F-X (航空自衛隊)
F-Xまたは、FX(エフエックス)とは、Fighter-Xの略称で、日本航空自衛隊の次期戦闘機導入計画を指す略語。
F-Xの概念
F-Xは、あくまで次期戦闘機導入にかかわる計画を指す語であって、特定の機種を指す語ではない。機種が選定され導入が始められれば計画はその機種の名で呼ばれ、その次に導入する戦闘機の計画・概念が新たなF-Xとなる。
F-X計画と呼ばれていたことのある計画には現在のところ以下の4つが存在するが、厳密な意味でF-Xと呼ばれうるのはその時点で進行している「次期」の計画ただひとつだけである。
第1次F-X
ノースアメリカン F-86の代替となる戦闘機を導入する計画。
ロッキード F-104C/D改とグラマン G-98J-11(F11Fの改造型)との争いになった。一旦G-98に内定したものの、ロッキード事件に伴い白紙化。再度選定となり、F-104Gをベースに日本向け仕様としたタイプをF-104J/DJとして採用した。導入数230機。
第2次F-X
ロッキード/三菱 F-104J/DJの後継となり、未だ残っていたノースアメリカン F-86の代替となる戦闘機を導入する計画。
マグダネルダグラス F-4E改、ロッキード CL1010-2(F-104の発展型)、サーブ 37 ビゲン、ダッソー ミラージュF1の争いになったが、F-4E改をF-4EJとして採用した。導入数140機。
第3次F-X
マグダネルダグラス/三菱 F-4EJの後継となり、未だ残っていたロッキード/三菱 F-104J/DJの代替となる戦闘機を導入する計画。
マグダネルダグラス F-15C/D改、グラマン F-14、ゼネラルダイナミクス YF-16、ノースロップ YF-17、ダッソー ミラージュF1、サーブ 37 ビゲン、パナビア トーネード ADVの争い(実質的にはF-14とF-15であった)になったが、F-15C/D改をF-15J/DJとして採用した。導入数213機。
3次までの総括
これら第3次までのF-Xでは、いくつかの騒動あるいは汚職疑惑(F-104J/DJ採用の逆転劇やダグラス・グラマン事件)がありながらも、結局は候補機の中で一番性能が高く、米軍でも運用しており有事の際の補給を受けやすい機種を採用してきた。
また、いずれの機種も導入前半の数~数十機は完成機購入やノックダウン生産で調達されたものの、すぐに日本国内の航空機産業によるライセンス生産に移行した。生産が進行するにつれて徐々に国産化率が高められていき、国内航空機産業の技術向上と生産基盤維持に大きな貢献を果たした。
3機種ともにライセンス生産の主契約企業は三菱重工業であったが、エンジンのライセンス生産をした石川島播磨重工はじめ、日本航空機産業におけるほぼすべての企業が何らかの形で生産にかかわっていた。
現在のF-X (第4次F-X)
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2008年(平成20年)度中に退役がはじまるマグダネルダグラス/三菱 F-4EJ改の代替となる戦闘機を導入する計画である。平成17年(2005年)度から平成21年(2009年)度までを対象とした中期防衛力整備計画において、F-Xを期間内に7機調達するとされていた。将来的にマクダネルダグラス/三菱 F-15J/DJ初期型(Pre-MSIP)も置き換える可能性があるが、方針ははっきりしていない。
周辺諸国にSu-27などのF-15と同水準の第4世代機が拡散しつつある防衛環境にあって、現在FI任務についているF-4EJ改を代替する機体であるから、要撃任務の能力が高いことが第一の要求であるが、当然時代の趨勢といえるマルチロール化(任務の多様性)もある程度要求されているものと思われる。
防衛省はアメリカのF-22A、F/A-18E/F、F-15FX、F-35、フランスのラファール、欧州のユーロファイターの6機種をF-Xの候補として挙げ、調査を行っているとされている。各候補機については、その設計技術や機能・性能という機体本来の違いだけでなく、政治的・経済的要因から発生する各種問題が交錯しており、選定作業が難航している。
