「rabbit r1」のデザインは魅力的だが、実用性に課題が残る:製品レビュー

話しかけたりカメラを向けたりするだけで、タスクを実行してくれるrabbitのAI搭載デバイス「r1」が発売されている。わたしは1週間使用し、いまはまだ購入するタイミングではないという結論に至った。使い道を見つけにくいのだ。
「rabbit r1」レビュー:デザインは魅力的だが実用性に課題が残る
PHOTOGRAPH: JULIAN CHOKKATTU

「あぁ、本当にイライラする!」

この言葉はわたしの兄が発したものだ。兄は、わたしが運転している間に「rabbit r1」に簡単な質問をした。それは「近くのカフェは?」というものだった。

これはスマートフォンなら簡単に答えられる質問だろう。でもr1はその人工知能(AI)の能力をもってしても、わたしたちを無言のまま放置したのだ。“考え中” の合図もなく、沈黙が流れた。

少し肌寒いその春の晩、ふたりが別の質問をしても、r1はしばしば返答に時間を費やし、やっと答えが導き出されたとたんに兄は再度質問を投げかけなければならなかった。笑えるけれど腹立たしくもあり、「Alexa」や「Google アシスタント」の初期を彷彿とさせた。急成長のテクノロジーではよくあることだ。ただし、これまでのr1とのほとんどのやりとりにおいては、もっと妥当な応答時間だったことを踏まえると、この事例はバグだったのかもしれない。

とはいえ、バグであろうがなかろうが、r1の使用体験は概してこんな感じだった。r1はほとんど役に立たないと感じたのだ。確かに、質問に対して驚くほど正確な返答をする瞬間があったことも事実だ(役立つ答えを出してくれたこと自体に驚いたかもしれない)。r1の最大の問題は、その使い道を見つけにくいことだ。どこへ行くにも2台目のデバイスを持ち歩く必要があり、多くの場合、r1では完了できない作業を完了させるために、結局はスマートフォンを取り出すことが多かった。この赤っぽいオレンジのガジェットは、パーソナルアシスタントではなく、ただの重りと化していたのだ。

魅力的なデザイン

rabbitは「CES 2024」でr1を発表した。CESでAIガジェットが発表されるなら、見逃すわけにはいかない。rabbitの最高経営責任者(CEO)であるジェシー・リュイは、注目に値する経歴の持ち主だ。彼は最初のスタートアップであるRaven TechをY Combinatorの投資を受けて立ち上げ、「Flow」と呼ばれるモバイルOSを構築していた。2017年、Raven Techを中国の巨大テック企業であるバイドゥ(百度)に売却すると、ハードウェア担当のゼネラルマネージャーとして同社に入社した。しかし、当時「Alexaに対する中国の回答」と表されたこの技術は飛躍しなかった

CESでr1のデモンストレーションは実施されなかったが、同社はイースター頃に出荷すると明かしていた。キュートでレトロなオレンジレッド色のガジェットをデザインしたのは、スウェーデンのデザイン会社teenage engineeringだ。ここは、カール・ペイの「Nothing Phone」のプロダクトデザインを手がけたところで、創業者のイエスパー・コーフーは現在rabbitのチーフ・デザイン・オフィサーを務めている。

r1の見た目には確かに魅力がある。少しプラスチック感が強いが、色が目を引く。左側に寄った2.88インチのタッチスクリーンがあるが、これをタッチ操作することは少ない(Wi-Fiのパスワード入力など、キーボードを使う必要がある場合を除いて)。右側にはスクロールホイールとボタンがある。ホイールの上にはカメラがあり、前後に回転する(使用しないときはプライバシーのために横にもできる)。充電はUSB-Cだ。

teenage engineeringによるシャープなデザイン。PHOTOGRAPH: JULIAN CHOKKATTU

話しかけてタスクを依頼

購入後、データプランを利用するには追加料金の支払いが必要だ。SIMカードを挿入できるSIMスロットがあり、4G LTEにのみ対応している。Wi-Fiに接続でき、スマートフォンからテザリングもできる。Bluetoothにも対応しており、ワイヤレスイヤフォンをペアリングできる。

