コンテンツにスキップ

「エリスロマイシン」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
Addbot (会話 | 投稿記録)
m ボット: 言語間リンク 27 件をウィキデータ上の d:q213511 に転記
歴史: 出典追加
 
(15人の利用者による、間の16版が非表示)
1行目: 1行目:
{{drugbox |
{{drugbox |
| image=Erythromycin-2D-skeletal.png
| image=Erythromycin A.svg
| IUPAC_name = (3''R'',4''S'',5''S'',6''R'',7''R'',9''R'',11''R'',12''R'',13''S'',14''R'')-6-{[(2''S'',3''R'',4''S'',6''R'')-4-(ジメチルアミノ)-3-ヒドロキシ-6-メチルオキサン-2-イル]オキシ}-14-エチル-7,12,13-トリヒドロキシ-4-{[(2''R'',4''R'',5''S'',6''S'')-5-ヒドロキシ-4-メトキシ-4,6-ジメチルオキサン-2-イル]オキシ}-3,5,7,9,11,13-ヘキサメチル-1-オキサシクロテトラデカン-2,10-ジオン
| IUPAC_name = (3''R'',4''S'',5''S'',6''R'',7''R'',9''R'',11''R'',12''R'',13''S'',14''R'')-6-{[(2''S'',3''R'',4''S'',6''R'')-4-(ジメチルアミノ)-3-ヒドロキシ-6-メチルオキサン-2-イル]オキシ}-14-エチル-7,12,13-トリヒドロキシ-4-{[(2''R'',4''R'',5''S'',6''S'')-5-ヒドロキシ-4-メトキシ-4,6-ジメチルオキサン-2-イル]オキシ}-3,5,7,9,11,13-ヘキサメチル-1-オキサシクロテトラデカン-2,10-ジオン
| CAS_number = 114-07-8
| CAS_number = 114-07-8
12行目: 12行目:
| C=37 | H=67 | N=1 | O=13
| C=37 | H=67 | N=1 | O=13
| molecular_weight = 733.93 g/mol
| molecular_weight = 733.93 g/mol
| bioavailability = <!--剤形によって異なるので、表示するなら、どの剤形の値なのか明記を。あと、当然の事なので、注射の際の100%だけであれば、書く意味無し。-->
| bioavailability = 100%
| protein_bound = <!--測定法などによって値が異なるので、表示するなら、測定法も明示を。-->
| protein_bound = 90%
| metabolism = 肝臓(under 5% excreted unchanged)
| metabolism = 肝臓(under 5% excreted unchanged)
| elimination_half-life = 1.5 時間
| elimination_half-life = 1.5 時間
| excretion = bile
| excretion = [[胆汁]]
| pregnancy_AU = A
| pregnancy_AU = A
| pregnancy_US = B
| pregnancy_US = B
| pregnancy_category =
| pregnancy_category =
| legal_AU = S4
| legal_AU = S4
| legal_US = Rx-only
| legal_US = Rx-only
| legal_UK = POM
| legal_UK = POM
| routes_of_administration = 経口, [[点滴静脈注射]], [[筋肉注射]], 局所
| routes_of_administration = 経口投与、[[点滴静脈注射]]局所
}}
}}
'''エリスロマイシン''' (erythromycin) は[[マクロライド系抗生物質]]1つである。[[抗菌スペクトル]]は[[ペニシリン]]と類似するが若干幅広く、ペニシリンに[[アレルギー]]を持つに対してしばしば使用される。呼吸器系への感染症に関しては、[[マイコプラズマ]]などの非定型微生物に対しても高い効果を持つ、市中肺炎の原因菌のつであるインフルエンザ菌には抗菌活性を示さない。[[クラミジア]]、[[梅毒]]、[[淋病]]の流行に対処する場合にも用いられる。14員環[[ラクトン]]環に2つの[[糖]](<small>L</small>-クラジノースと<small>D</small>-デソアミン)が付いた構造を持つ。10か所の[[不斉炭素原子|不斉中心]]があるなど構造が複雑なため合成するのは難しいとされる化合物である


