4.今後われわれ大人は、この問題にどう向き合っていくべきか

エデュケーショナル・マルトリートメントは、日々の「軽微」なことの積み重ねであるかもしれない。子どもが「圧倒され」「無力を感じ」「心理的に不安定になる」と言っても、従来の価値観に慣れて疑いを持たない大人たちには共感されないかもしれない。

知らない間に発達が阻害され、十全に成長できない子どもたちがいる。そのような社会の状態に名称を与え、社会の問題として大人たちが振り返り、変革に向かって議論を始めることが、次の犠牲者を生まない予防の第一歩だろう。

<社会的マルトリートメント概念図>

引用文献
・NHKスペシャル:若者たちに死を選ばせない、2021
・おおたとしまさ:ルポ教育虐待.毒親と追いつめられる⼦どもたち.ディスカヴァー携書.ディスカヴァー・トゥエンティワン、2019
・川上康則:教室マルトリートメント.東洋館出版社、2022
・川上康則編著:(第一章 武田信子著)『教室を安全基地にする』東洋館出版社、2023
・ジュディス・L・ハーマン著、中井久夫/阿部大樹訳:心的外傷と回復. みすず書房、 2023
・武田信子:やりすぎ教育.ポプラ社、2021
・武田信子:エデュケーショナル・マルトリートメントとは.Information Plaza、健康教室11月号、92-95、東山書房、2019 
・野井真吾:子どもの“からだと心”クライシス、かもがわ出版 2021
・文部科学省:令和4年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」、2023

<執筆者略歴>

武田 信子(たけだ・のぶこ)
一般社団法人ジェイス(Japan Action for Children's Environments and Prevention of Maltreatment )代表理事。

臨床心理士。東京大学大学院教育学研究科教育心理学専攻博士課程満期退学。臨床心理学、ソーシャルワーク、教師教育学をベースに、すべての子どもがウェルビーイングに暮らせる社会を目指して活動。子ども・子育て支援や教育・心理・コミュニティワーク・人権・遊びに関する講演や研修多数。子どもの遊び・生活環境を改善する各地の試みに数多く関わっている。
著書に「やりすぎ教育 商品化する子どもたち」(ポプラ新書、 2021)、「教育相談」(学文社、2019 編著)など。

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版(TBSメディア総研が発行)で、テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。2024年6月、原則土曜日公開・配信のウィークリーマガジンにリニューアル。