航空自衛隊は、次期戦闘機(FX)の調査対象機種に関する海外調査を行うため、平成19年2月から欧州と米国に調査団を派遣している。これまで調査された機種は、ユーロファイター タイフーン、F-15FX、F/A-18E/F、F-35である。製造工場などを訪れ、性能や特性に関する調査を実施し、今後の検討に必要な情報を収集している。
以下に候補とされる機種をあげる。
第5世代機。高いステルス性、スーパークルーズ性能を持つ事から、「航空支配戦闘機」と米軍が名付けた戦闘機/戦闘攻撃機。
- 他の候補と比較しても圧倒的な戦闘能力を持ち、ロッキード・マーティン社からの売り込みもあり、日本政府は有力候補として、アメリカ側に輸出解禁を求めている。
- 政府、省レベルでは、候補のひとつに過ぎない扱いではあるが、空自の現場サイドでは、現状で単機対10機を大幅に超えるキルレシオ、第4世代ジェット戦闘機の約3倍の戦力(単純計算で敵機3機に対し、1機で対抗可能)という絶対的な能力故に、唯一の候補と考えている節が見受けられる。
- 現在、米国の国防予算にはF-22Aの海外輸出を禁止する付帯決議が有るため、これが撤回されない限り取得することは出来ない。
- 日本政府は、国内航空産業の製造・技術基盤の維持という観点から、機体のライセンス生産が望ましいとしているが、米政府内に技術流出(及び、自衛隊での情報漏洩事件)を危惧する声があるため難しく、完成品輸入の場合、部品の調達や技術情報の制限から稼働率が大幅に低下する可能性がある。
- 高価であるといわれているF-15以上に価格が高い機体(単体で約130億円)であるため、たとえ将来価格が下がったとしても、必要数をそろえ運用するにはライセンス料による機体単価の高騰も含め今まで以上に莫大な費用がかかることになる。
- 国産機器であるAAM-4やAAM-5を搭載するには、対象となるミサイル、F-22、どちらかの機体改造が必要となるが、F-22側の改修はコストはもとより技術的側面からも困難である上、技術流出の観点などから米側が認めない可能性がある。
- イラク情勢や今後のアメリカ軍の再編次第では機体価格が高価なF-22の調達を取りやめる可能性がある。この場合、製造ラインが閉鎖されて選定自体出来ない可能性がある。
第4.5世代機。F-15Eを対空戦闘重視に再々設計し高機動化した機体で、ボーイング社より提案中。機動性の高さや航続距離など、6機の中で最もデメリットが少ないが、6機の中では最も設計が古い機体でもある。
- F-15Dと外形はほぼ同じだが、改造によって内部構造にほとんど共通点はなくなっている。それゆえ、ライセンス生産前に完成機の分解調査を行う必要がある(ただしこれは別の機種においても条件は同じである)。
- F-15シリーズそのものがF-22の登場で近々型落ちになる可能性もある。
- 再設計とは言え、ベースのF-15Eの設計そのものが古いため、今後の発展は余り見込めない。
- RCS(レーダー断面積)が他の候補に比べてあまりに大きく、レーダーを駆使した現代の戦闘では圧倒的に不利である。もしも、RCSを削減するならば、大幅な改修と多くの費用や時間がかかってしまう。
- F-15Eは戦闘爆撃機として設計されており、F-15Jに比べ翼面荷重は確実に増大する為、機動性の低下が問題となる可能性がある。ただし、グラスコクピットや16,000時間という非常に長い耐用寿命、JHMCSが使用可能であり、F-15Jよりも強力なGEF110エンジン等F-15J以上の戦闘力を得られる利点もある。
- 韓国空軍もF-15EをベースとしたF-15Kを導入している為周辺諸国の戦力対応としての不安が残る(ただしもっぱら対地・対艦攻撃をねらいとしたものである)。
