未来へのインセンティブを探して:映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』出演者インタビュー

16歳の環境保護活動家ベラ・ラックは、皮肉屋で人間嫌い。自然を再生するには、人間を自然から遠ざけるしかないとさえ思っていた。でも、そうでもないのかも?──「6度目の大量絶滅」の解決策を探る旅に出た彼女の、心境の変化を追った。
映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』出演者インタビュー:未来へのインセンティブを探して
©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

「政府は何もしない。それでまたストライキ。その繰り返し。注ぎ込んでいる努力に成果が見合っていない」。そう語るベラ・ラックは、16歳の環境保護活動家だ。彼女は、このほど日本公開が始まったフランス発のドキュメンタリー映画『アニマル ぼくたちと動物のこと』に登場する主役のひとり。映画監督で活動家のシリル・ディオンからかかってきた1本の電話をきっかけに、「6度目の大量絶滅」を阻止する方法を探る旅に出ようと決心した。

旅に出る前、彼女の表情には陰りが見られた。無理もない。この50年ほどで50%以上の野生動物が姿を消したのだ。生息域の縮小、乱獲、気候変動や環境汚染、侵略的外来種の侵入......。種の絶滅のあらゆる原因が人間活動に結びつく。このままでは、人類の存続も危うい。そんな憂鬱な話を耳にして、「気候不安」を抱える子どもたちは少なくない。

関連記事:「気候不安」がメンタルヘルスの主要な問題になる──特集「THE WORLD IN 2024」

一方、本作は単に不安を煽るようなドキュメンタリーではない。もちろん、厳しい現実に何度も直面するわけだが──。例えば工場畜産の過酷な飼育現場。同時にそこで、働き手の思いや労働環境を取り巻く諸問題も知ることになる。それでも別日には環境再生型農業の実践地を訪れ、人間が自然を再生できる可能性に触れた。

問題を多面的に捉え、各々の生き様に触れるうちに、世の中に嫌気がさしていた彼女の言葉は次のように変わっていった。「人間を憎んでいては、何も成し遂げることはできないと思う」、と。今回、メールインタビューを通してラックの心情の変化に迫った。

ベラ・ラック | BELLA LACK
作家。環境保護活動家。英国の動物福祉団体「ボーン・フリー財団」のアンバサダー。2019年に英国のブライトンで開催されたTEDxに出演。著書に『The Children of the Anthropocene』がある。


©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

──あなたは以前、雑誌『WIRED』に「人類が気候危機に立ち向かうには情報の伝え方も見直していく必要がある」という趣旨の記事を寄稿し、「物語の力」に注目していたと思います。本作『アニマル ぼくたちと動物のこと』はまさに、それを体現するものでした。完成した映像を観て、どう思いましたか?

ベラ・ラック 自分が体験したことや、交わした言葉などを第三者的な視点で鑑賞する行為は、とてもシュールで興味深いものでした。

──監督から初めて相談を受けたとき、驚いたのではありませんか? 承諾したあと、環境負荷の高い飛行機での移動は「偽善者のようだ」と悩むシーンもありましたよね。

最初は、わたしを騙そうとしているんじゃないかと思いました(笑)。だって、皮肉屋で人間嫌いの16歳の子どもに、世界中を旅して「6度目の大量絶滅を阻止する解決策を探ってほしい」と考える人がいるなんて、ありえないと思っていましたから。飛行機のことを聞いてかなり悩みましたが、撮影が進むにつれて少しずつその気持ちは薄れていった気がします。わたしは、自分自身を「環境に配慮した生活を心がけ、それを今後も完璧にこなす個人」として見ることをやめ、もっと大きなシステムやストーリーの影響について深く考えるようになっていったのです。

──旅をしながら、マインドも大きく変わったということですね。ちなみに、最も心に残っているシーンは?