'''エリスロマイシン''' ([[国際一般名|INN]]:erythromycin) とは、[[マクロライド系抗菌薬|14員環マクロライド系抗菌薬]]の1つである。日本では「エリスロシン」の商品名でも販売されてきた経緯が有るものの、化学で[[エリスロシン]]([[英語]]:erythrosine)と言った場合には、全く別な赤色の合成着色料の1種の名称である。
[[放線菌]]属の ''Saccaropolyspora erythraea'' (旧名 ''Streptomyces erythraeus'')によって作り出される。


==歴史==
== 所在 ==
エリスロマイシンは天然に存在する化合物の1つであり、[[放線菌]]属の ''Saccaropolyspora erythraea''<ref name="日本薬局方_Erythromycin">{{Cite web|和書|url=https://jpdb.nihs.go.jp/jp/DetailList_ja.aspx?submit=%E8%A9%B3%E7%B4%B0%E6%A4%9C%E7%B4%A2(%E8%8B%B1%E5%90%8D)&keyword=Erythromycin |title=エリスロマイシン Erythromycin |access-date=2022-06-04 |publisher=[[国立医薬品食品衛生研究所]] |date=2021-07-16 |website=第十八改正日本薬局方名称データベース |language=ja <!--|archive-url=https://web.archive.org/web/20130217215748/http://jpdb.nihs.go.jp/jp/DetailList_ja.aspx?submit=%e8%a9%b3%e7%b4%b0%e6%a4%9c%e7%b4%a2(%e8%8b%b1%e5%90%8d)&keyword=Erythromycin |archive-date=2013-02-17 |url-status=live-->}}</ref> (旧名 ''Streptomyces erythraeus''<ref>{{cite journal |title=Transfer of the Type Strain of Streptomyces erythraeus (Waksman 1923) Waksman and Henrici 1948 to the Genus Saccharopolyspora Lacey and Goodfellow 1975 as Saccharopolyspora erythraea sp. nov., and Designation of a Neotype Strain for Streptomyces erythraeus |last1=Labeda |first1=David P. |date=1987-01-01 |volume=37 |issue=1| page=19 |journal=International Journal of Systematic Bacteriology |doi=10.1099/00207713-37-1-19 <!--as of 2022-06-03, redirects to [https://www.microbiologyresearch.org/content/journal/ijsem/10.1099/00207713-37-1-19]-->|doi-access=free}}</ref>)によって作り出される。14員環[[ラクトン]]環に2つの[[糖]](<small>L</small>-クラジノースと<small>D</small>-デソアミン)が付いた構造を持つ。合計10箇所の[[不斉炭素原子|不斉中心]]を有するなど構造が複雑なため、合成するのは難しいとされる化合物である。
1949年[[フィリピン]]の科学者[[アベラルド・アギュイラー]] (Abelardo Aguilar) は彼を雇用していた[[イーライリリー・アンド・カンパニー|イーライリリー]]に、ある土のサンプルを送った。[[マクガイア]] (J. M. McGuire) が率いるイーライリリーの研究チームは、そのサンプルに含まれていた菌株 ''Streptomyces erythraeus'' の代謝産物からエリスロマイシン単離することに成功した。サンプルが採取されたフィリピンの地名[[イロイロ州|イロイロ]]をって商品名はイロソン '''Ilosone®''' と名付られ、1952年に上市された。イロチシン '''Ilotycin®''' とも呼ばれた。1981年、[[ハーバード大学]]の化学教授で[[ノーベル化学賞]]受賞者の[[ロバート・バーンズ・ウッドワード]]とその研究チームがエリスロマイシンAの最初の立体選択的不斉合成を報告した。


==剤形==
== 作用機序 ==
細菌のタンパク質合成装置である[[リボソーム]]の機能を阻害するによって、細菌の増殖を抑える。エリスロマイシンは細菌のリボソーム中50S サブユニットにおける 23s rRNA に結合し、伸張するペプチドの出口を塞ぎ、ペプチドの転位を阻害する。
腸溶コーティング錠剤、徐放性カプセル、ドライシロップ、経口懸濁液、点眼液、軟膏、ゼリー、注射剤の形で入手可能である。(日本においては一部剤形のみ


