東京は薄曇り。この日のクルマはアバルト500e。チューンアップされた刺激的な走りと“スコルピオーネ”のエンブレムで知られるブランド初のBEVだ。
1950年代のイタリアで、国民車のフィアットを格別なレーシングカーへと仕立て上げる才と技により、熱狂的かつすこぶるニッチな人気を博したという出自(現在はフィアット社の傘下)からもわかる通り、ありていに言ってノーマルな電気自動車(EV)ではない。
先行モデルのフィアット500eをベースにしながら、デザインはより先進的かつスポーティに、走りはよりパワフルに。最大出力は3割も増えている。が、バッテリーはそのままの容量なので、航続距離は1割ほど短いとか。
でもまあ、そんなことを気にするようなら、このクルマはお勧めできない。なにしろ車体後部の床下にわざわざスピーカーを付け、走行と巧みにリンクしたエンジン音(ファンからは“レコードモンツァ”の音と呼ばれる)を響かせる機能まであるのだから。合理的な電力消費を求めたら、この「サウンドジェネレーター」という素敵な機能のスイッチを、オンにできそうもないではないか。
ここでガーナより入電。なみちえとハンズフリーで会話する。フィアット愛好家の彼女は歯ぎしりしていた。
「すごく乗ってみたかったクルマのひとつです。ガーナで給電スポットは見たことないので、こっちでは乗れませんけど」
そして500eの“エンジン音”についてこうも話した。
「合理性から離れたところに、人として大切なことがあるってことですよね。ガーナでは知らない人でもクルマに乗り合わせるんです。歩くのが大変そうなら助けてあげる。理由はそれだけ。だからUberは流行らないだろうし、そういう社会のほうが生きていて楽しいですよね」
なるほど。追って届いたプレイリストは、エネルギーに満ちたご機嫌なアフリカンビートだった。
CAR
PLAY LIST
DRIVER (Remote)
Edited by Satoshi Taguchi
※ 雑誌『WIRED』日本版 VOL.52 特集「FASHION FUTURE AH!」より転載。
※『WIRED』によるCarの関連記事はこちら。
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