Common Object Request Broker Architecture
Common Object Request Broker Architecture(コモン オブジェクト リクエスト ブローカー アーキテクチャー、略称CORBA(コルバ))とは、Object Management Group (OMG) が定義した標準規格であり、様々なコンピュータ上で様々なプログラミング言語で書かれたソフトウェアコンポーネントの相互利用を可能にする(分散オブジェクト技術)ものである。
概要
[編集]CORBA では、プログラムコードをその機能や呼び出し方の情報と共に一種のカプセル化を行う。このカプセル化されたオブジェクトは、コンピュータネットワークを経由して他のプログラム(あるいは CORBA オブジェクト)から呼び出すことができる。
CORBA はインタフェース記述言語 (IDL) を使ってこのようなオブジェクトの外部インタフェースを記述する。そして、IDLから他の特定の実装言語(C++やJava)への「マッピング」を行う。CORBAとしてマッピングが標準的に用意されているのは、Ada、C、C++、LISP、Smalltalk、Java、COBOL、PL/I、Python である。標準に組み込まれていないが、Perl、PHP、Ruby、Visual Basic、Tcl、Delphi へのマッピングを実装したObject Request Brokerが存在する。
下図はCORBA基盤で生成されたコードが使われる様子を示したものである。
この図は非常に単純化してある。通常、サーバ側には Portable Object Adapter があり、呼び出しをローカルなサーバントに渡すか(負荷分散のために)他のサーバに転送する。また、サーバ側にもクライアント側にも後述するインターセプターが存在することが多い。
ユーザーに対して言語やプラットフォームに依存しない遠隔手続き呼出し (RPC) 仕様を提供する以外に、CORBAはトランザクションやセキュリティに必要な一般的サービスを定義している。
主な機能・特徴
[編集]Objects by Value (OBV)
[編集]リモートオブジェクトとは別に、CORBAとRMI-IIOPはOBVの概念を定義している。オブジェクト内のメソッドのコードはデフォルトではローカルに実行される。OBVをリモートから受信する場合、必要なコードが両者に事前に備えられているか、送信側から動的にダウンロードしなければならない。このため、コードをダウンロードできるURL群の(空白で区切った)リストである Code Base が OBV を定義するレコードに含まれている。OBV はリモートメソッドを持つこともできる。
OBV は転送される際に付属して転送されるフィールドを持つことがある。そのフィールドにはOBV自体、構成リスト、木構造やグラフなどが含まれる。OBVにはクラス階層があり、多重継承や抽象クラスもある。
CORBA Component Model (CCM)
[編集]CORBA Component Model (CCM) は CORBA 仕様の追加要素である。 CORBA 3 で導入された。これはCORBAコンポーネントの標準アプリケーションフレームワークを記述したものである。それはちょうど「言語に依存しない」Enterprise JavaBeans(EJB)の拡張版である。「ポート」と呼ばれる明確な名前付きのインタフェースを通してサービスのやりとりができる実体を抽象化したものである。
CCM にはコンポーネントコンテナがあり、その中にソフトウェアコンポーネントが置かれる。コンテナは内包するコンポーネントに各種サービスを提供する。例えば、通知、認証、永続性、トランザクション管理などがある。これらは分散システムには必須のサービスであり、その実装をソフトウェアコンポーネントからコンテナに移すことによってコンポーネントの複雑さは劇的に軽減される。
ポータブルなインターセプター
[編集]ポータブルなインターセプターとは、CORBAやRMI-IIOPが使用するCORBAシステムの最重要機能の「フック」である。CORBA標準では以下のようなタイプのインターセプターを定義している:
- IORインターセプターは、カレントサーバが示すリモートオブジェクトへの新たな参照の作成を調停する。
- クライアントインターセプターは、クライアント側でリモートメソッドの呼び出しの調停を行う。そのオブジェクトのサーバントが同じサーバに存在すれば、そのメソッドが呼び出されるようにローカル呼び出しが調停される。
- サーバインターセプターは、サーバ側のリモートメソッド呼び出しへの対応を調停する。
インターセプターは、送信されるメッセージに何らかの情報や生成したIORを付加することができる。それらの情報はリモート側の対応するインターセプターが読み取る。インターセプターは例外を送ったり、メッセージを他のターゲットに転送したりといったことも行う。
General InterORB Protocol (GIOP)
[編集]GIOPとは、Object Request Broker(ORB)同士が通信する際の抽象プロトコルである。このプロトコルに関する標準はObject Management Group(OMG)が管理保守している。GIOPアーキテクチャはいくつかの実際のプロトコルを提供している:
- Internet InterORB Protocol (IIOP) - CORBA ORB 同士の通信プロトコルであり、インターネット上のGIOPの実装である。従って、GIOPメッセージとTCP/IPとの橋渡しをする。
- SSL InterORB Protocol (SSLIOP) - SSL 上のIIOP。暗号化と認証機能を提供する。
- HyperText InterORB Protocol (HTIOP) - HTTP上のIIOP。プロキシを透過的に迂回するなどの機能がある。
- その他いろいろ…
Data Distribution Service (DDS)