難しい質問ですね。欧州議会で無気力な議員を追いかけたこと、動物のフンを解剖したこと、汚染されたビーチで大量のゴミを拾ったこと......。どれも重要で、それぞれのシーンが新しい感情を呼び起こしました。心に響く会話も多くて、記憶にこびりついています。経済学者のエロワ・ローランは「愛」について説き、農園では「美」や「バランス」の重要性に触れました。そして、コスタリカ共和国のカルロス・アンドレス・アルバラード・ケサダ大統領はエコロジーの分野で成功できることを示し、希望をくれたんです。

旅に出る前、わたしは一縷の望みを求めて必死に空回りしていたようにも思います。あまりハッピーではなかったし、世の中に幻滅していた。この旅は、人生のあらゆる面におけるマインドシフトを後押ししてくれました。怒りに突き動かされる人もいますが、わたしは本来、「可能性」や「変化」といった未来へのインセンティブに駆り立てられるのだと思います。それに、単に反対するだけでなく、何かを創造したいんです。

汚染されたビーチ。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

──旅に出る前、デモ活動に力を注いでも政府が動かず、成果が努力に見合っていないと嘆いていましたよね? あなたと同じように多くの人が、地球環境の未来に対して絶望や怒りを感じているのだと思います。(モナリザにスープを投げつけるなど)環境活動家の激化する行動に懸念を示す人もいますが、この状況をどう見ていますか?

誰かが行動を起こし、自分たちが手にしている「快適さ」や「特権」が脅かされようとすると、憤りを感じるのが人間の性質ですよね。ムーブメントによってオヴァートンの窓(ある社会や文化において、受容できるアイデアや政策の範囲)を広げたいのなら、たくさんのレイヤーに変化をもたらす必要がある。注視すべきはその変化の徴候で、わたしたち一人ひとりが、いま生きている現実よりも、より倫理的で公平な未来を構築できるということに関心をもてたらいいなと思います。

──問題を包括的に捉えることの重要性を感じるシーンが多くありました。例えば、工場畜産の過酷な飼育現場では、飼育業者の苦悩にも触れましたよね。人間のあらゆる“欲”が、こうした環境を生み出しているわけです。ところで、あなたはヴィーガンですよね? 全人口を養うには畜産が不可欠という意見もありますが、人間は肉を食べる“欲”を抑えるべきだと思いますか?

ヴィーガニズムが特効薬になるとは思っていません。わたしもいまは、ヴィーガンではなくベジタリアンです。大学に進学し、ほかの学生と一緒に暮らすなかで、ライフスタイルを継続することに限界を感じたことが主な理由です。二者択一的な答えを出さなければならないとすれば、カーニズムよりもヴィーガニズムを勧めるとは思いますが、ヴィーガンであることは、現代の集約的かつ搾取的な農業システムから脱却するための解決策のひとつにすぎないと考えています。それより重要なのは、再野生化農場の実践や都市農場における革新など、アグロエコロジーに新たな展開をもたらすこと。また、これは旅の途中で訪れた農園で感じたことですが、輓馬の導入や昔ながらのテクニックが、スマート農業や垂直農法のような革新的な技術と相容れないものであってはならないとも思っています。

それから、政府や企業は、すでにさまざまな手法でわたしたちの欲望をコントロールしてきたと言えますよね。消費者の選択の自由なんて、資本主義が広めた神話です。わたしたちの欲望が破壊的なものではなく、持続可能・再生可能なものにつながるように、政府や企業に新しい仕組みの構築を求めることを恐れる必要はないと思いませんか?

関連記事ヴィーガンはなぜ、あなたが考えているほど地球に優しくないのか

写真左:工場畜産の飼育現場の管理者。中央:もう一人の主人公、ヴィプラン・プハネスワラン。右:ベラ・ラック。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

──あなたは自然保護区になりうる異種混在の農園を訪れ、そこで生物多様性と健康が密接につながっていることを知り、GDPではなく健康やウェルビーイングが社会的指標になるべきだという研究者の話に興味津々でした。それまで、「人間を排除しなければ自然は再生できない」と考えていたようですが、人間が積極的に自然に介入していくことを、いまはどのように捉えていますか?

人間が自然界の一部をフェンスで囲うだけで、すべてがうまくいくとは思っていません。でも、自然を“優先席”に座らせることも大切だとは思います。そのとき忘れてはならないのは、人間も自然の一部で、排除すべき存在ではないということ。何よりも、わたしたちが構築した政治的、経済的、社会的なシステムが、自然のシステムに逆らうことなく、むしろどうすれば自然のシステムのように機能するかを考えていく必要があります。

例えば誰かが火事を起こしたのなら、自然の成り行きに任せることがベストな選択肢なのではなく、人間が消火すべきですよね? もちろん、わたしたちが目にしている環境の変化がわずかなものであれば、不介入でも問題ないのかもしれません。でも、わたしたちがこの惑星にもたらした脅威は、臨機応変に、集中的にリジェネレーションを進めるべきレベルです。手つかずの自然でさえ、ある程度は介入すべきでしょう。あとは例えば、河川のダムを撤去することは野生のプロセスではありませんが、野生のプロセスの復活を促す介入の一形態と考えられるのではないでしょうか。

