いくぶん挑戦的なEVとなめらかさ
小春日和の湘南で、なみちえは海沿いをドライヴしている。クルマはBYD ATTO 3。2023年に日本上陸を果たした中国の電気自動車(EV)メーカーのSUVだ。
すこぶるコンパクトではないけれど、アクセルペダルを踏み込めば軽々と走り出し(いわく、いいヌルッと感)、心地よく加速。床下のバッテリーが重心を低くして、ステアリングを切ってもバタつかない。つまりすごくEVらしい走りをする。しかも電費効率も上々で、これは電池の開発製造を祖業とするメーカーならではだろう。
「外観は飾り気のないデザインなのに、インテリアはけっこうアグレッシブですよね。トレーニングルームみたいだし、ディスプレイが回転したり、ドアハンドルとスピーカーが一体だったり。だけど運転し始めたら、ふつうに快適でリラックスできる」
なんだか不思議なバランス。EVの造反有理! というほどでもないが、長足の成長を遂げる新進のモビリティメーカーの、挑戦的姿勢の発露ではあるまいか。中国製=低品質なんていう時代を塗り替えていったのも、こんな前進する意思の賜物かも。
そしてわずかにモーター音が響く車内ではクールなアフロ・ビートとソウルフルな歌声が聞こえる。Pine Robbieの「Cleva」。次いでなみちえの妹Manaの「Sento」は、かなりチルなトラックで、このまま箱根の温泉に行ってしまいたい気分。
「確かに。このクルマなら箱根の峠でも快適でしょうね。プレイリストのふたりは、アフリカ・ガーナにルーツのあるアーティストで、わたしもそう。アフロのリズムって湘南のチルな空気と合うと個人的には思ってて。来週からわたしもガーナに行くし」
期間はたぶん数カ月。ひとりのアーティストとして、ちょっとしたターニングポイントになりそうなルーツをたどる旅へ。快晴の湘南といくぶん挑戦的なEVのなめらかなドライブは、彼女のエネルギーをどうやら満たしていく。海風を深呼吸したりして。
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DRIVER
Edited by Satoshi Taguchi
※ 雑誌『WIRED』日本版 VOL.51 特集「THE WORLD IN 2024」より転載。
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