AIによるグーグルの新機能が、Chromebookにもやってくる

グーグルが「ChromeOS」に人工知能(AI)による機能を統合する。会話型AI「Gemini」やPixel 8から搭載された「編集マジック」などの新機能によって、Chromebookが進化することになる。
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PHOTOGRAPH: JULIAN CHOKKATTU

AI、AI、AI──。これはブラジルのシンガーソングライターのヴァネッサ・ダ・マタの曲の名ではなく、2024年のテック業界のテーマである。実際にマイクロソフトは、人工知能(AI)による新機能を搭載したノートPC「Surface」シリーズの新機種を5月20日(米国時間)に発表した。サムスンやASUS、エイサーなどのPCメーカーも、AIブームに乗じて新しいWindowsデバイスを市場に投入している。

グーグルも毎年恒例の開発者会議「Google I/O」で、5月14日(米国時間)に最新のAI機能を披露した。それらの機能の多くは、まもなくAndroidスマートフォンに搭載される。そして6月にはアップルが開発者会議「WWDC」を開催し、iOSやiPadOSに関しても「AI」という言葉が多く聞かれることだろう。

これらの動きは当然ながら、グーグルの「ChromeOS」を搭載したノートPC「Chromebook」もAIによって進化することを意味している。グーグルはChromebookの新しい規格である「Chromebook Plus」の新旧モデルに、会話型AI「Gemini」を搭載していくことになるのだ。

グーグルがChromebook Plusの規格を発表したのは昨年のことで、この呼称はChromeOSを搭載したノートPCのうち、AIによる機能を実行できるハードウェアの要件を満たした製品であることを意味する(Chromebook Plusの価格は350ドル=約55,000円以上となる)。

米国で新たにChromebook Plusを購入すると、「Google One AI プレミアム プラン」を12カ月にわたって無料で利用できる特典が付く。このプランにはGeminiの有料版「Gemini Advanced」も含まれているが、この有料版は無料版より能力が高い。一部のメーカーが今春から年内にかけて新型Chromebookを投入予定で、その多くはAIによる機能を備えている。

そんなChromeOSに新たに追加される主な機能について、以下に紹介していこう。

PHOTOGRAPH: JULIAN CHOKKATTU

AIによる新機能がChromeOSにも続々

これらの機能の多くはChromebook Plus限定で、一定レベルのパフォーマンスを確保するためにRAM容量とプロセッサーの性能に要件が設けられている。今回の記事もインテルの「Core i3」を搭載した「HP Chromebook Plus x360」で書いたのだが、20を超えるタブを開いた状態ですべて快調に動いている。

まず注目すべきが、あらゆるテキストボックスに対応した入力支援機能「Help Me Write」だ。テキストボックス内のテキストを選んで右クリックすると、表示されるメニューの隣にボックスが表示される。そこでAIに指示することで、選択したテキストを書き直したり、特定のスタイルに書き換えたりできる仕組みだ。

この記事のいくつかの文章で「Help Me Write」を試してみたが、提示された案はどれも気に入らなかった。効果は人によって異なるのかもしれないし、ことによると自分がグーグルのAIより優れた書き手であることの証拠なのだろうか?

PHOTOGRAPH: JULIAN CHOKKATTU

さらにグーグルは、Androidに採用したAIによる壁紙生成機能をChromeOSにも導入する。この機能はChromeOSの「壁紙とスタイル」の設定から利用可能で、特定のパラメーターに基づいて壁紙用の画像が自動生成される仕組みだ。

奇妙なことに、ビデオ通話アプリの使用中にも壁紙を生成できる。マイクとビデオカメラをオンにしているとシステムトレイの横にオプションの項目が表示されるので、そこから「AI壁紙(Create with AI)」へと進めば背景画像を生成できる。なぜ「ピンクと紫の花でできたシュールな自転車」の背景が必要なのかさっぱりわからないが、これがAIというものなのだろう。

もっと役立ちそうな機能も紹介したい。「Google フォト」の「編集マジック」だ。グーグルのスマートフォン「Pixel 8」で初めて登場した機能がChromebook Plusでも使えるようになる。