[編集]Object Management Group (OMG) は関連する標準規格としてData Distribution Service (DDS) 標準を制定している。DDS は出版-購読(publish-subscribe)型データ配信モデルであり、対照的にCORBAはリモート呼び出しオブジェクトモデルである。
VMCID (Vendor Minor Codeset ID)
[編集]標準CORBAは例外のサブカテゴリーを明示するためにマイナーコードを明記している。マイナー例外コードは unsigned long 型で、上位20ビットは “Vendor Minor Codeset ID”(VMCID)、下位12ビットがマイナーコード本体である。標準例外のマイナーコードには OMG が予約する VMCID の付与された形で unsigned long 型の定数 CORBA::OMGVMCID として定義される。従って、マイナー例外コードは OMGVMCID と OR された形で ex_body 構造体に格納されている。
マイナーコードの設定はベンダー依存である。VMCID の割り当て要求は、tagrequest@omg.org に電子メールを送ればよい。VMCID のうち、0 と 0xfffff は実験用の予約されている。また、OMGVMCID と 1 から 0xf までの VMCID は OMG が予約している。
CorbaLoc
[編集]CorbaLoc とは、Corba Location の略であり、CORBA オブジェクトへの参照を文字列で表したものである。その見た目はURLによく似ている。CORBA製品には OMGが定義した二種類のURL、"corbaloc:" と "corbaname:" をサポートしている。その目的は、IORを持つ場所を指定するに当たって、人間がそれを読んで編集できる方法を提供することである。
CobaLoc の例を以下に示す:
- corbaloc::160.45.110.41:38693/StandardNS/NameServer-POA/_root
CORBA製品はオプションとして "http:"、"ftp:"、"file:" をサポートするものもある。これらは、文字列化されたIORのダウンロード方法の詳細を提供するために存在する(または、再帰的に他のURLをダウンロードすることによって文字列化されたIORが得られるようにしている)。
CORBA 実装例
[編集]- Oracle Tuxedo - CORBA 2.5 対応の商用 ORB (Java、C++用)オラクル
- Borland Enterprise Server, VisiBroker - CORBA 2.6 対応の商用 ORB (Java、C++用) ボーランド
- GNU Classpath - Java用のフリーソフトウェア実装を含む(GPL+linking exception, 新たに書かれた org.omg パッケージを含む)
- CORBA for PHP - PHP5
- Combat - Tcl用 ORB。C++ ORB の Tcl 層。
- e*ORB - 商用 ORB (Ada、C、C++用)
- ILU - パロアルト研究所のオープン・ソフトウェア・オブジェクト・インタフェース・システム
- IIOP.NET - Microsoft .NET 用フリーソフトウェア(LGPL) ORB
- Interstage - 商用、富士通
- JacORB - Javaで実装されたフリーソフトウェア (LGPL) ORB
- J-Integra Espresso - 商用 Microsoft .NET ORB、by Intrinsyc J-Integra
- MICO - C++で実装されたフリーソフトウェア (LGPL) ORB
- omniORB - フリーソフトウェア (LGPL) ORB (C++、Python用)
- OpenORB - フリーソフトウェア (BSD) ORB (Java用)
- Orbacus - 商用 C++ ORB、by IONA Technologies
- ORBexpress - 商用 ORB(Ada、Java、C++用。通常版とリアルタイム版)by Objective Interface Systems
- ORBit2 - フリーソフトウェア (LGPL) ORB (C、C++、Python用)
- Orbix - 商用 ORB by IONA Technologies
- ORBLink - 商用 ORB (Allegro Common LISP 用)
- Perl ORB - Perlで実装されたオープンソース(Artistic License) ORB
- PolyORB - Adaで実装されたフリーソフトウェア (MGPL) ORB
- SANKHYA Varadhi - 商用 ORB (C++用)
- TAO - オープンソース ORB (C++用)
- TPBroker - VisiBroker の日立製作所による改造版
- Universe - PHP4
- VBOrb - フリーソフトウェア (LGPL) ORB (Visual Basic用)
- Xtradyne I-DBC - 商用 CORBA セキュリティ実装、by Xtradyne
- Systemν[nju:] - 商用 分散トランザクション対応 ORB、日本ユニシス
OMG の商標
[編集]CORBA、IIOP、OMG は Object Management Group の登録商標であり、利用には注意が必要である。GIOP は登録商標ではない。従って、アプリケーションについて「GIOPに基づいたアーキテクチャである」とするのが適切な場合もあるだろう。なお、CORBAの仕様書自体に関しては、それに基づいた実装を自由に行うことは(CORBAという登録商標を使わないかぎり)許されている。
関連項目
[編集]- 遠隔手続き呼出し (RPC)
- ソフトウェアコンポーネント
- サービス指向アーキテクチャ
- Java Remote Method Invocation
- Webサービス
- 分散コンピューティング
- Jakarta EE
- XML-RPC
- DCOM
- SOAP (プロトコル)
