EU、アップルに「デジタル市場法」違反と見解。App Storeの対応を問題視

アップルは、EUのデジタル市場法(DMA)に違反していると指摘された初の大手テック企業となった。今回の「予備的な見解」に対応する機会をアップルは得るが、合意に達しなければ制裁金を科されることになる。
Image may contain Tim Cook Adult Person Wristwatch Clothing Footwear Shoe Chair Furniture People and Accessories
Photograph: Justin Sullivan; Getty Images

アップルは、欧州連合(EU)で最近施行されたデジタル市場法(DMA)に違反したと認められた初の大手テック企業となった。この3日前、アップルは規制を理由に欧州で人工知能(AI)関連機能を公開しないことを発表していた。

欧州委員会は6月24日(現地時間)、アップルのApp Storeは開発者がユーザーと直接コミュニケーションをとったり、割引価格を直接案内したりすることを妨げていると指摘した。この行為は「アンチステアリング」として知られている。

「わたしたちの予備的な見解としては、アップルがユーザーの誘導を完全には許していないということです。アプリ開発者がゲートキーパーが管理するアプリストアに依存せず、消費者がよりよい取引条件を知る上で、誘導は重要な要素です」と、EUの競争政策担当を務めるマルグレーテ・ベステアーは声明で伝えた。

地域市場担当の欧州委員、ティエリー・ブルトンはXの投稿でより厳しい評価を下している。「アップルはあまりにも長く革新的な企業を締め出し、消費者が新しい機会と選択肢に触れることを認めなかった」と投稿したのである。

EUは24日の通知を「予備的な認定」と呼んでいる。アップルにはこれに対応する機会を得るが、議論が合意に達しない場合、EUはアップルに制裁金を科すことができる。最終的な判断は25年3月までに下される。制裁金は、アップルの全世界での年間売上高の10%に達する可能性がある。

アップルと欧州の開発者の関係に焦点

数カ月前からアップルとEUとの緊張は高まっていた。EUの競争法に準拠していないとして、ブリュッセルがアップルの調査を開始したのは3月のことだ。メタ・プラットフォームズとグーグルの親会社アルファベットに対しても調査が開始されたが、EUが長らく焦点を当ててきたのはアップルと欧州の開発者との関係である。

DMAの制定を促した欧州議会の委員は3月、『WIRED』の取材に対し、合理的に考えてアップルが新しい規則で最初に調査すべき対象であるとし、同社を「成果を挙げやすい相手」と説明していた。大手テック企業が自社のサービスを競合他社のものより優遇することが、DMAでは違法となる。

開発者たちはアップルが導入した新しい契約条件に憤慨しており、同社の方針を「虐待的」、「恐喝的」、そして「ばかばかしいほど懲罰的」と表現している。

アップルの施策は法律を遵守するものだと確信している、と同社の広報担当を務めるロブ・サンダースは月曜日に語った。「欧州でApp Storeを使いビジネスをしているすべての開発者は、アプリのユーザーをウェブへと誘導し、非常に競争力のある手数料で購入できるようにするものなど、わたしたちが導入した機能を活用することができます」と話している。

規制を理由にAI機能の展開を中止

アップルは21日、「規制上の不確実性」と呼ぶ理由から、年内に欧州でAI機能を公開することはないと発表した。「具体的には、DMAの相互運用性に関する要件により、ユーザーのプライバシーとデータのセキュリティをリスクに晒す方法で製品の機能面での妥協を強いられる可能性を懸念しています」と、サンダースは声明で伝えている。影響を受ける機能には、iPhoneのミラーリング、強化されたSharePlayの画面共有機能、そしてアップル初の生成AIの取り組みである「Apple Intelligence」などがある。

新しいEU規則を理由に、新機能の展開を遅らせた企業はアップルだけではない。グーグルは昨年、ChatGPTの競合であるBardのEU展開を遅らせた。メタも24年6月初旬、プライバシー規制当局との議論の後、欧州ユーザーのFacebookおよびInstagramの個人的なデータをAIの訓練に使用する計画を中断している。「これは欧州でのイノベーション、AI開発における競争における後退であり、AIがもたらす恩恵を欧州の人たちが享受する時期を遅らせることになります」と、当時同社は伝えていた。

(Originally published on wired.com, translated by Nozomi Okuma)

※『WIRED』によるアップルの関連記事はこちら


Related Articles
The Apple Inc. logo on an Apple storefront
欧州で施行されたデジタル市場法(DMA)に対応し、アップルは欧州のユーザーが「App Store」以外からアプリをダウンロードしたり、アプリ外での決済の選択肢を選べたりするよう変更した。しかし、アップルの新しいシステムは、従来のシステムと同じ問題を抱えていると指摘する声が上がっている。
Image may contain: Symbol, and Logo
EUの「デジタル市場法(DMA)」に基づいて、アップルとメタ・プラットフォームズ、アルファベットに対する規制当局の調査が進められている。こうした動きは米国で独占禁止法(反トラスト法)違反の疑いで提訴されているアップルにとって逆風になりそうだ。
Craig Federighi standing next to a large screen that reads "Apple Intelligence"
アップルが生成AIの本格的な活用について、開発者向けカンファレンス「WWDC 2024」で発表した。iPhoneからiPad、Macまで幅広く導入されるAI機能はユーザーに大きな利益をもたらす可能性があるが、アップルに新たな課題を突きつけることにもなる。

雑誌『WIRED』日本版 VOL.53
「Spatial × Computing」

実空間とデジタル情報をシームレスに統合することで、情報をインタラクティブに制御できる「体験空間」を生み出す技術。または、あらゆるクリエイティビティに2次元(2D)から3次元(3D)へのパラダイムシフトを要請するトリガー。あるいは、ヒトと空間の間に“コンピューター”が介在することによって拡がる、すべての可能性──。それが『WIRED』日本版が考える「空間コンピューティング」の“フレーム”。情報や体験が「スクリーン(2D)」から「空間(3D)」へと拡がることで(つまり「新しいメディアの発生」によって)、個人や社会は、今後、いかなる変容と向き合うことになるのか。その可能性を、総力を挙げて探る!詳細はこちら