App Store対抗の“新ストア”をアップルが却下、エピックゲームズとの対立が深まっている

アップルの「App Store」の代替となるアプリストアがアップルに“却下”されたとして、エピックゲームズがアップルへの非難を強めている。これは数億人ものユーザーに対する「アプリ販売の支配権」を誰が握るかという、より大きな戦いの一部だ。
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Photograph: ozgurdonmaz/ Getty Images

「フォートナイト」の開発元であるエピックゲームズが計画している「App Store」と競合するiOSアプリストアについて、その申請がアップル側に却下されたことを受け、エピックゲームズが7月6日(米国時間)にアップルを公に非難した。エピックがXで明らかにしたところによると、エピックのアプリストアのデザインがアップルのものに酷似しているという理由が、今回の却下につながったという。

これは先週、エピックが「Epic Games Store」のiOSバージョンをアップルに申請・提出した結果だ。この申請が通れば、iPhoneやiPadのユーザーはアップルのApp Storeを経由せずにゲームをダウンロードすることが可能になるはずだった。

「アップルによる却下は恣意的かつ妨害的で、欧州のデジタル市場法(DMA)に反するものです」とエピックは金曜にXでコメントを出し、エピックがすでに欧州委員会に懸念を伝えていることも明かした。エピックはアップルの審査を受けるためプロセスであるノータリゼーション(公証)の申請のためにEpic Game Storeについて申請したところ、先週だけで2回も却下されたという。

この件は、数億人にものぼるユーザーに対して誰がアプリ販売の支配権を握るかという、より大きな戦いの一部といえる。米国の超大手テック企業であるアップルはEUにおいて、DMAという新たな規制によって今年3月から欧州のiPhoneとiPad上でApp Storeの代替となるアプリストアを利用可能にすることを余儀なくされた。これがアップルにとって痛手となっている。

アップルのApp Store。

Courtesy of Apple

エピックゲームズによるアプリストアの案。

Courtesy of Epic

「アップルがわたしたちによるEpic Games Storeの公証申請を却下したことは、これで2回目になります。エピックの『インストール』ボタンのデザインと配置がアップルの『入手』ボタンに酷似していたり、エピックの『In-app purchases(アプリ内購入)』の名称がアップルの『In-App Purchases(アプリ内購入)』に酷似したりしている、というのがアップルの主張です」と、エピックは説明している。

エピックによると、ネーミングがアップルのApp Storeと似ている理由は「モバイルユーザーにとってわかりやすいストアをつくろうとしてのこと」だという。この件についてアップルにコメントを求めたが、回答は得られていない。

エピックはEUで「数カ月内」の提供開始を目指す

EUにおけるApp Storeのユーザー数は1億人以上にのぼる。「Epic Games Store」が提供開始されれば、ユーザーはアプリをどこからダウンロードするかについて初めて選択肢を与えられることになる。

そして、巨大テック企業がライバルの取り組みを阻止することで競争が抑止されていると主張する議員たちは、その瞬間を待ち望んでいる。「アップルのシステム内に代替となるアプリストアが立ち上がれば、DMAが競争を促進して消費者向けの料金を下げられることを示す大きな証拠になります」と、DMAの制定に携わった欧州議会議員のアンドレアス・シュワブは語っている。

エピックとアップルのライバル関係は長きにわたっている。2020年にエピックは、アップルによるiOS市場の独占が「不当かつ違法」であるとして、カリフォルニア州でアップルを提訴した。この裁判は米国において、(ほぼ)アップルの勝訴となっている。

これに対して欧州におけるエピックは、App Storeが開発者のビジネスやアプリ内購入で課される手数料にあまりに大きな支配力をふるっているとして怒りの声をあげる開発者コミュニティの一部となっている。

「アップルはアプリのプロバイダーに“身代金”を要求しているようなもので、まるでマフィアなんです」と、暗号化メールのプロバイダーであるTutaの最高経営責任者(CEO)兼共同創業者のマティアス・ファウは今年の取材において語っている。エピックによる代替ストアの申請はアップルと開発者の関係を変えうるものであり、他社による代替ストアの可能性を示す試金石ともいえるだろう。

Epic Games Storeは、PC、Mac、Androidではすでに利用可能になっている。ただし、「Google Play」には登録されていない。エピックは引き続きiOSバージョンの認可に向けて動く構えで、「わたしたちはアップルによる妨害をさらに乗り越えながら、iOS向けEpic Games Storeを数カ月内にEUで提供開始できる態勢を引き続き維持していきます」と説明している。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるアップルの関連記事はこちら


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