疲れ切った労働者の多くは、履歴書を書いてくれるプロやキャリアコーチを雇いたいと夢見たことがあるだろう。そこでLinkedInが導入しようとしているのが、実在の人間をベースに開発した生成AIのキャリア専門家に相談できる機能だ。ほかにもLinkedInに新たに導入された人工知能(AI)ツールを用いれば、履歴書やカバーレターを書いたり、応募資格を満たしているかどうか評価をもらったりすることもできる。
この1年のLinkedInは生成AIツールの強化を進めており、サービスにさらに取り込んでいく動きを見せている。そんなLinkedInが6月13日に導入したAIツールは、AIを駆使して専門的なアドバイスを受けられる機能の試験版や、LinkedInが提供するコースについて解説する双方向チャットの機能、そして英語圏のPremiumプラン加入者向けとなる仕事の検索・応募に利用できるAI機能だ。
これらの変更は、生成AIを最大限に活用しようとするLinkedInの大規模な動きを示している(LinkedInはOpenAIに大規模な投資をしたマイクロソフトの傘下にあり、OpenAIがLinkedInのAI機能を支えている)。LinkedInは引き続き単なる求人サイト以上のものを目指していくわけだが、ユーザーはそこでほかのユーザーと交流したり、映像を使用したコースで新たなスキルを学んだりするようになるわけだ。
求人にもっと応募できるようサポート
これらのAIツールの一部の背後にある意図は、履歴書を大量に生成することではない。ユーザーのスキル向上を図るとともに、ユーザーの経験に密接に関連した求人にもっと応募できるようにすることを意図しているのだ。AIを活用することで「最も関連性の高い求人をより素早く見つけられるようになるでしょう」と、LinkedInのプロダクト担当バイスプレジデントのギャンダ・サチデワは言う。
LinkedInの会話型AIを利用すると、Premiumプラン加入者は「給与の交渉はどうしたらいいか」といったキャリアに関することを質問できる。この会話型AIは実在のキャリアコーチ(LinkedInから報酬を受け取ってコンテンツ再編を手がけている)が作成したカリキュラムで訓練されており、現時点でメリーランド大学のアニル・グプタや心理学者で作家のジェマ・リー・ロバーツ、キャリアコーチのリサ・ゲイツなどの“AIバージョン”が存在している。
採用担当者が会話のような言葉遣いで求職者を検索できるAIツールをLinkedInが導入したのは、昨年秋のことだ。今年になって導入が始まった生成AIツールでは、求職者が求人票からチャットウィンドウを開き、自分が条件に適しているかどうか尋ねることができる。そして自分のスキルや経験と求人内容とのマッチングを高める方法や、自分を目立たせるためにプロフィールに追加すべきスキルについて、AIから指南してもらうことも可能だ。
LinkedInは、こうした機能の一部強化に取り組んでいる。Premiumプランの加入者は、「テキサス州で少なくとも11万ドル(約1,700万円)もらえるエンジニアの仕事を探して」といったカジュアルな質問から求人を検索できるようになった。さらに、生成AIにカバーレターや履歴書を書いてもらい、特定の求人に合わせて修正してもらえる。採用担当者にメッセージを送ったり、求人を探したりする生成AI機能もある。
試しにカバーレターの執筆機能を使ってみたところ、LinkedInにある「記者」の経験と求人内容を理路整然と合成することができた。しかし、本当に優れたカバーレターにするには、これまでの実績を直に書き込むなどの手直しが必要になるかもしれない。
履歴書やカバーレターを書くツールについては、LinkedInのほかのAI製品を利用してきたユーザーから大きな要望があったのだと、サチデワは説明する。「別の求人に応募する際には、履歴書やカバーレターの内容も変わります。わたしたちのAIはそれをサポートできるわけです」
「隠れた宝」を見つけられる?
AIツールは、仕事を探す側と採用する側の双方においてますます一般的になっている。AIによる面接や応募者のふるい分けのほか、複数の求人に一括応募できるAIツールも登場した。とはいえ、一部のツールにバイアスが潜んでいる兆候が見られる一方で、採用される人物を決定するアルゴリズムの仕組みはほとんどわかっていない。
LinkedInの新しいAI機能が、労働者全体にどのような影響を及ぼすのかを判断するのはまだ早い。新しいツールの発表にあたってLinkedInの製品管理担当ディレクターであるロハン・ラジーヴは、採用担当者がAIの力で「隠れた宝」を見つけられるようになると語っている。
「隠れた宝」とは、従来の採用担当者の着目ポイントから漏れていたかもしれない求職者のことを指す。だが、LinkedInのようなビジネス特化型プラットフォームにさらに生成AIを取り入れることには疑問が生じる。
はたしてAIは、歴史的に過小評価されてきた一部の求職者がプロフィールや応募書類の質を向上させて仕事に就く助けになるのだろうか。それとも、これまでの求人市場で見られたバイアスを再び繰り返すのだろうか。
(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)
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