「リジェネラティブな都市」を目指す、三菱地所 Regenerative Community Tokyoの挑戦

三菱地所が東京・丸の内に開設したナレッジ・インスティテュート「Regenerative Community Tokyo」は、企業や行政の枠組みを超えたコラボレーションによって、複雑化する都市課題のシステムチェンジに挑もうとしている。
「リジェネラティブな都市」を目指す、三菱地所 Regenerative Community Tokyoの挑戦
Photograph: SHINTARO YOSHIMATSU

自然災害への備えや、ヒートアイランド現象などの都市部の気候変動問題への対応、エコロジカルなインフラ開発、サステナブルな交通インフラの整備の必要性......都市を取りまく課題は年々複雑性を増している。そうした「やっかいな問題」の解決には、複数のステークホルダーによる協業や最新技術の活用によって仕組みそのものを変えることが求められているだろう。

いま、都市課題の解決に向けてアプローチを始めた団体がいる。2024年1月に立ち上がったナレッジ・インスティテュート「Regenerative Community Tokyo」だ。同組織は、三菱地所が東京・丸の内に開設したもので、複雑化する都市課題に対して組織を超えたコラボレーティブなアプローチで挑もうとしている。

「Regenerative Community Tokyo」が冠している「リジェネラティブ」という言葉は、持続可能を目指した「サステナブル」と対比されることが多い概念で、自然環境が本来もつ生成力を取り戻すことで、再生につなげていく考え方を指す。『WIRED』日本版も昨年より、経済活動を通じて人々のつながり、社会、生態系、経済システムを再生する「THE REGENERATIVE COMPANY(リジェネラティブ・カンパニー)」という新たなムーブメントを総力特集してきた。

関連記事「リジェネラティブ・カンパニー」とは何か──その3原則から事業領域まで、拡がるムーブメントの全体像 | WIRED.jp

この「リジェネラティブ・カンパニー」を定義する3原則のひとつが、「SYSTEM CHANGE (システム チェンジ) 」だ。複雑なシステムそのものに介入し、つくり替えていくことを意味しており、これは「Regenerative Community Tokyo」が目指す、都市のシステムに介入していくアプローチとも共通する部分が多いと言えるだろう。

東京・丸の内にあるRegenerative Community Tokyoのワークスペース。設計はOpenAが担当した。

Photograph: SHINTARO YOSHIMATSU
ナレッジを共有し合う、新しいハブをつくる

「Regenerative Community Tokyo」は、多様なステークホルダーやナレッジを集結させて、コラボレーティブに課題にアプローチすることを目指し設立された。同コミュニティが標榜するナレッジ・インスティテュートとは、企業や行政、大学等の多様な組織や研究者が集い、特定のテーマや課題の解決に向けて専門的なナレッジやスキルを集めて取り組むイノベーションハブを意味している。

実際に「Regenerative Community Tokyo」には、さまざまな専門性や知識をもったスタートアップから大企業までの国内企業が会員として参加。その具体例には、苗木生産事業と生態学者の宮脇昭教授の森づくり「ミヤワキメソッド」を組み合わせた独自の森づくりコンサルを行なうグリーンエルムや、100%植物由来の新素材「Pelliqua」の開発を行ない、ファッション産業のカーボンニュートラル化を狙うサステナジーンなど、多様な専門性やテクノロジーをもつ企業が会員として名前を連ねている。

また、国外機関との連携にも積極的だ。オランダ・アムステルダムで都市課題に対する革新的なソリューションを推進するAMS Institute(Amsterdam Institute for Advanced Metropolitan Solutions)や、デンマークで持続可能な都市づくりを牽引するBLOXHUBをパートナーに迎え、パートナー組織や会員間でのナレッジの共有を通じて、都市ならではの課題へのソリューションの創出を目指している。

ナレッジ・インスティテュートという観点では、先行事例として先述のAMS Instituteから生まれたプロジェクト「Roboat」がある。運河が多く、船舶の交通量の多い都市アムステルダムにおいて、モビリティの安全性と利便性の向上のためのアプローチが模索されるなか、世界初の自動運転ボートを開発したプロジェクトだ。

