アップルがモバイル決済の技術を欧州で“開放”、EUとの和解で「利用制限」から方針転換へ

アップルが自社のモバイル決済技術を、欧州で今後10年間にわたってライバル企業に“開放”する。欧州連合の規制当局との和解によるもので、これにより巨額の制裁金を科される可能性も回避したことになる。
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Photograph: d3sign/ Getty Images

アップルモバイル決済技術を、今後10年間にわたってライバル企業が手数料なしで利用できるようになる。欧州連合(EU)の規制当局が7月11日(欧州時間)に発表したもので、地域の規定が大きな変革を促した最新の事例となりそうだ。

iPhoneユーザーはアップルのモバイル決済サービス「Apple Pay」を利用することで、店舗やオンラインで商品の代金を支払うことができる。しかし、アップルはスマートフォンと決済端末とのワイヤレス通信に用いる近距離無線通信(NFC)の技術を競合他社に開放していなかった。これが原因でEU当局は2022年、NFC技術の利用制限が支配的地位の乱用にあたると警告していた。

Apple Payとの“競争”が実現

今回のアップルによる“譲歩”によって、アップルの決済技術をめぐり2年間にわたって繰り広げられてきた欧州委員会との争いが決着した。今回の変更点は昨年12月にアップル側から提案されていたもので、これによりアップルは数十億ドルの制裁金を免れ、正式な「EU規定違反」という状況を回避できることになる。

「(アップルの取り組みは)ほかのモバイル決済システムをiPhoneのエコシステムから排除しないようにすることで、この非常に重要な分野における競争への道を開くものです」と、欧州委員会の上級副委員長(競争政策担当)であるマルグレーテ・ベステアーは声明を出している。

「競合する企業は今後、店舗においてiPhoneのモバイル決済システムでApple Payと効果的に競争できるようになります。そして、安全で革新的なモバイル決済のより広い選択肢が消費者に与えられることになるのです」

今回の変更は少なくとも10年間にわたって有効だが、対象はEUのほか、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーに在住するユーザーに限られる。

アップルがNFC技術の利用拡大を決めたことで、欧州の開発者はiOSアプリに用いられる技術を自動車の鍵や社員証、ホテルの鍵、イベントのチケットなどにも応用できるようになると、アップルの広報担当者は説明している。「Apple Payとアップルの『ウォレット』は、引き続き欧州経済領域(EEA)においてユーザーと開発者が利用できます」

運用の変更を迫られるアップル

アップルは長年にわたり、自社のデバイスを使う膨大な数のユーザーが利用できる決済技術に厳しい制限をかけてきた。ところがEU内の厳しい目に晒され、新たな規定が導入されたことで、アップルはその運用方法の一部を大幅に変えることになったのだ。

欧州委員会からの申し立てに応じるためにアップルは、iPhoneやiPadにおいて別のアプリストアを認めなくてはならなくなった。この結果、史上初めてアップルの「App Store」に競争がもたらされるわけだ。

また、ユーザーがアップルの新しいデバイスを購入した際に、ウェブブラウザーを選ぶための「選択画面」を提示する義務も課せられた。これはアップル独自のアプリと第三者のアプリのどちらかを選べるようにするものだ。

これらとは別に、iOSアプリを開発しているデベロッパーに対するルールや制限をめぐって20億ドル(約3,200億円)近くの制裁金を科す結論が出されたが、アップルは控訴している

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるアップルの関連記事はこちら


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