中国製の自動運転システムの実力は? 主要3メーカーのEVで体験した“進化”の現在地

中国で電気自動車(EV)を手がけるメーカーが、自動運転技術においても着実に進化している。その実力はいかなるものなのか、現地で主要3メーカーのEVに試乗して公道で試してみた。
中国製の自動運転システムの実力は? 主要3メーカーのEVで体験した“進化”の現在地
PHOTO-ILLUSTRATION: JACQUI VANLIEW; GETTY IMAGES; NIO; LI AUTO; XPENG

わたしたちは完全な自律走行車の実現を、いまだに待っている状態にある。結局のところ、米国では信頼性の低い生身の人間が起こす交通事故の死者数が高止まりのままだ。そしてアップルは自動車の無人制御をあきらめ、お粗末な自動車開発計画「プロジェクト・タイタン」に終止符を打った。アップルを支持する人々は、永遠に待たされることになるかもしれない。

それでも希望の光はある。アルファベット傘下のウェイモは今年3月、サンフランシスコの高速道路やベイエリア内のほかのハイウェイでの有料の自動運転タクシーについて、カリフォルニア州当局の許可を取りつけた。つまり、サンフランシスコ国際空港まで自動運転で移動することが可能になるわけだ。ドイツではBMWが、「7シリーズ」のレベル3のハンズフリー運転を3月1日付けで解禁している。

一方で、すでに実用化されている自律走行車に関しては、テスラゼネラルモーターズ(GM)が話題の大部分を占めている。それらの話題の裏には大量のリコール自動運転タクシーの運行停止予算削減多額の損失といったネガティブな要素がある。

だが、中国では複数の企業が同じような目標に向かって着実に歩みを進めており、大きな成功を収めている。とはいうものも、目標への道のりは異なる。

最初のモデルである「XPENG G3」とともに自動運転システム「XPILOT」を世に送り出した小鵬汽車(シャオペン、Xpeng Motors)は、中国において自動運転を主導する企業のひとつだ。その後、中国のEV(電気自動車)スタートアップである上海蔚来汽車(NIO)理想汽車(Li Auto)も自動運転分野に参入している。

レーザー光を用いたセンサーであるLiDAR(ライダー)を搭載した自動車の開発を手がける中国企業は、ほかにもある。例えば、ファーウェイ(華為技術)は「AVATR(阿維塔)」などいくつかのブランドと協力してソリューションを開発している。

だが今回の記事では、米国の証券取引所に上場しているという理由で、Xpeng、NIO、Li Autoに焦点を当てる。これらの3社すべてが、現行のラインナップにおいて自動運転(3社は法律上の理由から「運転アシスト機能」と呼んでいる)を提供している。

ここで3社の最上位の自動運転システムを比べてみたい。そして現在の性能や、これから実現しそうなことについて確認していく。

3社のシステムはどう異なる?

テスラのイーロン・マスクは“LiDAR不要論”を強く主張しており、米国向けのモデルについてもレーダーを廃止してしまった。テスラは最近になって独自開発したレーダーを試験中であることを認めたが、のちに「実装する計画はない」と断言している。中国では米国に上場している3社が多様なセンサーを用いた手法を駆使しており、なかでもLiDARの活用が目立っている。

XPengの車両はフロントバンパーに2つのLiDARユニットを搭載しており、これに対してLi AutoとNIOはフロントガラスの上にひとつ搭載している。残りのセンサー群は、8メガピクセルの高解像度カメラ、サラウンドビューカメラ、ミリ波レーダー、超音波センサーで構成される。

XPengとNIOのセンサーの合計は同程度で、それぞれ31個と33個だ。Li Autoはこれとは異なるアプローチで、カメラを中心としたシステムを採用している。LiDARは補助的な役割で、センサーの数は18個である。

LiDARと同様に、すべての情報を処理するNVIDIAのチップ「DRIVE Orin X」が3社共通の特徴となっている。XPengとLi Autoは1組のチップを使用し、508兆回/秒(TOPS)の処理能力を実現した。NIOのスーパーコンピューター「Adam」はDRIVE Orin Xを4つ使用しており、合わせて1,016TOPSを実現している。これらの数値の参考として説明すると、アップルの「iPhone 15 Pro」に搭載されているチップ「A17 Pro」は、35TOPSである。

