スマートウォッチの新OSからテレビへのAI搭載まで、Androidプラットフォームで注目すべき進化のポイント

スマートフォンからスマートウォッチ、テレビ、自動車、そして次世代MRヘッドセットへの言及に至るまで、Androidプラットフォームの新機能についてグーグルが開発者会議「Google I/O」で発表した。その注目すべき進化のポイントについて紹介しよう。
Person's hands holding two Google Pixel 8a phones
Photograph: Google

グーグルの開発者会議「Google I/O」の2日目となった5月15日(米国時間)は、Androidのエコシステムのアップデートに焦点が絞られた。グーグルは最近、ハードウェアのラインナップ(「Pixel」シリーズのデバイス)をすべてAndroidプラットフォーム上に統合している。ここに含まれるデバイスは、Android(およびChromeOS)で動作するあらゆる製品だ。

すなわち、「Android 15」から「Wear OS 5」に至るまで、そのエコシステムのあらゆる面が明らかになっている。そのなかで注目すべき主な新機能について、以下に紹介していこう。

「Android 15」の主な新機能

グーグルの次期モバイルOS「Android 15」には、このOS独自の新たな機能が混在している。しかし、これらの機能の多くは「Play ストア」やアプリの更新を通じて既存のデバイスにも適用されることになる。つまり、OSをアップグレードする必要はない(どれがAndroid 15の独自機能なのかを以下で説明していく)。

なお、Android 15のベータ版をダウンロードしてインストールする方法や新機能の詳細については別の記事で解説しているが、ここでは特筆すべき新機能に絞って紹介していきたい。

“秘密の空間”をつくる「プライベート スペース」

さまざまなAndroidスマートフォンのメーカーが、特定のアプリを生体認証でロックして“隠す”方法を長年にわたって提供している。その機能が今回、「プライベート スペース(Private Space)」という名称でOS本体に組み込まれた。これはAndroid 15の独自機能だ。

OS全体の独自機能にした理由は、「アプリの情報がOS全体に漏洩してしまうルートがたくさんあったから」であると、グーグルでAndroidのエンジニアリング担当バイスプレジデントを務めるデイヴ・バークは説明している。この機能を実装するために開発チームは、Android 15を“手術”しなければならなかったという。今後はプライベート スペースに入れられたアプリはOS全体で完全に隠され、秘匿されることになる。

このプライベート スペースは、一覧に含まれるほかのアプリとは別に表示される。プライベートなアプリにアクセスするためのパスワード(デバイス本体のロックを解除するパスワードとは別)を設定することも可能だ。

プライベート スペースにアプリを入れると、そのアプリの通知も表示されなくなる。他人がスマートフォンの設定をいじろうとしても、手が届くことはない。プライベートな場所を一瞬で削除することもできる。

Courtesy of Google
盗難を検知してデバイスをロック

この機能はAndroid 15限定ではなく、今年後半に実装される。グーグルによると、スマートフォンの使用中に盗難に遭った場合に「Google AI」を駆使してそれを検知するという。つまり、自分がスマートフォンをもってランニングに出かける場合と、誰かが盗んで徒歩やバイク、自動車で走り去る場合とを区別できるわけだ。Androidが盗難を検知すると本体を確実にロックし、アプリや個人情報にアクセスされることを防ぐ。

デバイスがオフラインになった場合でもロックされる。つまり、誰かが工場出荷時の状態にリセットしようとしても、デバイスを再起動するためのパスコードが必要になる。デバイスをリセットできなくしてしまうわけだ。

また、リモートで画面をロックできる「Remote Lock」という機能も追加された。自分の電話番号を登録しておけば、ほかのデバイス(友人の電話など)から電話して本人確認を実施し、自分のデバイスをロックできる。

Courtesy of Google

盗難対策としてもうひとつ。グーグルいわく、デバイス上の人工知能(AI)を駆使して詐欺やフィッシングに関与しているアプリをあぶり出す機能が、今年中に「Google Play プロテクト」に加わるという。

Google Play プロテクトはすでにそうした機能をクラウドで実行しているが、自らの挙動を隠す機能を備えた悪意あるソフトウェアが複数存在している。そこで保護機能をデバイス上で動作させることで、アプリが重要な許可をどう出しているのかを把握し、疑わしい挙動を見抜けるわけだ。しかも、その際に個人のデータは収集されない。

撮影するだけでGoogle ウォレットに登録

「Google ウォレット」には決済以外の機能もある。クレジットカードのほかにもポイントカードやフィットネスクラブの会員証、交通機関の定期券、コンサートのチケット、飛行機の搭乗券などを登録できるのだ。

今年中に予定されているアップデートでは、実物の写真を撮るだけでデジタル版のカードを作成できるようになる。その写真(駐車券や図書館カード、クルマの保険証などが考えられるだろう)をGoogle ウォレットにアップロードすればデジタル版が作成され、すぐにアクセスできるというわけだ。とはいえ、それらの「デジタルカード」を実際に利用できるかどうかは、また別の問題だろう。