Google フォトで選んだ写真で「編集」を押すと、編集マジックのオプション項目が表示される(実際に編集するには別のツールをダウンロードする必要がある)。そして写真から不要な物体を消したり、被写体をフレーム内の別の場所に移動したり、背景を埋めたりすることが可能だ。実際に愛犬の写真に一緒に写っていたペンキの缶を消すことに成功したのだが、作業は一瞬で済む。

そして、会話型AI「Gemini」も搭載される。これは単独のアプリとして利用可能で、ありとあらゆる要求に応えてくれる。送り状を書いたり、複雑なトピックの要素を“分解”したり、どこかに旅行する際にアドバイスをもらったりできるのだ。一方で、ご存じのように内容を再チェックして“幻覚”(ハルシネーション)がないか確認する必要がある。

有料版の「Gemini Advanced」を利用したいなら、米国ではChromebook Plusを年内に新たに購入すれば12カ月無料で利用できる特典が用意された。これは厳密には「Google One AI プレミアム プラン」の無償提供で、「Gemini for Workspace」や2TBのクラウドストレージなどが含まれている。

Photograph: Julian Chokkattu

従来のChromebook対応の新機能も用意

Chromebook Plusのユーザーでなくても、あまり心配することはない。すべてのChromebookに搭載される新機能も、いくつか用意された。

まず、AndroidスマートフォンでQRコードをスキャンするだけでChromebookを設定できる機能が追加されている。これはスマートフォンに保存されているWi-Fiの認証情報をPCと共有する仕組みなので、パスワードを覚えていなくても問題ない。

さらに、やることリストのアプリ「Google ToDo リスト」が、ChromeOSのシステムトレイに統合された。日付をタップするとカレンダー上にToDoリストのウィジェットが表示され、やることリストを確認できる。そこで項目を削除したり、新たに追加したりすることが可能だ。

「ゲーム ダッシュボード」の機能も用意され、操作ボタンを割り当てたり、音声入りのゲーム実況を記録したりできるようになった。標準搭載された記録ツールによって、動画をGIF形式で保存することもできる。

PHOTOGRAPH: JULIAN CHOKKATTU

このほど開催されたメディア向けの発表会で一部の新機能を体験したが、なかでも特筆すべきは「Hands-Free Control」だろう。これはグーグルが開発者会議で発表したオープンソースのAndroid用アクセシビリティツール「Project Gameface」を応用した機能で、ゲームをプレイする際に顔のジェスチャーや頭の動きでカーソルを動かすなどして、顔をマウス代わりに使えるというものだ。

発表会の会場では、実際に頭と顔でChromeOSを動かしている人もいた。頭をわずかに回転させることでマウスを動かし、ブラウザーのタブを終了させたり、カーソルをテキストボックスに動かした後に音声入力したりしていたのである。グーグルによると、このアクセシビリティ機能はChromebookにまもなく搭載されるという。

PHOTOGRAPH: JULIAN CHOKKATTU

さらに、Geminiを応用した「Help Me Read」の機能も搭載される。右クリックから機能を呼び出すことで、ウェブサイトやPDFの内容をGeminiに要約してもらうようなことができるのだ。従来型のチャットのインターフェイスから、関連する質問を投げかけることもできる。

会場で披露されたデモでは、Wikipediaのページを要約するようにGeminiに指示した後で、さらに深掘りした質問をして詳しい情報を手に入れていた。画面をスクロールしたり、さらに情報を検索したりする必要はない。

またChromebookを開くと、新しい「概要モード」の画面が常に開かれるようになる。この画面にはブラウザーのウィンドウやタブ、アプリで開いているものが表示されると同時に、ほかのデバイスで共有すべきコンテンツを提案してくれる。つまり、スマートフォンで読んでいた記事の続きを、ノートPCに切り替えた後もそのまま読めるようになるわけだ。

新しいChromebookも発売へ

ちなみに、これから発売される製品を含む最新のChromebookは以下の通り[編註:日本未発売のモデルも含まれる]。新しいAI機能を活用できるのは「Chromebook Plus」に限られるが、以下のすべてが「Chromebook Plus」というわけではない。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるグーグルの関連記事はこちら


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