する予定のモデルがあと2種類ある。これらを消費者に届けていくには、この自動車メーカーは確実に存続していなければならないのだ。

Photograph: Rivian

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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