- F-15Jとは違い複座型である為、WSO(兵器技術士官)を搭乗させる必要があり、人件費及び訓練に関してのコストが高くなってしまう。もっとも、現行のF-4EJ改は複座である為さほど問題になる事項ではなく、ボーイングからは日本の運用状況によっては「単座型の開発は可能(元々オリジナルで単座型の生産計画があった)」との提案が出ているが、単座型導入はパイロット人員の削減に直結する可能性がある。
- 事故が起こった場合、場合によってはF-15Jを含めた全機飛行停止となる可能性がある(但し従来のF-15が事故を起こしたとしても設計が全く違うE型は飛行停止になる事は稀であり、当たり前であるが重大な事故は稀である。そもそも有事の際まで飛行停止を続けるわけではない)。
第4.5世代機。亜音速域で良好な運動性を持つ。最新アビオニクスが搭載されている。
- F/A-18C/Dが諸コストの高さでFSX商戦で敗れている。
- 導入経験のない艦載機であり、航空自衛隊の機体として扱うには不要な装備がある(これもコストの高さの一因になっている)。
- 加速性能・航続性能について問題があり、要撃機としては不向きと言われている。
- 搭載されているF414-GE-400エンジンは、従来のF/A-18A~Dに搭載されているF404エンジンよりも騒音が大きく、他機種と比較しても一番騒音が大きい。(現行の マグダネルダグラス/三菱 F-4EJ改より騒音は小さいので問題視する必要はないという意見もある)
- 給油装置がプローブアンドドローグ方式である為、発注済のKC-767Jのフライングブーム方式とは合わない。そのため、アタッチメント(アタッチメントで簡単に変更できる)を追加発注する必要がある。
- 空対地ミッションでは2000ポンドJDAM2発搭載に加えて中距離空対空ミサイル2発を搭載可能であるが、[1]爆弾架の部分に装着するタイプのラックを開発中であり、ウエポンベイに装着すれば空対空ミッション時において、胴体内の12発に加えさらに4-6発の空対空ミサイルを搭載可能になる予定である。
- 開発計画に参加していないため、直輸入で購入するためには開発計画に参加した11ヶ国への配備が終了した後(2010年代中期から後半か?)になりF-X計画を大幅に遅らせざるを得なくなると思われていたが、アメリカ政府からアメリカ軍向けを先に売ってもよいとの話が出てきている。
- 開発の遅れにより、価格は当初より高騰中である。一機約100億円となる。国際共同開発であるため、F-22以上にライセンス生産の可能性は低いとされていたが、ロッキード・マーティンは「全プログラムをロッキード・マーティンがコントロールできることになれば、F-35を、ライセンス生産を含めて提案することが可能になる」としている。
- 2007年8月17日、米統合参謀本部議長のピーター・ペースは都内の米国大使館で記者会見し、米軍として米英などが共同で開発したF-35を日本のF-Xに推薦する立場を始めて公式に明らかにした。
- 2007年11月7日から3日間、東京・港区のニューピアホールで開催された第10回日米安全保障戦略会議にてロッキード・マーティンはF-22ではなく、F-35のコックピット型シュミレーターを展示し、同会議に集まった日本の国会議員や防衛産業関係者、防衛省関係者に対して積極的なアピールを行った。
欧州の第4.5世代機。アフターバーナーなしでのスーパークルーズに対応しており、F-22A程のステルス性能ではないものの、RCS(レーダー断面積)がF/A-18E/Fやラファールよりも小さいとされる。
- 日本でのライセンス生産のほか、国産機器(アビオニクスや、空対艦ミサイル等)を搭載するための改造が大幅に許容されるという動きがある。また、日英の企業間で生産ライセンス供与に向けた交渉が進んでいるとの報道もある。ただし、開発各国政府の輸出許可についてなどの公的な発言はまだない。
