ミニにEV専用モデル、「エースマン」は電動化の今後を占う試金石となる

BMWの「MINI」に新たにEV専用モデル「MINI ACEMAN(ミニ・エースマン)」が加わり、日本でも発売された。ミニならではの走りをEVの時代に再解釈した新モデルは、電動化の今後を占う試金石になるかもしれない。
ミニにEV専用モデル、「エースマン」は電動化の今後を占う試金石となる
Photograph: BMW

BMWの小型車ブランドとして人気の「MINI(ミニ)」に、新たに電気自動車(EV)専用モデルが加わった。今年4月の北京モーターショーで世界初公開された新モデル「MINI ACEMAN(ミニ・エースマン)」が、6月6日に日本でも発売されたのである。

この「エースマン」という名称は完全に新しいもので、トランプのエースに由来するという。ミニの新世代ラインナップにおいては、SUVタイプの「MINI COUNTRYMAN(カントリーマン)」と小型モデル「 MINI COOPER(クーパー)」に続く第3弾となる。

従来のミニの特徴だった円形のヘッドライトは多角形になったが、全体のとしてのイメージはミニそのもの。5ドアのクロスオーバーSUVらしくマッシブでありながらミニらしい愛嬌を感じさせるところは、2022年にBMWが発表したコンセプトカーから受け継がれている。

サイズは全長4,080×全幅1,755×全高1,515mmと「クーパー」と「カントリーマン」の中間に位置し、日本の狭い道でも取り回しがよさそうだ。「東京のような都会のジャングルには完璧なクルマです」と、MINIのインテリアデザイン責任者であるセバスチャン・クリュスは説明する。

EV専用モデル「MINI ACEMAN(ミニ・エースマン)」。5ドアのクロスオーバーSUVらしくマッシブでありながらミニらしい愛嬌を感じさせる。

PHOTOGRAPH: BMW

ミニの伝統的な要素を継承

そのデザインは伝統的な「ミニらしさ」を踏襲したものだ。オリジナルのミニを研究して導き出された新しいデザイン言語は、「カリスマティック・シンプリシティ(カリスマ的なシンプルさ)」。シンプルでありながら存在感のあるミニの伝統的な要素を受け継ぎながら、それらを現代風に解釈している。

こうしたコンセプトについてMINIのインテリアデザイン責任者であるセバスチャン・クリュスは、「ブランドの伝統とDNAを守りながらも、強い個性を打ち出す自由をデザイナーに与えています」と説明する。

例えば、LEDヘッドライトが多角形になった以外にも、フロントグリルは八角形になった。エッジを強調して個性を打ち出しながらも、全体的な「ミニらしさ」を演出したデザインだ。

前席の中央にはタッチ式で円形の有機ELディスプレイが配置され、メーター表示やナビゲーション、エアコンなどを操作する機能が統合されている。歴代ミニの伝統でもあった円形のセンターメーターを引き継いだデザインだが、スマートフォン感覚で操作できるようになった点は新世代のミニらしい。

また、ダッシュボードに光のグラフィックを投影したり、加速時などに独自のサウンドを奏でたりできるような機能も用意された。こうした“EVらしさ”を強調した機能も目新しい。一方で、クロムめっきやレザーを使わず、再生された繊維を編み込んだ素材を内装に用いるなど、サステナビリティもきちんと意識している。

前席の中央にはタッチ式で円形の有機ELディスプレイが配置され、メーター表示やナビゲーション、エアコンなどを操作する機能が統合されている。

PHOTOGRAPH: BMW

電動化された“ゴーカート・フィーリング”

ミニのシリーズには、すでに「クーパー」と「カントリーマン」にEV版が用意されている。ただし、これらの2モデルにはエンジン車も用意されるので、完全なEV専用モデルは「エースマン」のみ。日本におけるEVの支持が広がらないなか、いかに売り込んでいくのか。

