英総選挙に“AI候補”が出馬している

もし“AI候補”こと「AIスティーブ」が7月4日の総選挙で当選したなら、スティーブ・エンダコットが議会で代理を務めることになる。エンダコットは、自分は単なる伝達役であり、政策判断をするのはAIスティーブだと語る。
AI generated image of a silverhaired person in a blue suit with a view of a beach pier in the background
Courtesy of AI Steve

7月の総選挙に向けた準備が進む英国は、新種の政治家の登場を目の当たりにしている。人工知能(AI)候補者だ。ブライトン在住のビジネスマンで、独立系候補として出馬するスティーブ・エンダコットのアバター、「AIスティーブ(AI Steve)」がその候補者である。

有権者はAIスティーブに一票を投じることができるし、政治的立場を尋ねたり自らの問題を訴えたりできる。AIスティーブは、こうして寄せられた有権者からの提案や請願を公約に織り込む。

エンダコットはAIスティーブに代わって、会合に出たり議会に出席したりする。エンダコットは、AIスティーブがより直接的な民主主義を実現する方策のひとつだと考えている。「わたしたちは技術の基盤や副操縦士としてAIを使い、政治を再発明しようとしているのだと思っています。政治家をAIで置き換えるのではなく、政治家を聴衆、そして選挙区と真に繋ごうとしているのです」。エンダコットは言う。

現在、AIスティーブは誤って「スティーブAI(Steve AI)」と登録されており、エンダコットは修正を試みている。

有権者との対話に基づき政策提案

AIスティーブをデザインしたのは、エンダコットが会長を務めるAI音声の会社であるNeural Voiceだ。共同設立者のジェレミー・スミスによると、AIスティーブは最大10,000の会話を同時に行なうことができる。「鍵となるのは、自分独自の情報データベースをつくること。そして、そこに顧客データをいかに取り込むかということです」と、スミスは言う。

エンダコットがAIスティーブを思いついたのは、自分が重視する問題について提唱するために政治の道に進もうとしたときに覚えた不満からだった。彼は言う。「わたしは環境問題に深い関心があります。実際に気候変動をコントロールするには、政府のなかに大きな変化が必要です。そのために必要なのは、外に向かって喋るのをやめて、テントの中に入って、政策を実際に変更し始めることだけです」。過去に出馬したとき、世間の人々が必要とする事柄に対応するのではなく、あらゆることが党内政治であり、どの地区のどの議席が「安全か」に気を揉んだりすることばかりだと感じたと言う。

エンダコットはAIスティーブはそうはならないと言う。AIスティーブは、有権者との対話を記録して分析し、「検証者(validators)」に政策として提案する。検証者とは、ある事柄に関心をもっているかどうかや、特定の政策を実現してほしいと表明できる一般の人々を指す。

エンダコットのチームは、選挙区であるブライトンの駅から1時間ほどかけてロンドンに通勤する人々に呼びかけて、通勤時間を使って簡単な政策調査にメールで回答してもらい、検証者の役割を担ってもらうことを計画している。

「検証者の投票システムをつくることで、政策が一般の人々の常識に合っていることを確認し、『議会でこのように投票してほしい』と指示してもらうのは、わたしにとって理に適っています」とエンダコットは言う。

選挙区の選択に従う議会投票を約束

AIスティーブはまだ誕生したばかりだが、エンダコットとスミスが言うには、これまでのところAIスティーブに接触してきた人々が示した関心は、パレスチナ紛争と、ゴミの収集などの地元の問題だ。

エンダコットは、ある時点で自分の意見や政策指向がAIスティーブの考えと食い違うことがあると予期しているが、議会投票ではAIスティーブを通じて表明された選挙区の選択に従うことを約束すると言う。

「言うまでもないことですが、民主主義においてはあなたの選挙区の人たちの望みが重要なのです。当たり前でしょう。政治家は地元の意見に従うべきです。もしそれが嫌だと言うなら、残念。お辞めなさい、というだけです」

(Originally published on wired.com, translated by Akiko Kusaoi, edited by Mamiko Nakano)

※『WIRED』による政治家の関連記事はこちら


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