AIで刷新されたSiriから進化した新OSまで、アップルが「WWDC 2024」で発表した13のこと

アップルの開発者会議「WWDC 2024」が開幕し、AIを用いた新機能の数々や新しいOSが発表された。「Apple Intelligence」から新しいSiri、次期iOSから「visionOS 2」まで、その内容をすべて紹介しよう。
Tim Cook CEO of Apple speaks during an announcement of new products at the WWDC developer conference
Photograph: Andrej Sokolow/Getty Images

アップルは通常、年に一度の開発者向けカンファレンス「WWDC」でソフトウェアの大型アップデートを発表し、新しいデバイスを紹介する。ところが、今年のアップルはガジェットの話は脇に置き、誰もがメインの話題になるだろうと予想していたことに時間を費やした。iPhone、iPad、Macに搭載される最新のAI機能である。

当然のことながらアップルは、人工知能(AI)の“パーティー”には遅れてやってきた立場にある。現在の“AI軍拡競争”の足がかりを得るには、より実績のあるAI企業と提携する必要があるわけだ。

こうしたなか、アップルがグーグルと提携して「Gemini」をiPhoneに搭載する可能性があるという噂が今年4月に流れたが、それは実現しなかったようだ。代わりにアップルが選んだパートナーは、OpenAIである。

以下にアップルがWWDCで発表したことを紹介していく。これらの機能のほとんどは、アップルがソフトウェアをアップデートする秋には利用可能になる見通しだ。

1.どこでも使える「Apple Intelligence」

アップルの世界において「AI」は人工知能の略ではない。「Apple Intelligence」の略である。

事前録画されたデモでアップルは、これらの新しいAI機能とユーザーがどのように接することになるのかビジョンを示していた。デモではパーソナライズされたタスクの処理に焦点を当てながら、AIが支援する機能の有用性を強調している。そしてAIを使うことで、iPhoneのユーザーに高度にパーソナライズされた体験を提供できるというのだ。

アップルのAIは、メールやレポート、個人的なメッセージの作成を支援する機能をもつ。また、メッセージ内での会話の文脈から情報を得て、まったく新しい画像を生成することもできる。例えば、友人と屋上でパーティーを開くことについてチャットしているときに、そのパーティーのイメージを生成できるわけだ。

また、会話している相手のAI画像を生成することもできる。例えば、あなたが母親にメッセージしている際に、AIは母親の顔が写っていると認識した写真と連携して、その写真に基づいて母親のイラストを生成できるわけだ(あなたの母親がうちの母のような人なら、この機能を心から嫌がることだろう)。

Apple Intelligenceは、高度な文章生成ツールも搭載している。“完璧”なメールやメッセージを生成したり、書いたものを修正して仕事らしいメールに書き直したりして、後で後悔するようなことがないようにサポートしてくれるのだ。また、文章の要約機能も備えているので、ウェブ記事の要点を伝えたりできるほか、しばらく離れていたグループチャットに戻ってきたときに便利だ。

「Apple Intelligence」を発表する、アップルのソフトウェア開発担当シニアバイスプレジデントのクレイグ・フェデリギ。

Photograph: Apple

こうした要約の機能は、他の大手AI企業も以前から手がけている。グーグルはすでに検索結果を要約する「AI Overviews」を提供しているが、最近になって物議を醸している。誤解を招きかねない結果や、ときには明らかに間違っている結果を示すことが指摘されたほか、著作権のあるコンテンツを“吸い上げていた”ことが明らかになったからだ。

アップルが提供するAI機能については、その多くのデータがデバイス側で非公開の状態で処理されることになる。そして必要な場合だけクラウド側の安全な領域で処理されることを、アップルは強調していた。

アップルの「Siri」はChatGPTと連携して動作する。

Photograph: Apple

さらに、アップルとOpenAIとのパートナーシップによってiOSに新たに追加される機能もある。Siriに対する指示や文章を生成する指示を、AIモデル「GPT-4o」を搭載した会話型AI「ChatGPT」に渡せるというものだ。

OpenAIの最高経営責任者(CEO)のサム・アルトマンはアップルの基調講演の映像には登場しなかったが、発表当日にアップルの本社内で目撃されている。この新しいパートナーシップについては、すでに公開した別の記事を読んでほしい。

なお、Apple Intelligenceが動作するためには、「A17」チップを搭載したiPhoneか、少なくとも「M1」チップを搭載したデバイスを必要とする。つまり、「iPhone 15 Pro」と「iPhone 15 Pro Max」、今秋にも発売される新型iPhoneのほか、「M1」チップ以降を搭載したiPadやMacで動作することになる。

2. 全面刷新された「Siri」

長年にわたって愛されてきたアップルのデジタルアシスタント「Siri」が、AIによってパワーアップする。アップルによると、Siriはさらに賢くなり、意図や文脈を判断し、より複雑な情報を読み解けるようになったという。

また、Siriに対して連続した指示や問いかけが可能になる。つまり、それらの指示が相互に関連していることを認識できるようになるわけだ。これはAIの世界において「コンテキスト・アウェアネス」として知られている概念である。