r1が約束する機能はシンプルだ。rabbitがLAM(large action models、大規模アクションモデル)と呼ぶ技術により、r1に話しかけると、あなたの代わりにタスクをこなしてくれる。Uberを呼ぶ、OpenTableでディナーを予約する、Spotifyで曲を再生する、DoorDashでフードデリバリーをお願いする。秘書にスマートフォンを手渡して何かを頼むのと同じように、話すだけでタスクを処理してくれるのだ。

r1の中核となるのは、大規模言語モデル(LLM)にプッシュ・トゥ・トーク(PTT)でアクセスする機能だ。質問すると、Google 検索をしたときのように答えが得られる(使用しているのは主にPerplexityのAIモデルだ)。搭載されているカメラを対象物に向けて質問をし、回答を得ることもできる。r1は複数のテック系メディアの「CESベストリスト」に選ばれている(わたしたちのリストには含まれなかった)。

他社サービスとの連携に暗雲

r1は多くの機能を約束しながら、現状ほとんど何も達成できていない。まず、セットアップのプロセスについて触れておかなければならない。それは、わたしがパーソナルデバイスをレビューしてきた10年近い経験のなかで、最も中途半端な体験のひとつだったと言える。デバイスを接続して設定するには、rabbitholeという専用のポータルサイトを使用する。これは、r1に関するすべての情報にアクセスし、サードパーティー製品とのインテグレーションをするための唯一の方法だ。

ポータルサイトには、r1に質問したことがすべて表示される。Humaneの「Ai Pin」のそれとよく似ているが、r1のほうが記録に漏れがある。r1で利用できるサービスのアカウントを連携させるのがconnectionタブだ。現在サポートされているサービスはUber、DoorDash、Midjourney、Spotifyのみだが、ここから接続できる。

DoorDashでマフィンを注文したときの画面。PHOTOGRAPH: JULIAN CHOKKATTU

これらのサービスに接続するため、rabbitはバーチャルネットワーク・コンピューティング(VNC)を使用している。会社のITチームが、リモートであなたのコンピューターにアクセスできるようにするために、インストールを求めるタイプのソフトウェアのことだ。これはURLにも示されており、動きが全体的に遅いという事実からもわかる。

サービスにサインインするときのログイン情報は、ほぼrabbitに渡すことになる(プライバシーポリシーにそう記されている)。サードパーティサービスのユーザー認証情報は保存しないと同社は説明しているが、これで不安が解消されるわけではない。

プライバシーへの懸念

これらのアプリとrabbitは、正式に提携しているわけではない。つまり、何百時間もかけてUberのインターフェイスの使い方を学習した、小さなボットを使っているような状況なのだ。rabbitは独自のインターフェイスを構築し、ガジェットの小さな画面に詳細を表示している。Uberのような企業がいずれ、AIエージェントであるrabbitsをブロックするのかどうかが気になった。 このような複雑なやりとりをする手法を許すと、ユーザーインターフェイスが使う人にどう認識されるかを、Uber側はコントロールできなくなるからだ。rabbitのカスタムインターフェイスは現在、あなたがこれらのサードパーティサービスを使って何をしているのか、すべてのデータを収集できるレイヤーとして機能しているという点を忘れないでほしい。これは、グーグルがAndroid OSでしていることと似ている。

rabbitのアプローチ、それが生み出すプライバシー問題に対し、ネットでは反発が起きている。リュイを「ペテン師」と呼ぶ声もある。LAMは実際にAIを使っているのだろうか? rabbitのシステムはAndroidを操作するが、AIコンピューティングはすべてクラウド上で行なわれると同社は主張している。では、なぜアプリではいけないのか?

