ウクライナは、AIを利用する「国産ドローン」開発を探求している

ロシア軍の侵攻に対抗するため、ウクライナはこれまでもドローン技術を積極的に軍事転用してきた。ロシアが「ありとあらゆる進路と方向からの攻撃」を仕掛けようとするなか、AI分野での競争は不可欠だと、ウクライナのデジタル変革担当大臣であるミハイロ・フェドロフは言う。
Mykhailo Fedorov
ウクライナ副首相兼デジタル変革担当大臣のミハイロ・フェドロフ。Photograph: Aleksandr Gusev/Getty Images

ロシアによるウクライナ侵攻が本格化して1年と数カ月が過ぎた。これまでに数百万人が家を追われ世界規模で食料が不足するようになったが、今後これはさらに拡大していく恐れがある。そしてこの戦争では、新たなテクノロジー、とりわけ商業分野から転用されたテクノロジーにより、従来の軍事戦略が根本から変化してきている。

ウクライナはこれまでの間、自分たちよりも格段に規模の大きいロシア軍に対して抵抗を続けてきた。それを支えてきた要素のひとつが、積極的に新たなテクノロジーを取り入れようとする姿勢だ。必要に迫れらたことで、ウクライナは様々な新技術を実験的に軍事利用しており、その中には本来軍事用ではない技術も含まれる。

先日、ウクライナ副首相兼デジタル変革担当大臣のミハイロ・フェドロフを取材し、新しいテクノロジーを活用して戦力を強化する国の方針について話を聞いた。32歳のフェドロフは、ウクライナ国内の非公開の場所から、通訳を介してZoom取材に応じた。話はドローンをはじめとする高度な自律制御システムの開発計画から、軍事分野のスタートアップ支援にまで及んだ。

国をあげてドローン開発に取り組む

「テクノロジーはウクライナに影響を与え、状況を改善させてきました。いま私たちは軍事技術の向上に取り組んでいます」とフェドロフは言う。ウクライナはこれまでに“ドローン軍”と題されたプロジェクトを立ち上げ、海外の個人や企業に商用ドローンの提供を呼びかけてきた。フェドロフはこれをひとつの成功例として捉え、今後はここから発展させていきたいと述べる。

ウクライナによる革新的なドローンの軍事利用は、戦闘に対する従来の考え方を一変させた。戦争が始まった当初、ウクライナはトルコ製のドローン「バイラクタルTB2」を使用していた。これはスマートさこそないが安価で効果的なドローンであり、ロシア軍の大規模な戦車部隊を見つけては撃退し、士気を高揚させた。

戦況が進むにつれ、ウクライナはDJIをはじめとする企業の商用モデルや、農業用、産業用モデルを改造したドローンを採用するようになった。これらのドローンは本来は軍事用ではないが、敵の発見や小規模の対地攻撃を遂行し、ロシア軍地上部隊への対抗策として活用されている。

しかし最近になって、ロシアは商用ドローンの制御システムを妨害する技術を得た。ウクライナはこれに対応するため、より強力なドローンを国内で開発できるよう目指してきた。例えばウクライナのメーカーSpaitechはさまざまな種類のドローンを開発しており、今年2月には厳しい気象状況にも対応できるクアッドコプター「Windhover」試験飛行を行った。

フェドロフによれば、ウクライナ政府は企業向けの助成金を用意している。国内企業がドローンの増産に取り組み、最終的にはドローン製造を国内産業として発展させることを目指しているのだ。「民間のスタートアップ向けに、イノベーション開発基金を設けています。また近日中に、企業、行政、軍を繋ぐためのプラットフォームであるDefense Tech Clusterを立ち上げる予定です」(4月26日に正式に運用開始された)

Defense Tech Clusterは軍事関連企業に向けて資金援助をはじめとした支援を提供する。こうした取り組みを通し、ウクライナは戦争努力をハイテク防衛産業の発展に転ずることを見据えている。フェドロフによれば、戦争が始まって以来、国内の軍事分野のスタートアップは10倍に増えた。人間は必要に迫られた時にこそ新たな発明を生み出すということだろう。

外国企業の参入、特にクラウドビジネスと防衛産業からの協力も歓迎する、とフェドロフは言い添える。たいていの企業にとって戦場に身を置くことは好ましくはないが、中にはそれがプラスに働くビジネスもある。「現在のウクライナは、新しいテクノロジーを形にして現場に導入するには絶好の場です」

今回の戦争は新世代の自律型兵器が初めて試される場にもなった。黒海海上の戦艦から多数のミサイルを発射するロシアに対し、ウクライナは爆弾を搭載できる小型のドローン船を展開してきた。これに応じてロシアもドローンによる海上攻撃で報復した。「我々の海軍ドローンはかなり改良が進んでいます」とフェドロフは説明する。黒海では「ドローンで構成された船団がうまく機能しています」とのことだ。

完全自律型兵器の可能性

ウクライナは、人間の操作に頼らずにドローンを効果的に運用するため、人工知能(AI)ソフトウェアの開発も目指しているという。「海軍のドローンは自動運転と人間による操作のどちらでも使えます。現在は標的の認識に人工知能を使っています」

最近のAIの進化のおかげで、現時点では遠隔操作の要員が必要なシステムにも、低コストで自律機能を追加できるようになる見込みだ。ただし、こうした転換には異論もある。自らのタイミングで標的を攻撃できる完全自律型兵器の開発に向けたハードルが下がるためだ。

以前、取材したドローンの操縦をするウクライナ人が、上空のドローンに搭載されたカメラによってAIに目標物を特定させる実演を見たと話してくれた。AIを使うことで、標的を探し出すプロセスが短縮され、カモフラージュされている標的も発見可能になるかもしれない。フェドロフはAIについて「標的の認識をはじめ複数の目的に使えるが、目的の内容については公に明かせないものもある」と話す。

ロシアも「AIを使った戦術を積極的に取り入れている」とフェドロフは認識している。ロシアはこれまでに、なんらかの自律機能をもつドローンを使用したことがわかっている。ロシアが「ありとあらゆる進路と方向からの攻撃」を仕掛けようとするなか、AI分野の競争は不可欠だとフェドロフは言う。

ひとつ核心に迫る質問をしてみた。ウクライナは、完全な自律モードで稼働できる兵器、標的を攻撃するかどうかまでの決定も下せる技術を開発できているのだろうか。フェドロフは次のように答えた。「それはいまここではお答えできない種類の質問です。答えが開示され機密情報ではなくなるのは、勝利を手にしたあとです」

WIRED US/Translation by Noriko Ishigaki/Edit by Ryota Susaki)

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