Siriは多くのタスクをこなせるようになり、アラームの設定くらいにしか使えない時代よりずっと役立つようになった。強化されたSiriの機能はアップルの中核アプリに統合されるほか、開発者は新しいSiriの機能を自分のアプリにも追加できるようになる。

全面刷新された「Siri」が動作する様子。

新しいSiriは文章による指示も可能だ。例えば、深夜に声を出して隣で寝ている人を起こすことなく、アラームをセットするように依頼できる(「Google アシスタント」には以前からある機能だ)。

そしてSiriのインターフェイスの見た目が新しくなった。「無限大」の記号を思わせる新しいロゴが用意されたほか、Siriが音声による指示を聴いているときや応答を生成しているときにiPhoneの画面全体にカラフルなリングが表示される。

3.写真を補正する機能

「写真」アプリには編集機能が追加され、写真をより細かく補正したり、人や物体を消したりできるようになる(これらはすべて、すでにグーグルの「Pixel」やサムスンの「Galaxy」に搭載されている機能だ)。

「iOS 18」の新しい「写真」アプリ。

Photograph: Apple

さらにアップルは、写真の整理整頓をより便利なものにしようとしている。Apple Intelligence機能によって連絡先の人物を認識したうえで、写真を見つけやすいようにグループ化できるようになるのだ。Apple Intelligenceを活用することで、例えば「公園のベンチでスケートボードに乗っているジーナの写真」といった具合に、より自然な検索ワードで写真を探すこともできる。

ビーチで撮った写真から、物体や背景の人物を消すようなことが可能になる。

Video: Apple

4. 自動生成される絵文字「Genmoji」

新しいAI機能によって、その場で絵文字を生成することも可能になる。この「Genmoji(ジェンモジ)」と呼ばれる新しい機能を使えば、プロンプトを入力することでメッセージの雰囲気に合った新しい絵文字を生成可能だ。

古典的な絵文字を混ぜることもできるし、そのときの気分に合わせて新しい絵文字を生成することもできる。チーズバーガーに乗ったナスの絵文字が欲しい? きっとつくれることだろう。

そして、この機能の名称は「Genmoji」なのだ。おもしろいと感じたら笑ったって構わない!

Genmojiが生成される様子。

Photograph: Apple

5. iOSのカスタマイズ機能が充実

今秋のアップデートでiOSにもたらされる進化の多くは、実はAIとは関係ない。WWDCでの重要なテーマのひとつは「カスタマイズの強化」で、アプリをさらにうまく分類して画面上に自分好みに並べて、アプリを利用しやすくする方法をアップルは披露した。

具体的には、アプリのアイコンを好きなように配置し、色を変えたり、iOSの画面の見慣れたグリッド上の好きな場所に移動させたりできる。また、顔認証機能「Face ID」でしかアクセスできないロックされたフォルダーにアプリを隠すことも可能だ。これにより、XやOnlyFansの利用履歴を誰かに見られたりしないようにもできる。

ホーム画面を自由にカスタマイズできるようになる。

Photograph: Apple

「メッセージ」にも便利なアップデートが予定されている。なかでも重要な機能が、これまでなぜか対応してこなかったメッセージの送信予約だろう。また、文章の字体を変えたり、楽しげな効果で装飾したり、指先ひとつで絵文字で返信したりできる機能も追加される。

メッセージに絵文字で反応できる「Tapback」の機能も進化。

Photograph: Apple

衛星通信でのメッセージ機能にもiOS 18で対応する。

Photograph: Apple

6.新しいmacOS「Sequoia」

アップルの新しいmacOSの名称は「macOS Sequoia」に決まった。今回のデモで特に目を引いた機能は、「iPhoneミラーリング」と呼ばれるものだ。iPhoneとMacを同期させ、Macの画面からiPhoneのほぼすべてを操作できる。電話をかけたり、アプリ内で作業をしたり、ホーム画面を操作したりできるのだ。この操作をしている間、iPhoneはロックされたままである。

macOS Sequoiaの画面。

Photograph: Apple

また、ウェブブラウザー「Safari」はSequoiaで新しくなる。新しい「ハイライト機能」が用意され、ウェブサイトや検索結果に含まれる最も適切な情報を要約することが可能になる。

例えば映画や音楽を検索している場合は、検索結果の映像や音のプレビューが即座にポップアップ表示される。検索したレストランへの道順を示したり、メニューやレビューを瞬時に表示したりすることも可能だ。

「iPhoneミラーリング」が動作している様子。

Photograph: Apple

また、ゲームとゲーム開発者向けの支援機能がさらに充実する。ゲーム用の開発ツールの新バージョンである「Game Porting Toolkit 2」のほか、アップルのすべてのデバイスとプラットフォームで動作するゲームを開発できるようにする新しいXcodeへの対応などが盛り込まれた。