いずれにせよ、クラウド経由のインタラクションはぎこちなかった。Uberも使えなかった。「Uberのサービスで問題が発生しました」と頻繁に画面に表示された。わたしはSpotifyとMidjourneyの有料アカウントをもっていないし、有料サービスへの新規登録は、rabbitも勧めていない。説明書には次のように書いてある。

「当社のサービスとの互換性と最高の体験を保証するため、(これまで利用していなかったサービスの)アカウント新規作成はお勧めしていません」「それなりの期間、頻繁に利用していたサービスを使用することを強く推奨します」

Uberを使おうとして表示された画面。「申し訳ございません。Uberとの連携に問題が生じました」PHOTOGRAPH: JULIAN CHOKKATTU

残るはデリバリーサービスのDoorDashだった。ブリトーを頼んだら、r1はわたしの居住地域にある店を3~4軒紹介してくれた。1軒を選ぶと、驚いたことに、r1の画面ではメニューが6つしか表示されなかった。そのうちふたつはブリトーだったがわたしが食べたい種類ではなく、残りは飲み物とチュロスだった。結局、スマートフォンを取り出した。

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r1がこれらのサードパーティサービスに接続するとき、読み込みに時間を要するという旨の警告が表示される。DoorDashが開くのを待って、わずかな選択肢をスクロールするのはバカげている。スマートフォンを使えばいい。リュイはスマートフォンのアプリを操作するのではなく、r1に話しかけるだけでいいと言っていた。でも、これなら大画面のスマートフォンでアプリを使うのを選ぶだろう。

ちなみに、スマートフォンでrabbitholeにアクセスしても、これらのサービスをr1に接続できない。現在はデスクトップのブラウザでのみ動作する。モバイルフレンドリーだとはとても言えない。

LLMによる回答の信憑性

R1での操作の主な方法は、スクロールホイールを回し、サイドボタンを押して選択することだ。しかし、残念ながらスクロール機能の操作性には安定感がない。期待するほどスムーズにスクロールできないうえに、触覚的な手応えもなく、次の選択肢に移動するためにはかなりスクロールする必要がある。このような限られた機能しかないデバイスにおいて、rabbitがこの部分をうまく仕上げられなかったのは理解に苦しむ。音量を変えるだけでも一苦労で、r1に音量を下げるように頼むと「r1デバイスの音量を調整できません」と返されるのだ。

スクロールホイールのデザインはいいが、操作にイライラしてしまうのが残念だ。PHOTOGRAPH: JULIAN CHOKKATTU

HumaneのAi Pin同様、ここにもLLMの問題があると実感した。情報が不正確なのだ。4月24日、r1に次の皆既日食はいつか尋ねたところ、2024年4月8日だと役に立たない答えを返してきた。最も近いカフェはどこかと尋ねると、4km離れた場所を指した。実際には、もっと近くに複数のカフェがある。

正しい答えが返ってきたときには感動する。目当ての自動車用品店が車検をしてくれるか尋ねたところ、r1は何十件ものユーザーレビューに目を通し、正確に「はい」と答えてくれた。だが答えがとても冗長なのは問題で、求めている情報にたどり着けないこともある。ただ「yes」か「no」で答えてほしい!

visionの機能を使えば、目の前にあるものについてr1が情報を提供してくれる。この機能はそれなりに活用できた。r1はわたしの愛犬を正確に説明し、妻を「若い女性」と呼んで喜ばせていた。わたしは「中年の男性」だそうで、これには妻も大笑いしていた。

ニューヨークで開催されたr1のローンチイベントのデモンストレーションで、リュイは、スプレッドシートが印刷された紙をr1に見せた。ふたつの列を入れ替え、その結果をメールで送るよう指示する。わたしの手元にスプレッドシートを印刷した紙はなかったが、メールで送ってほしい車検の用紙があったので、r1に頼んでみた。すると、わたしのメールアドレスを知らないと返ってきた。設定のときに入力したのにもかかわらず、だ。このことについて会社に問い合わせたところ、R1はまだスプレッドシート以外のドキュメントには対応していないとのことだった。なるほど、理解した。わたしはその後スプレッドシートを印刷し、ふたつの列を入れ替えてメールで送るように頼んだところ、それは実行できた。しかし、どういうわけか、列は入れ替えられていたものの、もともとあったほかのいくつかの列は含まれていなかった。

