COP28の「化石燃料からの転換」という合意と、その“妥協”が意味すること

アラブ首長国連邦で開催されていた国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)が、化石燃料からの転換を参加各国に求める成果文書に合意した。この合意は妥協に満ちてはいるが、現段階で“最善”の成果でもある。
COP28 president Sultan Ahmed Al Jaber applauds among other officials.
アラブ首長国連邦のドバイで開催されていた国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)。本会議ではスルタン・アーメド・アル・ジャベール議長が、ほかの参加者たちと拍手をしていた。Photograph: Giuseppe Cacace/Getty Images

国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)の各国代表が緊迫した長時間にわたる交渉の末、化石燃料からの転換を各国に求める成果文書に合意した。参加国がこのような転換に合意したのは初めてのことで、気候変動の野心的な抑制における大きな前進を意味する。しかし、各国代表は成果文書の一部がまだ十分に強力ではなく、温室効果ガスの排出削減の本当の取り組みはまだこれからだと警鐘を鳴らしている。

「自分たちの意見が完全に反映されたとはここにいる誰もが思わないでしょうが、この文書が世界に非常に強いシグナルを送ったことに間違いはありません」と、米国のジョン・ケリー気候問題担当大統領特使は閉会時のスピーチで語っている。そして「わたしたちは温暖化の抑制を1.5℃という達成可能な範囲内に保つことに固執しなければならない」と、2015年のパリ協定で定められた気候変動の目標に言及した。

会議に臨むにあたり各国代表の多くは、最終合意が化石燃料からの段階的な完全脱却を参加国に求めるものになることを期待していた。一方で、今回のCOPが主要な産油国でありOPEC(石油輸出国機構)加盟国でもあるアラブ首長国連邦の主催であることを考えると、それはおそらくあり得ない望みであった。成果文書の当初の草案には、化石燃料の「消費と生産の双方を削減する」ことへの弱い言及と、排出削減のために各国が「とりうる」行動のリストしか含まれていなかったことから、議場には失望が広がっていた。

これに対して最終合意は当初の草案よりも野心的なものになり、世界の気温上昇を1.5℃の目標未満に抑えるべく、「温室効果ガスの排出量の大幅、迅速かつ持続的な削減」を明確に求めている。また成果文書では、30年までに再生可能エネルギーの容量を3倍にすること、さらには30年までに世界全体で二酸化炭素以外の排出量(地球温暖化係数=GWPが非常に高いメタンなどのガス)を大幅に削減することも求めている。

「2日前の文書から見事な転換を遂げ、交渉担当者は魔法のような成果を上げました」と、英国の気候変動委員会のピアーズ・フォスター暫定委員長は語っている。「『化石燃料の段階的廃止』や『未対策の化石燃料』といった物議を醸す文言を削除することで、この10年間で必要な化石燃料からの転換に関する文言を盛り込むことができました。これにより198カ国すべてが、自国に戻って根本的な変化に影響を与えるような強力な国内政策を実施する権限が与えられます」

妥協に満ちた合意だが……

最終的な文書は会議に出席しているすべての国から同意を得なければならないことから、この合意は妥協に満ちており、多くの国々を失望させることになるだろう。「これが政治的に可能な最善の取り決めでした」と、COP28に出席しているカーディフ大学の国際関係学上級講師のジェニファー・アランは言う。「各国は比較的等しく不満をもっています」

「わたしたちは必要な軌道修正が確保されていないという結論に達しました。通常よりも少しだけ進歩しましたが、いま本当に必要なことはわたしたちの行動を飛躍的に変えることです」と、サモア代表のアン・ラスムッセンは、最終決定後の会議の席で小島嶼国連合を代表して語っている。

今年の会議はほかのほとんどのCOPより重要な意味があったと、英国の気候変動委員会フォスターは言う。「グローバル・ストックテイク」(GST)を発表するために各国が一堂に会する初めての会議だったからだ。

グローバル・ストックテイクとは、パリ協定の目標に向けて各国がどれだけ前進しているか、そしてさらなる行動が必要なのはどこかを確認するための仕組みである。この仕組みは、5年ごとに国連気候変動枠組条約に提出する国別の排出量削減計画を各国が洗練させるうえでも役立つ。

このような5年の枠組みやグローバル・ストックテイクは、「ラチェットメカニズム」として知られる仕組みの重要な一部である。ラチェットメカニズムとは、パリ協定に明記された目標を時間の経過とともに徐々に引き上げることで、温暖化を2℃よりはるかに低い水準に抑えるという目標の達成に世界を近づけるという考え方だ。COPでの合意は法的拘束力をもたないが、各国はこの合意を自国の気候変動対策の計画に反映させ、最終文書に記された目標に沿って自国の排出量を削減する必要がある。

「特に適応のための融資にはギャップが存在し、抜け穴もありますが、進むべき最終的な方向性は明確です。化石燃料の時代は終わろうとしているのです」と、気候シンクタンク「E3G」でプログラムリーダーを務めるアレックス・スコットは、メールで送られた声明で述べている。

COP28の成果のなかには、ほかにもっと有望なものもあった。今回の会議は、発展途上国による気候変動の害への対応を支援する「損失と損害」基金の合意で幕を開けた。COP28の最終文書は先進国に対し、会議での決定に沿って「損失と損害」に対処するための支援を継続するよう促している。

しかし、排出量を削減し、これらの合意の目標を実際に達成するという本当の仕事は、まだこれからだ。今回のCOPでの合意は、土壇場での政治的な妥協に成功したことを示すものだが、それによって排出量と資金供給に切実に必要とされている変化がもたらされるかどうかは、いまのところまだわからない。

「これが、わたしたちにできる最善のことです」と、カーディフ大学のアランは言う。「目下の問題は、それでこれから十分なのか、ということなのです」

WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)

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