7.iPadに「電卓」機能などが新たに追加

iPadには、ユーザー体験をより直感的にすることを目的としたインターフェイスのアップデートが施された。

例えば、一部のアプリケーションの上部に表示されるフローティングタブバーを使えば、作業から一時的に離れやすくなる。また、コントロールセンターのカスタマイズ機能も改善された。

iPadOSの新機能は、手書きの“落書き”のような文字を整えてフォントにしてくれる。コピー&ペーストも可能だ。

Video: Apple

しかし、人々が最も喜んでいることは、ついに「電卓」アプリがiPadに導入されたことだろう。新しいアプリは電卓として使えるだけではない。「Apple Pencil」(または指)を使って視覚的に数式を入力して数学の問題を解ける「計算メモ」という新機能を備えている。数学の宿題をカンニングしたい子どもたちにとっては、天の恵みになるに違いない。

ペン入力や指で数式などを入力して、問題を解けるようになる。

Video: Apple

8.Apple Watchのトラッキング機能が充実

Apple Watchがアップデートされ、ガーミンのデバイスのようなスポーツウォッチに匹敵するヘルストラッキング機能が新たに追加される。

新たに追加される「トレーニングの負荷」は、ワークアウトの最中にどれだけハードに運動したのかを分析し、ワークアウトの継続時間や時間経過による変化を追跡してくれる。新しい「バイタル」アプリは1日を通して健康状態をモニタリングして、飲み過ぎを教えてくれるようなこともあるだろう。

watchOSはこれまで以上にトラッキング機能が充実する。

Photograph: Apple

9. 「パスワード」アプリが登場

セキュリティを強化すべく、OSのプラットフォーム全体で独自のパスワード専用アプリが用意される。このアプリは他の多くのパスワード管理アプリと同じように機能し、すべてのログインに対して強力なパスワードを生成できる。ログインIDやパスワード、認証コードなどを保存し、パスワードの漏えいやセキュリティ侵害の可能性を監視してフラグを立てることで、すべての認証情報を安全に保つことができるわけだ。なお、この機能はWindowsユーザーも「iCloud for Windows」から利用できる。

新しい「パスワード」アプリ。

Photograph: Apple

10. iPhone同士を近づけるだけで送金

アップルの「ウォレット」アプリに、これまでよりずっと簡単に送金できる新機能が追加された。新機能「Tap to Cash」を使えば、2台のiPhoneを近づけるだけでApple Cashの送信や受領ができまる[編註:日本では未対応]。友人との飲み会の支払いも簡単になることだろう。

11. 「AirPods」がもっとスマートに

アップルのワイヤレスイヤフォン「AirPods」には、新しいジェスチャーコントロール機能が追加される。例えば、電話への着信に応答するときはうなづいて、着信拒否する場合は首を振るといった具合だ。

また、音の遮断やノイズキャンセリング機能も強化される。近所の工事現場の騒音に悩まされていても、会話が聞き取りやすくなりそうだ。

AirPodsがジェスチャーコントロールに対応。

Photograph: Apple

12.「Apple TV+」の新機能

アップルは「Apple TV+」のプラットフォームに、いくつかの新しいソフトウェア機能を追加する。アクセシビリティに関するアップデートがいくつかあり、例えば、映画などの劇中で会話が交わされている際に音を消すと字幕が表示されたり、少し巻き戻して再生する際にポップアップ表示されたりする。

また、視聴中の番組を一時停止した場合にポップアップ表示される「In Sights」と呼ばれる新しいバナーの機能も用意された。画面上の俳優の名前と顔、演じているキャラクターが表示されるほか、そのシーンで流れている曲を特定することもできる(Amazon プライム・ビデオでは、「X-Ray」と呼ばれる機能でこれも可能だ)。

13. 「Apple Vision Pro」のOSも進化

複合現実(MR)ヘッドセット「Apple Vision Pro」は今年2月に発売されたばかりだが、このデバイス用のOS「visionOS」に初の実質的なアップデートを発表した。発売当初のVision Proは一部の評価が芳しくなかったことから、支持を拡大するためには機能の強化が求められている。

Vision Proにとって最大のアップデートは「空間写真」にもたらされる。これには、通常の写真データに立体的な奥行きと動きをもたらすことで、空間写真のように見せる機能も含まれる。

「空間写真」をApple Vision Proで表示した様子。

Video: Apple

またアップルは「空間ビデオ」の機能も強化しており、Vimeoのような企業と提携してVision Pro用のアプリを用意している。ちなみに、まだYouTubeのアプリは用意されていない(アップルによると、Vision Proは互換性のある150万種のiPhoneアプリを実行できるという)。

また、visionOSにはハンドジェスチャーの認識機能が追加される。移動中にVision Proを使う際のトラベルモードには、新たに鉄道への対応も加わった。

アップルは今後数カ月のうちに、中国、日本、オーストラリア、カナダ、英国など、より多くの国でVision Proを発売する計画だ[編註:日本では6月14日の午前10時からApple Vision Proの予約がスタートする。価格は59万9,800円からとなる]。

(Originally published on wired.com, translated by Daisuke Takimoto)

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