ランボルギーニ初のEV「ランザドール」は、史上最強の“ウルトラGT”として登場する

ランボルギーニが初の電気自動車(EV)「Lanzador(ランザドール)」のコンセプトモデルを発表した。宇宙船にインスパイアされたというデザインに身を包んだこのクルマは、なんと1,341馬力に相当するパワーを絞り出す最強モデルだ。
Lamborghini Lanzador concept vehicle parked in an industrial garage
Photograph: Lamborghini

1963年にフェルッチオ・ランボルギーニが自動車メーカーを立ち上げたときは、現在の「ランボルギーニ」として知られるようなクルマをつくっていたわけではない。上方向に開くドアや、火を噴くV型12気筒エンジンを備えた奇抜なスーパーカーからスタートしたわけではなかったのだ。

トラクターの製造者で元イタリア空軍の整備士だったランボルギーニは、2人乗りスポーツカー「350GTV」のコンセプトモデルを考案し、次いで量産可能な「350GT」が誕生した。自動車の車体などを手がけていたミラノのカロッツェリア・トゥーリングが設計した350GTは、ふたつの座席と週末旅行に十分な収納スペースを備えたグランツーリスモだった。創業から間もないランボルギーニは、サーキットでイタリアのライバルメーカーを追いかける代わりに、快適なハイウェイクルーザーをつくったのである。

それから60年。カリフォルニア州モントレーで8月18日に公開された電動グランツーリスモ「Lanzador(ランザドール)」で、ランボルギーニは原点に立ち返ろうとしている。60年前のコンセプトカー「350GTV」と同様に、ランザドールはランボルギーニの完全電動化の未来を示す最初の姿であり、来るべきものを予感させるクルマだ。

ランザドールは「ウルトラGT」とも呼ばれている。自動車メーカーのマーケティング部門では、かなり前から「スーパー」という表現では不十分だとされていたからだ。

そして普段使いや長距離移動のために設計された実用的なグランツーリスモであるという点で、ランボルギーニ初のコンセプトカーだった350GTVを彷彿とさせる。ビバリーヒルズのロデオドライブでその姿を誇示したり、たまのサーキット走行会でオーナーを怖がらせたりすることはない。

350GTVとは異なりランザドールの最低地上高は高く、シート構成は「2+2」となっている。同じランボルギーニの「Urus(ウルス)」のようなフルサイズのSUVではないが、「Huracán(ウラカン)」やプラグインハイブリッドモデルの「Revuelto(レブエルト)」のように地を這うように走るスーパーカーでもない。

現在の電気自動車(EV)の多くがそうであるように、バッテリーが床下に配置されたことで高さのあるデザインとなった。これにより低かった車体は、本質的により実用的かつ印象的なものへと変わっている。

Photograph: Lamborghini

大気圏突入に備えるかのようなデザイン

ランザドールのデザインは「宇宙船からインスピレーションを得た」もので、ランボルギーニだけが臆することなく実現できる信憑性があるとメーカーは説明している。がっしりとした角ばった外観で、まるで地球の大気圏への突入に備えているかのように前傾したデザインだ。23インチの巨大なホイールは、空気の乱流を軽減して航続距離を伸ばすようにデザインされており、ランボルギーニのマンガっぽい独自スタイルがさらに強化されている。

「モントレー・カー・ウィーク」でランボルギーニが主催するイベントで明かされたランザドールのデザインは、ランボルギーニの「Sesto Elemento(セストエレメント)」や「Murciélago(ムルシエラゴ)」「Countach LPI 800-4(カウンタックLPI 800-4)」からインスピレーションを得たとされている。だが、全高は59インチ(150cm)とSUVのウルスより6インチ(15cm)ほど低く、ウィンドウ部分は極端に低い。

Photograph: Lamborghini
Photograph: Lamborghini

ランザドールはアクティブ・エアロダイナミクスを採用しており、オーナーが望む走りに応じて安定性や効率性を向上させる。「Huracan Performance(ウラカン・ペルフォルマンテ)」と「Aventador SVJ(アヴェンタドール SVJ)」で初めて採用されたダウンフォースを高める技術を取り入れたALA(アエロディナミカ・ランボルギーニ・アッティーヴァ)システムには、パワーを抑えた「アーバン」モードでのランザドールの効率と航続距離を向上させるように設計されたエアロデバイスが新たに装備されている。ハンドルに設置されたスイッチで「パフォーマンス」モードを選択すると、ALAシステムはダウンフォースを高めるように切り替わる。

Photograph: Lamborghini

ランボルギーニ史上最強のパワー

シャープな外観に身を包んだボディの下には、デュアルモーターによるフルタイム四輪駆動のドライブトレインが搭載され、ピーク出力は1メガワット(1,341馬力に相当)を超える。これまでのものに圧倒的な差をつけ、ランボルギーニ史上最強となっている。

デュアルモーターシステムは、ランボルギーニが「特にダイナミックなコーナリング挙動」を実現するという電動トルクベクタリング機能をリアアクスルに搭載している。つまり、後輪間のトルク配分を変える機能を備えたリアの駆動により、激しい加速下でも確実にドリフト走行でコーナーを抜けられるというわけだ。