次はカズオ・イシグロの『クララとお日さま』をr1に見せて、どんな作品か尋ねた。r1は表紙の見た目について説明するだけで、「おそらく」フィクションだと言った。作品名を読めるなら、なぜ同時に調べて概要を教えてくれないのだろう。Ai Pinにはできるはずだ。

r1にメモを取らせ、そのメモをrabbitholeで編集できるが、リマインダー機能はない。また、rabbitholeは時間が経つと自動的にログアウトしてしまうので、メモを確認したいときはまずログインしなければならない。音声録音も可能で、r1が動作しているときは素敵なテープレコーダーのアニメーションが表示される。録音は低品質で、音質がこもっているのが残念だ。それでも録音内容を要約し、WAV形式でダウンロードできる。

翻訳機能は、Ai Pin同様に優れている。言語ペアを指定すると、会話を双方向に訳してくれる。r1は自動的に翻訳言語を変更するため、わたしが英語を話すとスペイン語に変換し、向かいの人がスペイン語を話すと英語に変換してくれる。

アプリではない理由は?

このようなことができるデバイスは、ほかにもある。スマートフォンだ。r1を人に紹介するたび、繰り返しこう聞かれる。「なんでアプリじゃダメなの?」

コーネルテックの博士研究員で、オープンソースAIを研究しているデイヴィッド・ウィダーにこの質問をぶつけてみた。「(rabbitの)ハードウェアはクールです。アップルやグーグルに多額の手数料を支払わないといけない現状について、アプリ開発者たちの不満が高まっています。『自分たちのことを自分たちでやりたいし、ビッグテックに縛られたくない』という気持ちが、少しあるのだと思います」

それはもっともだが、r1はまだ“準備ができていない”と感じた。レビューをせずに、もっと使用体験を書こうかと思ったが、r1はいまや、誰でも買える製品だ。つなりrabbitはあなたに200ドルを請求し、ベータテスターになってもらっているというわけだ。r1に特定のタスクを学習させる「teach mode」など、今後展開が期待できる機能やサービスのロードマップはあるが、r1をいま買う理由は見当たらない。もっと機能が増え、本当に使えるようになってから再検討し、必要ならそのときに購入すればいい。

少なくとも、ほかのレビュアーを悩ませたらしいバッテリーの問題はわたしには起きていない。充電時間も短かったし、スタンバイモードでもバッテリーはそこまで消耗しなかった。しかし、使用中のバッテリーの減りは早い。

2台持ちというストレス

つまるところ、最大の問題は、結局デバイスを2台持ち歩かなければならなくなったという点に尽きる。わたしは『WIRED』専属のスマートフォン・レビュアーだが、携帯電話を2台持ち歩くのは嫌いだ。1週間の間、極力r1を使おうとしたが、スマートフォンに頼る羽目になることが多かった(この点においては、Ai Pinのほうがよかった。Ai Pinはウェアラブルなので、ポケットに入れたり、持ったりする必要がないからだ)。

rabbitは、r1がスマートフォンの代わりになることはないと明言したが、スマートフォンで同じタスクやそれ以上のことができるのであれば、r1を使う理由はない(グーグルのGeminiはr1と同等か、それ以上の答えを出してくれた)。少なくとも、見た目はいい。わたしの“AI搭載文鎮コレクション”に加えよう。

◎「WIRED」な点
レトロでキュートなデザイン。充実した翻訳機能。音声と視覚で、AIに簡単にアクセスできる。

△「TIRED」な点
現時点で搭載している機能が少ない。プライバシーに関する懸念が大きい。大規模言語モデルが提供する回答は、しばしば間違っている。スクロールホイールが使いづらい。サードパーティとの統合が中途半端。

(Originally published on wired.com, translated by Rikako Takahashi, edited by Mamiko Nakano)

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