鍵を握るのが、急速充電ネットワークの拡大だろう。BMWは2024年内にMINI全店舗へ急速充電器の設置を進めている。「設置のスケジュールは順調に進んでいます」と、BMW日本法人でMINIディビジョン本部長を務めるピーター・メダラーは言う。さらに、公共の充電ネットワークにも対応した「MINI充電カード」をオーナー向けに提供する。

走行可能距離は最近のEVとしては一般的な水準で、基本モデル「ミニ・エースマン E」が310km、上位モデル「ミニ・エースマン SE」が406km。普段使いに十分な容量といえるバッテリーには、外部給電機能も用意されている。

とはいえ、国内の公共充電ネットワークが十分とはいえない現状において、EVへの移行を心もとなく感じるドライバーは少なくないはず。だからこそメーカー側も、「エースマン」の運転の“楽しさ”を発表会で強調していた。「(エンジン車を含むすべての)ミニのなかで最も楽しさを感じさせるモデルになっている。日本でも非常に人気が出るモデルではないかと確信しています」と、BMW日本法人社長の長谷川正敏は言う。

BMW傘下のミニを日本法人で長年にわたって担当してきた営業部長の山口智之も、「クーパー」のEV版に試乗した経験を踏まえて次のように言い切る。「モーターであるかエンジンであるかは置いておいて、運転して最も楽しいミニをつくったらパワートレインがモーターでした、ということ。電気だから、エンジンだからということを超えて最も楽しいミニがこれです、ということなんです」

ミニの新世代ラインナップ。左から小型モデル「 MINI COOPER(クーパー)」、EV専用モデル「エースマン」、そしてSUVタイプ「MINI COUNTRYMAN(カントリーマン)」。

PHOTOGRAPH: BMW

ミニの走りは、かつて自動車エンジニアのアレック・イシゴニスが手がけた初代ミニの時代から、“ゴーカート・フィーリング”が特徴とされてきた。ダイレクトな運転感覚によって意のままに操れることで、思わず笑みがこぼれるような楽しさが演出される、というわけだ。

その点では、瞬間的に最大トルクを発生させるモーターで動作するEVは“ゴーカート・フィーリング”との相性がいい。回生ブレーキをうまく使えば、アクセルペダルの操作だけで加減速もできるだろう。

そうしたEVらしさが生み出す現代的な“ゴーカート・フィーリング”を、いかに消費者にきちんと伝えられるのか。EV専用モデルの「エースマン」でこそ、ミニのブランド力の本質が問われることになる。そしてEV市場の今後を見極めていくうえでも、ひとつの試金石になるはずだ。

※『WIRED』による電気自動車(EV)の関連記事はこちら


Related Articles
article image
BMWがMINIの新たなEVのコンセプトモデルとして発表した「MINI Concept Aceman(コンセプト・エースマン)」。次世代のモビリティについて考察する連載「フューチャーモビリティの現在地」の第9回では、次世代MINIの「カリスマティック・シンプリシティ」というデザインの考え方について、MINIデザイン部門責任者のオリバー・ハイルマーに訊いた。
article image
ミニの新たな電気自動車(EV)のコンセプトモデル「MINI Concept Aceman(エースマン)」が発表された。クロスオーバータイプとしてミニ初のEVとなるモデルで、クロムめっきやレザーを使わないことでサステナブルな仕様を目指している。

雑誌『WIRED』日本版 VOL.52
「FASHION FUTURE AH!」は好評発売中!

ファッションとはつまり、服のことである。布が何からつくられるのかを知ることであり、拾ったペットボトルを糸にできる現実と、古着を繊維にする困難さについて考えることでもある。次の世代がいかに育まれるべきか、彼ら/彼女らに投げかけるべき言葉を真剣に語り合うことであり、クラフツマンシップを受け継ぐこと、モードと楽観性について洞察すること、そしてとびきりのクリエイティビティのもち主の言葉に耳を傾けることである。あるいは当然、テクノロジーが拡張する可能性を想像することでもあり、自らミシンを踏むことでもある──。およそ10年ぶりとなる『WIRED』のファッション特集。詳細はこちら