細胞壁とは無関係なので、細胞壁を持たないマイコプラズマなどにも効果が望める。一方で、リボソームの結合部位に変異を持った細菌に対しては、エリスロマイシンが結合し難いため著しく効果が減弱する<ref group="注釈">このリボソームを変化させる事で細菌が獲得した耐性は、マクロライド・リンコマイシン・ストレプトグラミン耐性(MLS耐性)として知られる。これは、14員環や16員環のマクロライド系抗菌薬だけでなく、[[リンコマイシン]]や[[ストレプトグラミン]]に対しても耐性を発揮するためである。</ref>。また、ラクトンである14員環の部分を特異的に加水分解する酵素を有した細菌も知られている。
[[商品名]]として Robimycin, E-Mycin, E.E.S. Granules, E.E.S.-200, E.E.S.-400, E.E.S.-400 Filmtab, Erymax, Ery-Tab, Eryc, Erypar, EryPed, Eryped 200, Eryped 400, Erythrocin Stearate Filmtab, Erythrocot, E-Base, Ilosone, MY-E, Pediamycin, PCE Dispertab などが知られる。


==作用機序==
== 薬物動態 ==
エリスロマイシンは[[胃酸]]によって容易に失活するため、経口投与する場合には、胃酸で溶けないコーティングを施すか、胃酸に対して、より安定な塩やエステル体を投与する必要がある。
[[バクテリア]][[タンパク質]]合成を阻害することによって増殖を抑える。エリスロマイシンはバクテリア[[リボソーム]]50S サブユニット 23s rRNA に結合し、伸張する[[ペプチド]]の出口をふさぐことにより、ペプチドの転位を阻害する。


=== 吸収・分布 ===
==薬物動態==
[[胃酸]]によって容易に失活するため、経口投与する場合にはコーティングを施すか、より安定な塩や[[エステル]]体を処方する必要がる。吸収される速度は高く、ほとんどの組織や[[食細胞]]に拡散する。食細胞中での濃度が高くなりやすいためすぐに感染部位に到達し、食細胞が活動している間に高濃度のエリスロマイシンが放出される。髄液への移行はな
空腹時であれば吸収される速度は高く、ほとんどの組織や[[食細胞]]に拡散する。食細胞中での濃度が高くなりいため感染部位に到達し易く、食細胞が活動している間に高濃度のエリスロマイシンが放出される。ただし、髄液への移行は無い。適切剤形で経口投与した場合の[[バイオアベイラビリティ]]は、50パーセント程度である
バイオアベイラビリティは50%程度である。


==代謝==
=== 代謝・排泄 ===
大部分が[[肝臓]]で[[脱メチル化]]を受けて代謝される。主な排出経路は[[胆汁]]で、少量[[尿]]に排出される。[[半減期]]は1.5時間である。
体内に吸収されたエリスロマイシンは、大部分が[[肝臓]]で[[脱メチル化]]を受ける。脱メチル化されたエリスロマイシンの抗菌活性は、低下する事が知られている。参考までに、主な排出経路は[[胆汁]]である。なおごく少量[[尿]]に排出されるものの、血液透析や腹膜透析を行ってもエリスロマイシンは、ほとんど体内から除去されない。[[半減期]]は1.5時間である。


==副作用==
== ==
エリスロマイシンの[[抗菌スペクトル]]は[[ペニシリン]]と類似するが若干幅広く、ペニシリンに[[アレルギー]]を持つヒトに対してしばしば使用される。[[クラミジア]]、[[梅毒]]、[[淋病]]の流行に対処する場合にも用いられる。呼吸器系への感染症に関しては、[[マイコプラズマ]]・[[クラミドフィラ]]などの非定型微生物に対しても効果を持つ。しかし[[市中肺炎]]の原因菌の1つである[[インフルエンザ菌]]には抗菌活性を示さない。
[[下痢]]、[[吐き気]]、[[腹痛]]、[[嘔吐]]どの消化器系障害よく見られ。これらの症状はエリスロマイシンが胃で分解される際に生じるヘミケタルという物質が消化管の蠕動運動亢進するため発生するとされる。そのため選択薬として処方されことはあまり無い。しかしながら、このような運動性を誘発する効果をことから[[胃不全麻痺]] (gastroparesis) を処置する際には有効であるとされる。エリスロマイシンの静脈内投与が[[食道胃十二指腸鏡検査]]の際に胃の内容物を排出させるために用いられこともある。


