エドワード・スノーデンがわたしたちに何かを教えてくれたとするなら、それは「政府は常に監視をし、盗聴している」ということだ。
この監視の目からは誰も逃れることはできず、一見すると有害とは思えないメキシコ旅行のFacebookの投稿や、昨夜食べた美味しい焼肉のツイートさえも、その対象なのだ。
米・国土安全保障省(DHS)には、ソーシャルメディアで追跡している「370の単語」がある。テロの可能性等を追跡するそれらの単語は2011年の「アナリストデスクトップバインダー」に記載されている。明らかに警戒すべき「アルカイダ」や「北朝鮮」、そして「自爆テロリスト」のほか、「助ける」「豚」「雪」といった一見すると平凡な単語も含まれている。
デザイナーのエミル・コゾルがつくったダウンロード可能なフォント「Seen」は、それらのいわゆるスパイ用語を編集し、明示する「トリガー」となるものだ。例えば〈設備〉や〈サンディエゴ〉といった無害とも思える単語を入力すると、カーソルが次のスペースに行く前に、その単語は「黒塗り」にされて隠される。キーボードを打つ側からすると邪魔されてイライラし、不安になってしまう。これがポイントだ。
コゾル氏は、スノーデンがアメリカが監視していることを意味する文書の山を公表した(日本版記事)あとの2013年からSeenをつくり始めた。彼はセントラル・セント・マーチンズでデザインの修士号をとるためにスロヴェニアからロンドンに移ってきたばかりだった。彼はそこで「デジタル監視」や、国土安全保障省や英国スパイエージェンシーである政府通信本部が識別した「スパイ用語」に興味をもった。
彼は、連邦情報公開法請求によって3年前に政府が公表したリストから単語を抜粋して識別・編集するために、特注のAdobeオープンタイプフォントをプログラムした。DHSあるいはGCHのデータベースに監視対象の単語が入力されると、書体コードが自動的にその単語を見つけ出し、はっきりとした黒い線で文書が塗りつぶされる。
Seenは「政府の監視から逃れる」ためのものではなく、「政府がなぜ監視をしているのか」をより深く考えてもらうためにつくられたという。
「Seenがテロリストのツールになるのではなく、“議論のきっかけ”になればよいと考えています」とコゾル氏は言う。「なぜある単語はリストアップされ、その他の単語はリストに載っていないのか。Seenはそのことに人々が気づき、自身に問いかけるためのものなのです」
PHOTOGRAPHS BY EMIL KOZOLE
TEXT BY MARGARET RHODES