- Bonobo
参考文献
[編集]- 利用可能な CORBA 実装の比較
- The official CORBA standard from the OMG group (direct download, .pdf, about 10 Mb).
- Robert Orfali: The Essential Client/Server Survival Guide, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-15325-7
- Robert Orfali, Dan Harkey, Jeri Edwards: The Essential Distributed Objects Survival Guide, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-12993-3
- Robert Orfali, Dan Harkey: Client/Server Programming with JAVA and CORBA, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-24578-X
- Dirk Slama, Jason Garbis, Perry Russell: Enterprise CORBA, Prentice Hall, ISBN 0-13-083963-9
- Michi Henning, Steve Vinoski: Advanced CORBA Programming with C++, Addison-Wesley, ISBN 0-201-37927-9
- Axel Korthaus, Martin Schader, Markus Aleksy: Implementing Distributed Systems with Java and CORBA, Springer, ISBN 3-540-24173-6
- Fintan Bolton: Pure Corba, Sams Publishing, ISBN 0-672-31812-1
- Jon Siegel: CORBA 3 - Fundamentals and Programming, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-29518-3
- Ron Zahavi: Enterprise Application Integration with CORBA: Component and Web-Based Solutions, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-32720-4
- Bret Hartman, Konstantin Beznosov, Steve Vinoski, Donald Flinn: Enterprise Security with EJB and CORBA, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-40131-5
- Thomas J. Mowbray, Ron Zahavi: The Essential Corba: System Integration Using Distributed Objects, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-10611-9
- Michael Rosen, David Curtis: Integrating CORBA and COM Applications, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-19827-7
- Gerald Brose, Andreas Vogel, Keith Duddy: Java Programming with CORBA, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-37681-7
- John Schettino, Robin S. Hohman, Liz O'Hara: CORBA For Dummies, Hungry Minds, ISBN 0-7645-0308-1
- Jeremy L. Rosenberger: Teach Yourself CORBA in 14 Days, Sams Publishing, ISBN 0-672-31208-5
- Jon Siegel: Quick CORBA 3, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-38935-8
- Thomas J. Mowbray, Raphael C. Malveau: CORBA Design Patterns, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-15882-8
- Robert Orfali, Dan Harkey, Jeri Edwards: Instant CORBA, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-18333-4
- Paul Harmon, William Morrissey: The Object Technology Casebook, John Wiley & Sons, ISBN 0-471-14717-6
外部リンク
[編集]- Information Board
- Object Management Group
- Description by Christopher B. Browne
- CORBA support for autoconf
- OrbZone forum
- SOAP Bridge
- いまなぜCORBAなの? アットマーク・アイティ
- CORBA テックスコア
- CORBA Component Model 入門 永田博靖(オージス総研)