自動運転のシステムを使用する際には、3社すべてにおいて事前に初期設定が必要だ。NIOとLi Autoの場合はシステムが有効になっていることと、それぞれにおいて音声指示なしの自動車線変更が選択されていることを確認する必要がある。XPengのシステムでは10分間の安全動画が流れ、運転手はシステムを使用するために短いテストに合格する必要がある。

NIO:「NOP+」

NIOについては、自動運転システム「NOP+」のβ版を2回にわたって体験した。1回目は、上海とその周辺地域においてセダンタイプのEV「NIO ET7」を数日にわたって運転し、2回目は北京で新型の電気SUV「NIO ES6」に試乗したのである。

システムは2023年7月1日にβ版からサブスクリプションへと移行し、現在は中国全土で機能することになっている。726都市の市街地で使えるようにアップグレードされ、主要道路の90%程度に対応しているという。体験したシステムの性能を向上させるものとして、このアップグレードには上から見下ろしたように見える鳥瞰視点の機能と、新たな認知フレームワークが含まれている。

COURTESY OF NIO

NIOのシステムは使いやすさという点では優れている。Li AutoやXPengのシステムと同様にナビゲーションを活用する仕組みで、NOPとは「Navigation On Pilot」を意味している。

NOP+が有効なエリアにNIO車が入ると、デジタルアシスタント「NOMI」が音声で知らせてくれて、タッチスクリーン上の車線通行表示のクルマのアイコンが円で囲まれる。ハンドルの左側にあるパッドの中央のボタンを押すと、システムが起動する。

NOP+はさまざまな条件下(夜間を含む)において相当程度に機能したが、経験豊富な運転手のように常に動作するわけではなかった。いちばん困ったのは、高速道路から出る際の準備動作の信頼性が低かったことだ。試運転では車両が中央の車線にとどまっていたので、出口を1カ所通り過ぎてしまった。

このシステムを使用すると、(競合するシステムと同様に)高速道路では最終的に中央車線にいることが多くなるようだ。外側の車線に出て、スピードを最大まで上げるようなことは得意ではなかった。制限速度が時速75マイル(約120km)の道路において、しばしば55マイル(約85km)程度で走るにとどまっていたのである。

あるときは外側の車線から中央車線に入り、空のトレーラーを牽引するトラックにかなり近づいていくように感じた。このときは、システムがトレーラーの部分を本当に把握しているのか疑問に感じたものだ。

さらに、割り込んでくるクルマに十分に反応していないように感じるときもあった。その際は自ら車両を制御してブレーキをかけるはめになった。

Li Auto:「NOA」

NIOのNOP+と同様に、Li Autoのシステム「NOA」もセンチメートル単位で正確とされる高解像度マッピングを現在使用しているが、XPengのシステム「XNGP(Cross-Scenario Navigation Guided Pilot)」にかなり近い体験を提供することが可能なようだ。XNGPは「XPILOT」の後継システムで、カメラやLiDARユニット、ミリ波レーダー、高精度の位置調整ユニットを含むマルチモーダルセンサーのフレームワークである。

COURTESY OF LI AUTO

23年6月に導入されたLi Autoの都市用システム「commute NOA」は「共通のモビリティシナリオ」の95%以上をカバーするとされ、昨年12月までに北京・上海・広州・深圳を含む中国全土の100都市で使用可能になった。

Li AutoのNOAを起動するには、テスラ車と同様にドライブセレクターを2回引き下げる必要がある(XPengのシステムも同様)。第2世代の車両(「Li L9」以降)が発表された際に、Li Autoはタッチ式ディスプレイを廃止して大型のヘッドアップディスプレイを採用した。

このシステムは、周囲で移動する物体をクルマが認識して視覚化するだけでなく、ナビゲーションも細かく指示してくれる。そうした情報があれば、システムの動作をモニタリングしながら現実の状況を監視する作業が、かなり容易になる。