ランザドールは今後数年は発売される予定がないコンセプトモデルなので、バッテリー容量や電圧、航続距離など、より実用的な詳細についてはまだ明らかにされていない。ランボルギーニは同社初の量産EVは2028年に登場するとしている。

ランザドールには「長距離航続を保証する」と謳う「新世代の高性能バッテリー」が搭載されているようだ。しかし、ランボルギーニから正確な数値は公表されていない。「わたしたちにとって電動化は制限を意味するものではなく、より高いパフォーマンスとドライバビリティを開発するための機会なのです」と、最高技術責任者のルーベン・モールは説明している。

イタリアのランボルギーニやマラネッロにあるフェラーリのようなスーパーカーメーカーが将来的にEVを成功させるには、ドライビングプレジャーが欠かせないものになる。両社とも爆音をとどろかせるエンジンなしに興奮を届けるという課題に直面しているからだ。しかし、これはメーカーにとって何か新しいことに挑戦する機会でもある。

Photograph: Lamborghini

電動プラットフォームの可能性を示す1台

ランザドールにとってのその新しい挑戦が、ドライビングダイナミクスコントロールシステムのLDVI(ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・インテグラータ)だ。同社によると、「将来的にはさらに多くのセンサーとアクチュエーターがLDVIに統合され、ハードウェアとコンポーネントを管理する制御アルゴリズムに革新がもたらされることで、さらにきめ細かく正確な運転動作が実現される」という。

しかし、この多くのセンサーの統合が実際に何を意味するのかは、ほとんど明らかにされていない。それでも、電気スーパーカーの感触を心配する運転好きの血を騒がせるために、ランボルギーニは「制御システムに供給されるセンサーとデータが増えるほど、運転感覚やフィードバックのニュアンスを伝えるアルゴリズムがより洗練される」と付け加えている。

インテリアについては、ランザドールはコンセプトカーにありがちなお決まりの数々を回避することに成功している。ハンドルはダッシュボードの中に折り畳めず、ホログラムもないし、自律飛行するカメラ搭載のドローンがInstagramに自撮り写真をアップロードすることもない。新鮮でモダンなインテリアで、それがランザドールに信憑性をもたせている。10代の若者の寝室の壁に貼られるような現実離れしたコンセプトカーでもない。

「2+2」のレイアウトとは、運転席と助手席の後部に2つの小さなシートがあるということだ。その2列目の後ろには「あらゆる種類のスポーツ用品や荷物を運ぶ」目的に適しているとランボルギーニが説明する広々とした収納スペースがある。

実際、このコンセプトカーの紹介では当然のように、ぴったりのサイズのバッグ一式が添えられている。もしこのスペースが生産にこぎ着けられるなら、少なくともランボルギーニとしてはランザドールはある程度は実用的なクルマになるだろう。

ノーズの下にエンジンがないのでフロントトランクもあり、大きなガラス製のテールゲートは大きく開いて簡単に利用できる。これは1970年代のランボルギーニ「Espada(エスパーダ)」を彷彿させるデザインだ。

2023年のコンセプトカーは、リサイクル素材や持続可能な素材の採用なしには完成しない。ランボルギーニはランザドールに、オリーブオイルを生産する際に出た水でなめしたレザーのほか、再生可能なメリノウール、バイオマス樹脂で作られた「再生カーボン」、海洋から回収されたプラスチックを部分的に使用した合成糸、シートにはペットボトルなどの廃棄物のリサイクル素材を使用した3Dプリントフォームを採用している。

ランザドールは「Miura(ミウラ)」、カウンタック、アヴェンタドールといったランボルギーニの代表的なモデルと同じ血統の電気スーパーカーではない。そのようなモデルは今後登場することになるだろう。

いまのところは電動プラットフォームが自動車メーカーとそのデザイナーに新しいものを生み出す機会を与えることを示すもので、この場合はランボルギーニにとって4番目のモデルをつくる機会をどのように与えるかを示すデモンストレーションだ。

したがって、内燃機関が“非合法化”されたとき、ランボルギーニのスーパーカーがどのような外観、走り、サウンドになるのかといった厄介なトピックをうまく回避している。そもそも火を噴く公道レース用のクルマを求めていない新たな顧客を、いまのところは引きつけることができるかもしれない。

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』による電気自動車(EV)の関連記事はこちらクルマの関連記事はこちら


Related Articles
Lotus Eletre
ロータスが同社初のSUVとして、電気自動車(EV)の「ELETRE(エレトレ)」を発表した。高級車メーカーが次々に参入しているSUVだが、いかにもロータスらしい製品に仕上がっているようだ。

次の10年を見通す洞察力を手に入れる!
『WIRED』日本版のメンバーシップ会員 募集中!

次の10年を見通すためのインサイト(洞察)が詰まった選りすぐりのロングリード(長編記事)を、週替わりのテーマに合わせてお届けする会員サービス「WIRED SZ メンバーシップ」。無料で参加できるイベントも用意される刺激に満ちたサービスは、無料トライアルを実施中!詳細はこちら