Courtesy of Google

“予告”されたMRヘッドセット

お忘れの方もいるかもしれないが、サムスンとグーグルはクアルコムとともに複合現実(MR)ヘッドセットの開発に取り組んでいる。この提携は昨年発表され、2024年の後半には製品が披露されるという想定だった。

グーグルは「ヘッドセットの開発についてGoogle I/Oで発表する情報はない」と説明していたが、「Google マップ」を利用した拡張現実(AR)体験への言及はあった。製品が完成すれば、こうした体験が実現する可能性がある。

また、Google マップでは特定の場所を検索する際にARコンテンツにもアクセスできるようになる。「AR体験」のボタンを押してスマートフォンを目の前に掲げると、現実世界にARコンテンツが重なって表示される。これはストリートビューを通して遠隔でも利用できるので、実際に地球の裏側まで行かなくても試すことが可能だ。

こうしたAR体験は、シンガポールとパリでの6カ月間の試験プログラムからスタートする予定だ。グーグルによると、これらの機能はグーグルのアート&カルチャーチームがシンガポール政府観光局と共同で構築しているという。「こうしたARの進歩は、Android エコシステムのためにサムスンおよびクアルコムと共同で構築しているエクステンデッド・リアリティ(XR)プラットフォームの基礎を築くものです」と、グーグルはプレスリリースで説明している。

グーグルのAndroid エコシステム担当プレジデントであるサミール・サマットは、グーグルはARとXRに独自の機会を与えたかったと語っており、今年後半の発売イベントの可能性を示唆した。「Android エコシステムの新しいフォームファクターとして紹介する必要があります。しかし、まだ多くのことが進行中なので、今回のイベントでは紹介しません」


ウェアラブルOSは「Wear OS 5」に進化

ウェアラブル端末用のOS「Wear OS」の改良を目的とした2022年のグーグルとサムスンの提携は、成果を上げているようだ。バークによると、Wear OSは23年にユーザー基盤を40%増やし、160以上の国と地域で利用されているという。

これは、より多くのメーカーがWear OSのプラットフォームに戻って来ていることに後押しされている。例えば、スマートフォンのメーカーとして知られるワンプラス(OnePlus、万普拉斯)、OPPO(広東欧珀移動通信)、シャオミ(小米集団)は、いずれもWear OSスマートウォッチを市場に投入している。

次のバージョンはAndroid 14をベースにした「Wear OS 5」で、今年後半に登場する予定だ。最大の目玉はバッテリー駆動時間の最適化である。バークによると、「Wear OS 4」からWear OS 5にアップグレードした現在のスマートウォッチは、マラソンをする際に消費する電力が自動的に最大20%削減されるという。これは非常に特殊な測定基準であるが(どれだけの人が毎日マラソンをしているかはわからない)、日常的な使用でバッテリー持続時間がきちんと延びることを意味していると期待している。

また、ランニング用の新しいデータタイプも追加された。これにより、アプリは接地時間や歩幅、上下動、上下動比など、より多くの種類のフィットネスデータを表示できるようになる。Wear OS 5のその他の改良点の多くは開発者向けのものであり、例えばより大きな時計画面用にアプリを最適化する際に便利なツールなどが提供される。


Android Autoで動画もストリーミング可能に

車載OS「Android Auto」は気に入っているだろうか。グーグルによると、Android Autoと互換性のあるクルマは現時点で2億台以上あり、スマートフォンを介さずにAndroid Autoを利用できるコネクテッドサービス「Google ビルトイン」を約40車種が搭載しているという。

Android Autoの最新アップデートは、より多くのアプリでこの体験を可能にすることに重点が置かれた。Maxなどの番組をストリーミングしたり、Google ビルトインを搭載した一部の車種では「アングリーバード」のようなミニゲームで遊んだりすることさえ可能になるという。

ただし、これらの新しいアプリは「駐車中アプリ」のカテゴリーに分類され、クルマが駐車中でなければ動作しないので安心してほしい。将来的には、その制限を超えて拡大する計画もあるという。

Courtesy of Google
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また、グーグルが長年にわたって提供してきたGoogle Castの技術が、電気自動車(EV)の新興メーカーであるリヴィアンを皮切りに、ついに「Android Automotive OS」を搭載した自動車に搭載される。これにより、駐車中であればスマートフォンからクルマのディスプレイに映像コンテンツをキャストすることが可能だ。


「Android TV」がGeminiで“スマート”に

最後はテレビ用OSの「Android TV」だ。グーグルの最新の統計によると、Android TVを搭載して稼働しているテレビは2億2,000万台以上、テレビメーカーのパートナーは300社以上、Android TVの普及率は前年比47%増となっている。バークはAndroid TVが「世界一のテレビOS」であると言う。

Courtesy of Google

このほどAndroid TVにもグーグルの大規模言語モデル(LLM)「Gemini」が搭載され、ホーム画面のコンテンツにはAIが生成した説明が表示されるようになる。これらはパーソナライズされているので、ジャンルや俳優の好みに基づいてユーザーごとに異なるものになる。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるAndroidの関連記事はこちらグーグルの関連記事はこちら


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