システムを数日にわたって体験し、NIOのET7で試した際と同じルートを一部走行してみた。Li AutoのシステムもNIOのシステムと同様に高解像度のマッピングデータが欠けているせいで、上海市内の高速道路や高架道路においてシステムが機能しなくなる傾向が見られる(それらの場所では高架道路でのほうがより顕著だった)。

しかし、体験の質ははるかに上だ。高速道路での走行では、L9はNIO車よりスピードの最大化に優れ、車線の変更をためらうこともはるかに少なかった。

Li Auto車が高速道路で犯した最大の過ちは、XPengの自動運転システムが犯した過ちのひとつと同じものだった。車線変更のために白の実線を越えようとしたのである。

Li Autoの場合、それが上海市内の高架道路で見られ、準備が十分ではないにもかかわらず高速道路を降りるために車線変更しようとした。このときは車両の制御を取り戻して出口を通り過ぎた。再度システムを起動すると、白い実線があるにもかかわらず、L9は再びそれを越えようとした。

XPeng:「XNGP」

上海でXpengの「XPENG P7i」を運転しながらXNGPの制御下にあったとき、市街地から少し離れた高速道路で似たようなことが起きた。予定する出口からは約1.7kmの地点でまだ中間車線を走行中だったが、XNGPは準備を開始するとアナウンスしたのだ。

3つのシステムのなかではXpengのシステムが群を抜いて騒がしく、よくしゃべる。ほとんどの場合、準備のアナウンス直後に操作が発生することはない。しかし今回はそれが起こり、車両は白線を超えた。このような運転をする人間のドライバーは多いが、中国の道路規則では許されていない。

上海であったXNGP関連のもうひとつの問題は、2つの場面で起きた。高速に出入りする道路へ入った際に、インジケーターへの事前の通知がなかったのである。

COURTESY OF XPENG

Xpengの「XPENG G6」で広東省の肇慶と広州の間を走ったときは介入の必要は何もなく、システムは完璧に機能した。高速道路で渋滞にぶつかっても、同様の状況でNIOがしたように運転を変わるよう求めることはなかったのだ。XNGPの高速道路の部分はバックアップとして地図を使ってはいるが、高精度地図には依存していない。

NIOのNOP+やLi AutoのNOAで利用可能な高精度地図がなくなってしまった場合は、それぞれの運転支援機能と車線逸脱防止支援システム(レーン・キーピング・アシスト)を利用する。NIOの運転支援機能は実際のところ単なるアダプティブ・クルーズコントロール(ACC)であり、速度管理が非常に心許ない。たいていは走るべき速度よりずっと遅く走行し、目標の速度を手動で入力しなければならない。すべてのことがスムーズではなくなるのだ。

これとは対照的にLi Autoは、車線逸脱防止支援システムへの切り替えの際にそうした性能の低下を見せることはない。速度管理において、はるかに優れている。L9は、車線逸脱防止支援システムを利用していても、車線変更などいくつかの操作を引き受けることが可能だ。

2023年の夏にテストした時点では、何らかの形式で都市型のシステムを稼働させて顧客に提供していたのは、3社のなかではXpengの1社だけだった。XpengのXNGPは、現時点で「G6」「G9」「X9」「P7i」のMaxバージョン(LiDAR搭載モデル)でのみ利用できる。対象地域は2023年4月の発売時点では広州、上海、深圳のみだったが、今年2月末には中国全土へと展開し、地図に依存しないようになっていた。

XPENG G3i」のようにXNGPに非対応のモデルや、現在の使用要件を満たしていないドライバーには、Xpengのシステム「LCC(レーン・センタリング・クルーズ)」が採用されている。これは通常のクルーズコントロールをはるかにしのぐ機能で、制限速度に応じた速度制御のみならず、信号機で自動的に停止・発進する機能も備えている。しかし、右左折することはできない。

