月の地下に見つかった“空洞”は、月面探査に役立つかもしれない

月の地下に洞窟のような空洞が存在することを示す研究結果を、このほどイタリアのトレント大学が率いる国際研究チームが発表した。この発見は、将来の月面基地建設にとって極めて重要なものになるかもしれない。
Elaborazione di una foto di A. Romeo. Modello 3D LRO della NASA  foto dell'alba del 24 dicembre 1968 alle 1640 UTC...
月の地下空間のマッピングは、NASAの無人月探査機「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」に搭載された高周波測定器によって2010年に観測されたデータの検証からもたらされた。ILLUSTRATION: UNIVERSITY OF TRENTO

月の地下には空洞がある──。この説の真偽については何十年にもわたって議論されてきたが、ついにその存在が確認された。イタリアのトレント大学が率いる国際研究チームが7月15日、の地下にアクセス可能な空間が存在することを示す研究結果を、科学誌『Nature Astronomy』に発表したのである。この発見は、将来の月面基地建設にとって極めて重要なものになるかもしれない。

天文学者たちは半世紀以上にわたって、月の地下に洞窟やトンネルが広がっているという説を唱えてきた。2009年には専門家チームが月面に深い縦穴を発見したことで、月の地下で溶岩が冷やされたことで地下空洞が形成されたという説が裏付けられている。

今回の発見は、さらに長い地下トンネルの存在を実証するものだ。「このような構造が存在するという説は50年以上前から唱えられていましたが、初めてその存在が証明されました」と、今回の研究のコーディネーターを務めるトレント大学のロレンツォ・ブルツォーネは語る。

無人月探査機のデータから判明

この発見は、NASAの無人月探査機「ルナー・リコネサンス・オービター(LRO)」に搭載された高周波測定器によって2010年に観測されたデータの検証からもたらされた。LROは2009年から月を周回して月面をマッピングし、将来のミッションに備えて着陸候補地を探索している。

この画像に基づいて研究チームは、月の「静かの海」の領域に隠されていた溶岩洞を発見できたという。この空洞を将来は宇宙飛行士が利用できるようになるかもしれない。

「これらの画像を、わたしたちの研究室で最近開発された複雑な信号処理技術で分析したところ、『静かの海』の領域からのレーダー反射の一部が地下の空洞に起因することがわかりました」と、ブルツォーネは説明する。「この発見は、月の地下にアクセス可能な岩石トンネルが存在することを示す初めての直接的な証拠になります」

このデータを分析したことで研究チームは、トンネルの先端部分を表すモデルも作成できた。「溶岩洞の可能性が非常に高いです」と、トレント大学の研究者で今回の論文の筆頭著者であるレオナルド・カレルは言う。

今回の発見は、将来の月探査ミッションにとって重要な意味をもつ可能性がある。月の環境は、隕石と放射線のおかげで人間にとって過酷なものだ。宇宙放射線と太陽放射線は地球上の放射線環境と比べて最大150倍も強力であり、隕石の脅威も絶えない。

したがって、探査機の着陸地点や長期的な月面インフラの建設には、安全な空間を見つける必要がある。今回発見された洞窟は、将来的に宇宙飛行士にとって安全な避難場所になるかもしれないということなのだ。

(Originally published on wired.it, edited by Daisuke Takimoto)

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