世界的なWindowsの障害は、キャッシュレス社会にも大混乱をもたらした

世界規模で発生したWindowsのシステム障害は、キャッシュレス社会にも大混乱をもたらしている。世界各地の店舗の一部は支払いを現金のみに制限するか、システムが復旧するまで休業するかという選択を迫られたのだ。
Wad of cash in a shirt pocket
Photograph: Viktor Kintop/Getty Images

セキュリティ企業であるCrowdStrikeのソフトウェアのアップデートが発端となり、マイクロソフトのWindowsで動作するマシンが世界中でクラッシュした事態を受けて、多くの企業が選択を迫られた。支払いを現金のみに制限するか、システムが復旧するまで休業するか、という選択である。

政府がキャッシュレス化を明確に奨励しているオーストラリアでは、このシステム障害によって瞬く間に混乱が生じた。ソーシャルメディアには、スーパーマーケットチェーンのColesでカードのみに対応するセルフレジにブルースクリーン(Blue Screen of Death=BSoD、「死のブルースクリーン」とも呼ばれる)が表示されている様子が投稿されている。オーストラリアの食料品店では、人が対応するレジの列が店の奥まで伸びていたと、地元メディアが報じた。一部のオーストラリアの店は閉店してしまったという。

これに対してインドの一部の航空会社では、19日の飛行機に搭乗する予定の人々に手書きの搭乗券を発行しなければならなかったことが、ソーシャルメディアへの投稿から明らかになっている。米国ではマイナーリーグのプロ野球チーム「ノーフォーク・タイズ」のほか、ペンシルベニア州アレゲニー郡の公共プール、ニューヨークの映画館「Film Forum」など、さまざまな企業や施設が当面は現金のみに対応すると発表した。

深刻な影響を受けたスターバックス

飲食店のなかでも、特にスターバックスが深刻な打撃を受けたようだ(2020年にスターバックスの当時のCEOは「よりキャッシュレスな体験」に向けてシフトしていると語っていた)。カンザス州にあるスターバックスの店員は、モバイルオーダーシステムが 「完全にダウンしている」ことを示す動画をTikTokに投稿している

この店舗では、カップのラベルを印刷する機械も機能していなかった。店員は「毎回、白紙で出てくるんです」と、ラベルプリンターを示しながら語っている。また、こうした状況を客に説明しようとしたところ、一部の客は「腹を立てて非常に失礼な態度をとった」という。別のスターバックスの店員は、すべての注文を付せんにメモする必要があったと、TikTokで語っている

混乱にさらに拍車をかけたのは、スターバックスは19日に(少なくとも米国では)リワードプログラムの会員向けに3ドルのドリンクを提供していたことだった。フロリダ在住のあるスターバックスの店員は、普段でも金曜は「非常に忙しい」というのに、この状況によってさらにストレスの多い日になったと取材に対して語っている。ほとんどの客は理解してくれたというが、店舗が屋内のイートインスペースを閉鎖してドライブスルーに集約せざるをえなくなったとき、「外でイライラしている人たちがいた」という。

メリーランド大学でサイバーセキュリティを担当する講師のリチャード・フォルノは、19日に起きた障害は現在のクラウドとインターネットのインフラの脆弱性を示していると、取材に対して語っている。「ソフトウェアのサプライチェーンは、以前からサイバーセキュリティ上の深刻な懸案事項であり、潜在的な単一障害点(SPOF)でした」と、フォルノは語る。

「現代の情報社会は多くの場合はクラウドベースなのですが、セキュリティや回復力を重視して構築されているわけではありません。非常に脆弱な基盤の上に成り立っています。運がよければの話ですが、今回の出来事によってそれにようやく世界が気づくかもしれません」

なお、マイクロソフトの広報担当者は、こうした評価に対して直接的には回答していない。

数時間以内に復旧した施設も

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって、キャッシュレス化を進める企業が2020年に急増して貨幣の流通が滞った

これに対してアメリカ自由人権協会(ACLU)は、キャッシュレス店舗は消費者の監視を可能にし、銀行口座をもつ可能性が低く現金を使う可能性が高い低所得層の顧客に偏って影響を与えると警告している。このためフィラデルフィアサンフランシスコニューヨークでは、完全なキャッシュレス化を違法とする法律が可決された。

一方で、キャッシュレス化のメリットを強調する企業もある。2019年にキャッシュレスのシステムを導入したアトランタの「メルセデス・ベンツ・スタジアム」では、キャッシュレス化によって取引時間が短縮され、食べ物や飲み物を買い求める列が早く進むようになったという。このスタジアムはプレスリリースで、キャッシュレス化から1年で「35万ドル以上の運営コストを節減できた」と説明している(19日にスタジアムに何度か電話で詳細を問い合わせたが、人間と通話することはできなかった)。

今回のシステム障害の影響を受けた一部の企業のシステムは、数時間以内に復旧している。ピッツバーグにあるゴルフ場「North Park」と「South Park」では、当面は支払いを現金のみにすると19日朝にXに投稿したが、電話に出た従業員によると、すでに現金とクレジットカードの両方を利用できるようになったという。

完全キャッシュレスの企業や施設のなかにも、まったく影響を受けなかったところもある。ラスベガスにある完全キャッシュレスの球体型アリーナ「Sphere(スフィア)」は影響を受けなかったと、スフィアのカスタマーサービス担当者は説明している。

スフィアを覆う巨大なディスプレイにシステム障害が発生しているように見える画像がXで拡散されたが、これは2月から出回っているフェイク画像だ。スフィアの担当者は、スフィアのどのディスプレイも影響を受けていないと語っている。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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