同プロジェクトには、研究機関であるマサチューセッツ工科大学、行政のアムステルダム市、アムステルダム市と水道局の共同組織であるwaternet、民間企業の村田製作所やTorqeedo、vetusなどの多数企業が参加し、一連の実証プロジェクトや実験を通じて、「都市のモビリティ」という課題にアプローチした。これはまさしく、多様なステークホルダーが集い、コラボレーションすることで課題解決につながった事例だ。

このようなプロジェクトを生むために、どのようにコミュニティを運営していくのか。Regenerative Community Tokyoの発起人である、三菱地所の林邦彦は次のように話す。

「『Regenerative Community Tokyo』では運営メンバーによる会員企業へのヒアリングやイベントでの交流を定期的に行ないます。そのプロセスのなかで、特定の課題にアプローチしたい企業同士や、先進的なナレッジをもつパートナー組織をつないでいくことで、都市課題に対する新たなるソリューションを生み出すプロジェクトを生み出していく構想です」

林邦彦|KUNIHIKO HAYASHI
三菱地所株式会社 丸の内開発部 統括
2008年三菱地所株式会社入社。オフィスリーシング、複合施設開発(グランフロント大阪)、法務といったキャリアを経て、2022年より有楽町エリアの街づくりに取り組む。


Photograph: SHINTARO YOSHIMATSU

「産官学共同」や「共創(co-creation)」を掲げた取り組みはこれまでにも国内外で多数実施されてきてたが、ナレッジ・インスティチテュートの特異性は、ネットワークを活用して複数のステークホルダーがつながり、ナレッジを相互に共有することで多岐にわたるプロジェクトを生み出せる点にあるのだろう。

Photograph: SHINTARO YOSHIMATSU
相反する「都市開発」と「リジェネラティブ性」を乗り越える

「社会貢献活動の一環としてではなく、ビジネス、事業として社会課題の解決に取り組んでいる人々や組織がつながり合って、具体的な課題にアプローチする場をつくりたかったんです」

林は、Regenerative Community Tokyo設立の背景をこのように話す。

「『イノベーションが生まれる街』をテーマに掲げて丸の内の都市開発を進めていくなか、次のステップとして何ができるかを考えたときに「サステナビリティ」や「リジェネラティブ」の領域に関心をもちました。建て替え工事などは、耐震などの安全面も大切な一方、ややもすればサステナビリティの観点からは悪と捉えられがちな事業です。そうした負の側面を打ち消せるようなソリューション、イノベーションが生まれる街をつくろうという想いからRegenerative Community Tokyoの設立に至りました」

かねてより「大丸有(大手町・丸の内・有楽町エリアの総称)× SDGs act」を掲げ、都市のサステナビリティ活動に力を入れてきた三菱地所。「Regenerative Community Tokyoの活動を通じて、丸の内から次の世代につながる、リジェネラティブなライフスタイルをつくっていきたい」と林は話す。

それでは、具体的にどのような都市課題の解決に取り組んでいくのか。林は、その構想を次のように語る。

「都市内モビリティやデータ活用、気候変動へのレジリエンス性など、ひとつの組織だけでは解決が難しい課題に対して、丸の内を中心に統合的なソリューションをつくっていきます。オランダやデンマークのパートナー組織に加えて、三菱地所ならではのネットワークを活用して国内外の多様なステークホルダーと協業しながら、最終的には、東京だけでなく世界で活用できる解決策を生み出すことも視野に入れています」

複雑化する「やっかいな問題」にシステムから介入して根本から解決するには、コラボレーティブなアプローチはもはや必要不可欠だといえるだろう。一社単一ではなく、複数の組織がコラボレーティブに課題解決を目指すためのハブとして、Regenerative Community Tokyoが連携の拠点となっていく可能性はある。つまり、ここは硬直化した都市を再生するシステムチェンジの実現に向けた第一歩が踏み出される場所なのだ。

Photograph: SHINTARO YOSHIMATSU

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