- 国産機器が搭載出来ることはアメリカ機にあるアメリカ製機器のコストの高さやアメリカ側の輸出規制に依存しない、という意味でアメリカ機よりも有利と受け取れる。また、輸出規制に引っかかる等してアメリカ機の選定が不能になった場合には一番有利な機体である。
- NATO規格の機体とはいえ、これまで空自に導入経験のない欧州機であり、整備面などで不安が残る。しかし、アビオニクス等については国産品が使用できる他、大幅な改良が許容されるため他機種より比較的有利とも言える。
- MiG-29・Su-27及びそれらの改良型よりも優位に立つとされる機体であるが、各国においてステルス性能を備えた第5世代機の開発が進められる中、性能面で、今後航空優勢を維持出来るかに疑問が残る。(ただし、この点はF-22とF-35を除く他の機種においても同じことが伺える。)
- 前述のF/A-18E/Fと同様に給油方式がプローブアンドドローグ方式である。
- 搭載エンジンのEJ200系エンジンは騒音が比較的大きい。(とは言っても、日本の空を空自のF-15J要撃機や米海軍のF/A-18E/F等が飛び交っている現状からして見れば、さしたる問題ではないとする見方もある)
フランスの4.5世代機。元々は前述のユーロファイターをフランスが諸事情から蹴って独自開発した機種である。
- ユーロファイター同様、これまで空自に導入経験のない欧州機、しかも完全なNATO規格ではなく、整備面などで不安が残る。
- 国産機器搭載許可が出されていない。
- アフターバーナーなしでのスーパークルーズに対応しているが、RCS(レーダー断面積)はユーロファイターより大きい。
- 性能面で、今後航空優勢を維持できるかに疑問が残る
- そもそもダッソー社が「採用の可能性が低い」としてF-Xへの提案自体をしていない
F-Xの現状と展望
日本は特殊な防衛事情のため、航空自衛隊の採用する要撃戦闘機には他国の戦闘機を圧倒するレベルの戦闘力が要求される。日本の周辺国では、第4世代戦闘機の配備が進んできており、ロシアや中国ではSu-27やSu-30、韓国においてはF-15E(第4.5世代ジェット戦闘機)の韓国版:F-15Kの配備が始まっている。さらに近い将来にロシアでは Su-50、韓国と台湾ではF-35、中国ではJ-XXなどの第5世代戦闘機の配備が計画されている。
日本のF-15J要撃機と同世代の戦闘機が周辺国に配備され、さらに第5世代戦闘機の配備計画もある中で、F-Xではそれ等の戦闘機を圧倒、または対等に渡り合えるだけの性能を持つ戦闘機(第5世代戦闘機)が必須になると思われるが、本命のF-22Aはアメリカ上院議会で輸出許可が一度却下されている。このため防衛省は2007年12月に、平成21年度までの中期防でのF-X調達をあきらめ、平成22年(2010年)度からの次期防で取得する方針とし、代替としてF-15近代化改修を急ぐこととしている。
国内産業面では、三菱が製造するF-2支援戦闘機の調達数が減少したため、F-Xで決定された機体のライセンス生産が行えない場合、50年にわたり継続して戦闘機の生産を行ってきた部署が浮いてしまうことになる。その際、会社としては技術者を他部署に配置転換することを免れず、後継者の育成が滞り、再度生産の機会が訪れても、技術者が不足する或いは技術力が落ちる、技術が断絶しているなどの恐れがある。そのため、国内航空機産業保護の点から、今回のF-Xもライセンス生産が望ましいと三菱は指摘している。
また、現在、作戦機の総数が30機程度削減される見通しであり、この現状を踏まえて、以下の策が(『時間稼ぎ』として)検討されている。
- F-4の運用スケジュール見直し
- 機体寿命は幾許もないが、再度の寿命延長はコスト的にも疑問である為、採りうる方策としては、作戦使用時間の減少、機体寿命の精密な測定等で延ばした余裕、予備機の削減で、数年程度先送りする手段。
- F-15の定数減
- F-15部隊の部隊内定数減、予備機減により、同一の機数で部隊数を維持する手段。また、定数が減った分は、F-15の近代化改修で補うものとする方針でもある。