音楽生成AIに大手レーベルが“宣戦布告”、法廷に持ち込まれた「著作権侵害」の行方

音楽生成AIであるSunoとUdioがアーティストによる楽曲をAIの訓練に無断で用いたとして、大手音楽レーベルが運営元を著作権侵害で提訴した。これは使用許諾契約こそが唯一の正しい解決方法であるという、音楽業界全体のコンセンサスの高まりを裏付けるものだ。
音楽生成AIに大手レーベルが“宣戦布告”、法廷に持ち込まれた「著作権侵害」の行方
Photograph: Thomas Faull/Getty Images

音楽生成AIとして最もよく知られているSunoとUdioに対して、音楽業界が正式に“宣戦布告”した。ユニバーサル ミュージック グループ、ワーナーミュージック・グループ、ソニーミュージックグループなどの音楽レーベルからなる一団が6月24日(米国時間)、「甚大な規模」の著作権侵害を理由に米連邦裁判所に訴状を提出したのである。

原告側は侵害された楽曲1件につき最高15万ドル(約2,400万円)の損害賠償を求めている。Sunoに対する訴訟はマサチューセッツ州で、Udioの運営元であるUncharted Labsに対する訴訟はニューヨーク州で提起されている。SunoとUdioにコメントを求めたが、直ちに回答は得られなかった。

「アーティストが生み出した成果物を無断または無報酬で複製し、自らの利益のために悪用することを『フェア』だと主張するSunoやUdioなどの無許諾のサービスは、誰もが恩恵を受けるような真に革新的なAIの実現を妨げるものです」と、全米レコード協会(RIAA)の会長兼CEOであるミッチ・グレイジャーはプレスリリースで説明している。

あの名曲そっくりの楽曲も生成

なお、どのようなデータに基づいて生成AIを訓練したのかについて、SunoとUdioは公表していない。人工知能(AI)企業の元幹部で現在は「Fairly Trained」というAI倫理に関する非営利団体を運営しているエド・ニュートン=レックスは、自身が実施したSunoUdioを用いた検証実験について詳しく記しているが、「著作権で保護されている楽曲に非常に酷似した」楽曲を生成できることを発見したという。音楽レーベル側は訴状において、ABBAからジェイソン・デルーロまで幅広いアーティストの著作権保護楽曲に「一致する」出力を、Sunoを使って独自に生成できたと主張している。

訴訟で提示された一例では、レーベル側がSunoを使ってチャック・ベリーの1958年の大ヒット曲「ジョニー B. グッド」に酷似した楽曲を生成した過程について挙げられている。「1950年代のロックンロール、R&B、12小節ブルース、ロカビリー、力強い男性ヴォーカリスト、ギタリスト歌手」などのプロンプトと「ジョニー B. グッド」の歌詞の一部を入力することで、よく似た楽曲を生成できたという。

生成された曲のひとつは、「ゴー、ジョニー、ゴー」のコーラス部分がほぼ完全に再現されていた。原告側は、書き起こした譜面と原曲の譜面を並べて添付し、このような類似性はSunoが著作権で保護された楽曲をもとに訓練されたからこそ可能なのだと主張している。

Udioの訴訟でも同様の事例が挙げられており、レーベル側によるとマライア・キャリーの超ロングヒット曲「恋人たちのクリスマス」に類似したアウトプットを十数曲も生成できたという。また、曲と歌詞を並べて比較し、Udioが生成した“マライア・キャリーもどき”の音源が、すでに世間から注目されていることにも触れている。

RIAAの最高法務責任者であるケン・ドロショーによると、SunoとUdioは「侵害行為の全容」を隠蔽しようとしているという。訴状によると、Sunoは訴訟前のやり取りで質問された際に、訓練データに著作権で保護された素材を使用したことを否定しなかったばかりか、訓練データは「営業秘密情報」にあたると説明していた。

「わたしたちのテクノロジーは変革をもたらすものです。既存のコンテンツを記憶して流用するわけではなく、まったく新しいアウトプットを生成すべく設計されています。だからこそ、特定のアーティストに関連したユーザープロンプトを許可していないのです」と、SunoのCEOであるマイキー・シュルマンは声明で語っている。「わたしたち側としては訴訟を起こしたレコード会社に対し、その点について快く説明するつもりでしたが(実際そうしようとしました)、相手側は誠意をもって議論に応じるどころか、弁護士主導の旧態依然とした対応に立ち戻ってしまったのです」

それは「フェアユース」に相当するのか?

生成AIをリードする企業の多くは、自社ツールの訓練方法について厳しい目を向けられている。こうした企業は、特定の状況下で著作権侵害を許容する「フェアユース」の法理によって守られていると主張することが一般的だ。

しかし、司法制度がこの抗弁に賛同するかどうかは、まだわからない。OpenAIのような大手企業は、すでにアーティストや作家、プログラマー、その他の著作権保有者から多くの著作権侵害訴訟を突きつけられている。

音楽レーベルによるAI企業との闘いへの参戦は、今回が初めてではない。ユニバーサル ミュージックは昨年、会話型AI「Claude」にアーティストの歌詞を無断で訓練させたとして著作権侵害を訴え、Anthropicを提訴した。しかし、今回の新たな一連の訴訟は、法的にはほかの文章と同様に扱われることが多い歌詞だけでなく楽曲も対象としており、注目に値するものだ。

だからといって、レーベル各社がAIに全面的に反発しているわけではない。実際、多くのレーベルがAI企業とのプロジェクトを並行して進めている。

例えばユニバーサル ミュージックは、音声テクノロジー企業のSoundLabsとの提携を発表したばかりだ。今回の論点は、商業的な見返りなく知的財産が流用されていると、どのような場合に音楽レーベル側が判断するかという部分にある。

生成された音楽で市場が飽和する?

音楽業界は、いまだにファイル交換サービス「Napster」の悪夢にさいなまれている。こうしたなかAI生成音楽の台頭は、業界のビジネスモデルにいくつかの競争上の脅威をもたらす恐れがあるだろう。

例えば、レーベルに所属するどのアーティストも、現時点ではSudoやUdioによるAI生成楽曲の印税を確認していない。たとえその曲が、どれだけ自身の作品に類似していたとしてもだ。

「人工的な音楽を供給することで、コンピューターが生成したコンテンツで市場が飽和する恐れがある。そうしたコンテンツは音楽サービスの基盤となっている本物の音楽と真っ向から競合し、音楽の価格を下落させ、最終的には駆逐してしまうだろう」と、レーベル側は訴状で訴えている。

今回の訴えは、使用許諾契約こそが唯一の正しい解決方法であるという、音楽業界全体のコンセンサスの高まりを裏付けるものだ。

「AIと人間のクリエイターとの間には、持続可能で相互補完された関係を築く余地がある」と、Sunoへの訴状には記されている。「それは著作権者に対する適切な配慮を保証する自由市場型ライセンシングという確立されたメカニズムを通じて実現することが可能であり、またそのように実現されるべきである」

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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