新興EVメーカーのフィスカーが生産停止、大手との提携を模索も漂う暗雲

経営難にある電気自動車(EV)の新興メーカーのフィスカーが、生産を6週間にわたって停止すると発表した。破産申請の可能性も指摘されるなか大手自動車メーカーとの提携を模索しているが、その先行きには暗雲が立ち込めている。
The Fisker Ocean electric sports utility vehicle on display
Photograph: Kyle Grillot/Getty Images

経営難で破産申請の準備を進めていると報道されていた電気自動車(EV)の新興メーカーであるフィスカーが、生産を一時的に停止すると3月18日(米国時間)に発表した。「在庫レベルを調整し、戦略的な取り組みと資金調達を進めるために、2024年3月18日の週から6週間にわたって生産を一時停止する」と、フィスカーは声明を出している

さらにフィスカーは、既存の投資家から「最大1億5,000万ドル」の資金調達のコミットメントを得たことも明らかにした。この資金調達は4つの段階に分けられているが、必ずしも保証されたものではない。

フィスカーによると、2023年度の「Form 10-K」(日本の有価証券報告書に相当する年次報告書)の提出を含む「一定の条件」に基づくという。この「一定の条件」とは具体的に何を指すのかをフィスカーの広報担当者に確認したが、詳細な説明は得られていない。

日産との提携を模索?

米国におけるEVの販売は全体的に鈍化しているが、なかでもフィスカーは特に苦境に立たされている。自動車部品や受託生産で知られるマグナ・インターナショナルに生産を委託(生産は傘下のマグナ・シュタイヤーが担当)したことで、フィスカーは品質管理のレベルを下げてしまったのだ。

さらに、フィスカーはクルマの中身よりスタイルのほうを優先したようで、電気SUV「Fisker Ocean(オーシャン)」の構造やソフトウェアの問題がそれを裏付けている。こうした問題は、自動車業界においては長年にわたる自動車づくりの経験に代わるものなどない、という見方に拍車をかけている。例えば、BMWのようにだ。

フィスカーは、おそらく“救命ボート”を探しているのだろう。フィスカーによると、「ある大手自動車メーカー」からの投資のほか、1つ以上のEV用プラットフォームの共同開発、北米での生産について交渉中だ。ロイター通信の報道によると、その相手は日産自動車であるという。

だが、この交渉が実を結ぶ状況からはほど遠いようだ。フィスカーの声明には、「いかなる取引もデューデリジェンスの完了、適切な最終契約の交渉と締結など、重要な条件が満たされることを条件とする」とも書かれている。

あまりに不完全だった電気SUV

フィスカーの電気SUV「Ocean」は『WIRED』が2023年7月に試乗レビューしているが、この試乗車が“未完成”の状態だったことで、適切に評価できないという前代未聞の状況に追い込まれたことがある。

このOceanの試乗車はペダルからきしむような音が出ていたほか、フロントガラス以外の窓を全開にできる「カリフォルニア・モード」が動作しなかった。またハンドリングもひどいものだったが、これは本来ならソフトウェアのアップデートで修正されるはずだった問題である。

要するに、あまりに多くの機能が欠けていたり“近日公開”の状況にあったりしたことで、フィスカーのOceanは適切に評価できないEVだったのだ。

この電気SUVは、発売からずっと品質問題に悩まされている。いきなり出力が落ちてしまうトラブルのほか、リモコンキー(キーフォブ)やセンサーの不具合、 急にボンネットが開いてしまう問題、ブレーキの不具合などが、購入した人々から指摘されてきたのだ。

例えば、フィスカーの役員であるウェンディ・グリューエルのOceanが納車された直後、公道を走行中にクルマの出力が完全にダウンする事態が起きている。またテック系メディア「TechCrunch」が確認した内部文書のキャッシュ情報によると、フィスカーの最高財務責任者(CFO)兼最高執行責任者(COO)で共同創業者ヘンリック・フィスカーの妻でもあるギータ・グプタ・フィスカーは、Oceanを運転中に電源が落ちる事態に見舞われたという。

事業継続の前提に「相当な疑義」

これ以前のフィスカーも波瀾万丈の歴史を刻んできた。共同創業者であるヘンリック・フィスカーはBMWやフォードを経て、アストンマーティンでデザイン・ディレクターを務めた人物である。そんなフィスカーが、自身の名を冠したクルマをOceanより前に最後に発表したのは、10年以上も前のことだ。

プラグインハイブリッドの高級スポーツセダンだった「Fisker Karma」は多くの点で時代を先取りしていたが、さまざまな問題に見舞われていた。自動車テストで定評のある米国の消費者情報誌『Consumer Reports』でも厳しい評価が下されたほか、車両が燃えるといった問題も起きたのである。

こうしたなか、フィスカーの現状は暗いようだ。フィスカーによると現在の在庫は約4,700台で、これには2023年と24年の生産分が含まれるという。これらの在庫の評価額は2億ドル(約300億円)を超えると、フィスカーはみている。また、フィスカーは今年に入ってから1,300台を納車しており、23年には4,900台を顧客に出荷したという。

フィスカーは昨年の売上高が2億7,300万ドルで、負債が10億ドル以上だったことを今年2月に公表している。事業継続の前提に「相当な疑義がある」との警告も出していたことから、長期の生産停止はフィスカーの今後についての疑念をさらに強めることになりそうだ。

(Originally published on wired.com. Translated by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』による電気自動車(EV)の関連記事はこちら


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