関連記事:どこまで「野生」になれるのか?──自然界のエンジニアことバイソン(と人間)が推し進める、再野生化プロジェクトの序章

ラックたちが訪れた農園では、家畜や昆虫などさまざまな生き物を迎え入れるかたちで有機野菜を育てていた。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

──もうひとつ印象的だったのは、オオカミのシーンです。「捕食動物は撲滅されるべき」という考えに対し、生態学的な役割(例えば、オオカミがいることで新芽をたべるシカの数が減り、人間にライム病が広がるのを抑えられる)を示し、別の見方をもたらすものでした。いま、都市にも多くの種が進出しています。人がクマに襲われる悲惨なニュースも流れるなか、人間と捕食動物が共生することは可能だと思いますか?

今日、哺乳類の全バイオマスの95%程度を占めているのは、人間と家畜です。野生動物が占めるウェイトは、本当に少ない。ここで少し、「シフティング・ベースライン症候群(shifting the baseline syndrome)」についても触れさせてください。要するに、人間は自分たちが生きている時代の自然環境を基準と見なし、それ以前との比較で個体数が激減していたり、新たな種が急増していたりする事実を見落としてしまいがちだというものです。劣悪な環境でも当たり前だと思い込んでしまうので、ムクドリやスズメの群れを目にする日常があったことに気づけないでいるかもしれない。だから、いくらデータが危機的状況にあると示しても、周囲がこれまで通りだと、その事実を受け入れることが難しくなってしまうのです。

話を戻しますが、再野生化のアイデアは、単にロマンティックな提案というわけではなく、考慮すべきことだと思います。オオカミや巨大動物たちが生態系にもたらす利点は少しずつ明らかになってきている。物理的な意味では、すでに準備が整ってきているエリアもあるでしょう。例えばスコットランドでは、捕食動物を受け入れるために広大なエリアをフェンスで囲おうとしています。しかし、準備ができていないのは人々の心のほうです。わたしたち人類は自然の歴史を記憶から消し去り、その可能性をのみ込んでしまった。わたしたちの自然の見方や接し方は、ヴィクトリア朝時代から更新されていないのかもしれません。自然は、室内の花瓶に生けられた花ではないのに。

動物行動学者のジェーン・グドールも登場する。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

──あなたがジェーン・グドールに憧れたように、より若い世代があなたに憧れ、自分の答えを探す旅に出るかもしれません。あなたの次の旅は決まっていますか? また、最後に日本の読者にメッセージをお願いします。

計画通りに一つひとつステップを踏んでいくより、おもしろくて倫理的だと思える人たちの考え方や価値観に触れながら生きていきたいと思っています。でも、調査報道とか、重要なストーリーを伝えられるような仕事がしたいです。自分の好奇心を満たしたいし、自分の気持ちをクリエイティブに表現したい。わたしは本来、人が好きなんだと思います。物語と、それを受け入れてくれる人々との間に橋を架けることで、何か少しでも変化をもたらすことができればと願っています。

日本のみなさんには、純粋に映画を楽しんでほしいです。本作を通して、さまざまな背景をもつ人々のストーリーに触れることで、自分がどんなかたちで地球の一員になりたいか、歴史を振り返ったときに「正しい側に立っていた」と思えるかどうかを考えるきっかけになると思います。

©CAPA Studio, Bright Bright Bright, UGC Images, Orange Studio, France 2 Cinéma – 2021

編集長による注目記事の読み解きや雑誌制作の振り返りのほか、さまざまなゲストを交えたトークをポッドキャストで配信中!未来への接続はこちらから


Related Articles
article image
125カ国で100万人以上の若者たちが参加した、「未来のための世界気候ストライキ」は、驚くほど日本では知られていない。ストックホルムに住む16歳のグレタ・トゥーンベリが、気候変動に対する政府の無策に抗議するために始めた学校ストライキは、SNSによって瞬く間に世界に拡散された。いま目の前で起こっている気候変動と一生を過ごすのは、まぎれもなく彼女たちの世代なのだ。世界のリーダーたちに「いま」アクションが必要だと呼びかける“子どもたち”の声は、大人たちにとってもはや無視できないものになっている。
(雑誌『WIRED』日本版VOL.34より転載)