F値
F値 (エフち、英: F-number)とは、レンズの焦点距離を有効口径で割った値であり、レンズの明るさを示す指標として用いられる。F値が小さいほどレンズは明るく(=レンズを通る光量が多い)、シャッター速度を速くできる。
F値のFとは「焦点の」を意味するfocalから来ている。なおF2を逆数にしてf/2と表記する場合もあるが、これと混同してf2とする表記は誤りである。
有効口径と明るさ
有効口径とは、レンズの光軸上無限遠の位置にある点光源を想定したときに、その点光源からレンズへ入射する平行光線の光束の直径のことである。 F値をとすると下の式のようになる。
: 焦点距離
: 有効口径
有効口径が大きいということは、光をより多く集められるということである。有効口径がになると光を集める面積は半分になる。したがって、F値が倍となるごとに明るさは半分となる。
焦点距離を割ることの意味
- 焦点距離/開口径である「F値」が決まると実像の明るさが決定する。
- これに露出時間を乗じれば「光量」となる。
- 実像の大きさが焦点距離に比例する。
カメラのライトヴァリューLV値の定義としては「減光量」で考えて、F^2=1、1/T=1として、相対比値を2底の対数で表している。
レンズが結ぶ像の面積は焦点距離の2乗に比例して拡大する。一方、レンズに入射する光の量はレンズの有効面積に比例する。レンズの有効面積は有効直径の2乗に比例する。したがって、像の面積あたりの光量(照度)は焦点距離の2乗に反比例し有効径の2乗に比例する。すなわち、(有効径/焦点距離)の2乗≡1/F数の2乗に比例する。
F値とT値とH値
F値はレンズの明るさを示す指標として広く使われているが、実際にはレンズの表面反射率や材質や枚数により透過率に差があるため、F値のみを用いて露出を正確に議論をすることはできない。特に問題となるのはコーティング技術がなかった時代の表面反射で、例えば1面の透過率が95%とすれば4群6枚構成のレンズで4群=8面から約66%(0.95の8乗は0.6634...)の光量しか透過しないことになる。
レンズの透過率なども含めた光学系の実質的な明るさを示す指標をT値と呼び、映画用高級レンズでは絞り環がT値表示されていることがある。スチル写真用レンズにはほとんど存在しないがフォトン用クック・アモタール・アナスチグマット2inT2.2(F2)とクック・フィールド・パンクロ4inT2.8(F2.5)、ニコンのFマウント300mmT2.2(F2)が知られている。ただコーティング技術の進歩で表面反射が減り、またレンズを透過した後の光量を測定するTTL露出計が一般的になっていることもあり、一般用途の写真撮影においてF値とT値の差が問題になることはないと考えてよい。
イマゴンなど絞りでなくレンコン状などのグリッドで光量調整するレンズではF値が使えないため、相当値のH値が使用される。これも露出決定に際しF値と同様に扱って問題はない。
開放F値
レンズの絞りを開放(全開)した時のF値を開放F値という。開放F値の小さなレンズを「明るいレンズ」という。また高速シャッタースピードで撮影できることから「ハイスピードレンズ」「高速レンズ」などの呼び方もある。
一般向けに市販されている製品としては、ライカの「ノクティルックス 50mm F0.95」(ライカMマウント)、コシナの「フォクトレンダー ノクトン F0.95」(マイクロフォーサーズ、17.5mm・25mm・42.5mmの3種)が最も明るいレンズである。またかつてはキヤノンから「キヤノン 50mm F0.95」が市販されていた。
特注品としては、アポロ計画用に設計されたものをスタンリー・キューブリックが手に入れ、映画『バリー・リンドン』に使用したカール・ツァイスの「プラナー50mmF0.7」や、旧日本軍用に東京光学(現トプコン)が設計した「トーコー50mmF0.7」を基に戦後再設計し、毎日新聞社の南極探検隊が使用した「シムラー50mmF0.7」などがある。
現実的にはシャッタースピードの限界や被写界深度の問題があるため、最高でもF1.2からF1.4程度が実用域、F2.8程度あれば十分に明るいレベルといえる。
国際絞りと大陸絞り
現在はF1に始まり1段階で露光量が倍になる国際絞りが一般に使用されている。すなわちF1、F1.4、F2、F2.8、F4、F5.6、F8、F11、F16、F22、F32、F45、、、である。
古いレンズには大陸絞りを採用しているレンズもある。(F1.1、F1.6、)F2.2、F3.2、F4.5、F6.3、F9、F12.5、F18、F25、F36、F50、、、である。