XNGP制御下の都市型NGP機能については、上海でP7i、のちに広州でG6で体験した。上海での走行は非常にスムーズで、少なくとも介入があったうちの1回は、クルマの問題ではなく道に迷ったせいだった。ほかのいくつかの介入に関しては、過度に運転に慎重になったことが原因である。

上海では、明白な理由なくシステムが止まったことは1〜2回だけだ。ところが広州では、それがはるかに頻繁に起きた。理由として考えられるのは、システムのトルクがハンドルを握っている手に負けてしまうというものだ。

その場合にシステムは、ドライバーが介入していると判断する可能性がある。それにもかかわらず、広州では停止していたクルマの後ろで立ち往生した。あるときは、曲がろうとしていた道路に入る代わりに、道路を横断しようと待機していた電動バイクのほうに進もうとしているように見えたのだ。

広州での二輪車の交通は、一般的にシステムにとっては難題のようだった。上海とは異なり、広州の道路は自動車、自転車、原付をうまく分離できていない。中国では最高にいいときでさえ、それらの道路利用者は予測不可能なのだ。信号や道路規則、あるいは自らの安全について軽視していることが普通なのである。

二輪車のための専用レーンや分離レーンがないことで、XNGPは苦戦しているように見えた。しかし、これはもちろん昨年のことである。システムはその後、大幅に改善されている可能性がある。

中国メーカーの進歩で競争は激化する

今後、変化のスピードとシステムの能力の両方を決定づける要因はデータになるだろう。それはLi Autoが優位に立てる可能性のある分野だ。

XpengのXNGPは、4つのモデルのMaxバージョンでのみ利用できる。NIOの場合、第2世代のモデルすべてが必須となるハードウェアを搭載しているが、ユーザーはシステム利用料として月額530ドル(8,400円)相当を支払う必要がある。

これに対してLi Autoはシステムを有料にしておらず、すべてのL9と電動ミニバン「Li MEGA」がXNGPを標準装備している。L7とL8には「AD Max」と「AD Pro」のバージョンがあり、後者にはLiDARが総武されないものの、NOAの機能が搭載されている。

さらに、第2世代の車を50万台近く販売済みであることも考慮していい。昨年12月にはXpengとNIOの販売台数がそれぞれ20,115台と18,012台だったが、Li Autoは50,035台を販売している。取得した膨大なデータのおかげで、Li Autoはリーダーシップを構築できる可能性があるだろう。

だが、昨年12月にNIOが自社開発した初の自動運転チップを発表した。これは2025年発売のフラッグシップセダン「ET9」に搭載予定だ。「神璣NX9031」と呼ばれる5ナノメートルのプロセスで開発されたチップは500億以上のトランジスターを内蔵し、32コアのCPUに対応する。その能力はNVIDIA「DRIVE Orin X」4つに匹敵するという。

これに対してLi Autoは今年1月、新たにNVIDIAの自動運転チップ「DRIVE Thor」を2025年発売の次世代EVに採用すると発表した。DRIVE Thorは、DRIVE Orinの8倍となる2,000TOPSの処理性能をもつとされている。

中国での半導体テクノロジーの進歩や自動運転サービス地域の展開はさておき、アジアのブランドが自国内にとどまることで満足しないことは疑うべくもない。すでに欧州に進出済みのXpengは今年2月、2025年には自動運転技術を世界に広げる計画であると正式に発表した。Xpengの創業者兼最高経営責任者(CEO)であるホー・シャオペン(何小鵬)は、「中国ですでに提供されているXpengの自動運転機能を、海外のユーザーが利用できるようになることを楽しみにしています」と語っている。

Xpengの野心は、自社のクルマだけにとどまらない。昨年7月にはフォルクスワーゲン(VW)がXpengに7億ドル(1,000億円)を投資し、株式4.99%を取得すると発表している。VWはXpengと協力し、2026年に中国市場で中規模セグメント向けにVWブランドの2モデルのEVを開発する計画だ。

Xpengと、いまはなきアップルの「プロジェクト・タイタン」は、いずれも10年前にスタートした。その明暗の差は、これ以上ないほど鮮明である。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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