=== 併用禁忌・薬物相互作用 ===
聴覚障害などのより重大な副作用はまれである。[[アレルギー反応]]は一般的ではないが、[[蕁麻疹]]や[[アナフィラキシー]]が起こることがある。[[胆汁鬱帯]]、[[スティーブンス・ジョンソン症候群]]、[[中毒性表皮壊死症]]などもまれに見られる。
かつてエリスロマイシンを投与した場合に[[突然死]]を起こした症例が報告されたため、大規模な[[コホート研究]]が行われ、[[ベラパミル]]や[[ジルチアゼム]]などをエリスロマイシンと同時に投与した患者において発生し得[[頻脈]]や心臓性突然死の関連が明らかにされた<ref>Ray, W.A.; Murray, K. T.; Meredith, S.; Narasimhulu, S. S.; Hall, K.; Stein, C. M. (2004). "Oral Erythromycin and the risk of sudden death from cardiac causes". ''NEJM([[ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン]].'' '''351''': 1089&ndash;1096. {{PMID|15356306}}</ref>。エリスロマイシンは、[[シトクロムP450]] の1つである[[CYP3A4]]と複合体を形成して、CYP3A4を阻害し、ベラパミルやジルチアゼムなどの代謝も遅らせる。このため、それらの薬剤や[[QT時間]]を延ばすような薬剤を使用している患者に対して、エリスロマイシンの投与は避けるべきであると結論付けられた。他の例として[[テルフェナジン]] (Seldane, Seldane-D)、[[アステミゾール]] (Hismanal)、[[シサプリド]](Propulsid, 多くの国でQT時間を延長させる効果のため認可が取り消され)、[[ピモジド]] (Orap) が挙げられる。

さらに、エリスロマイシンはCYP3A4の阻害作用に加えて、[[P糖タンパク質]]の機能も阻害するため、他の様々な薬物の代謝や排泄などに影響を与え得るため、薬物相互作用に注意が必要である。なお、エリスロマイシンの胃酸に対する不安定さを改善するために化学修飾を行って開発した、同じ14員環マクロライド系抗菌薬である[[クラリスロマイシン]]でも、同様の現象が知られている。

また、エリスロマイシンの作用点は細菌のリボソームだが、これは[[リンコマイシン]]や[[クリンダマイシン]]と作用点が重なる関係で、リンコマイシンやクリンダマイシンの作用が消える<ref>上野 芳夫・大村 智 監修、田中 晴雄・土屋 友房 編集 『微生物薬品化学(改訂第4版)』 p.188 南江堂 2003年4月15日発行 ISBN 4-524-40179-2</ref>。

=== 副作用 ===
[[下痢]]、[[吐き気]]、[[腹痛]]、[[嘔吐]]などの消化器系障害がよく見られる。これらの症状はエリスロマイシンが胃酸によって分解された際に生じる、[[ヘミケタル]]と言う物質が、消化管の蠕動運動を亢進するため発生するとされる。これが発生する理由は、消化管ホルモンの1つである{{仮リンク|モティリン|en|motilin}}の代わりに作用し、すなわち、[[モティリン受容体]]を刺激して、結果として胃の運動を促進すると判明した<ref>重信 弘毅・石井 邦雄(編集)『パートナー薬理学』 p.310 南江堂 2007年4月15日発行 ISBN 978-4-524-40223-6</ref>。

このよう問題事も手伝って、エリスロマイシンを第1選択薬として処方あまり無い。しかしながら、このような運動性を誘発する効果をエリスロマイシンは持ため、[[胃不全麻痺]] (gastroparesis) を処置する際には有効であるとされる。エリスロマイシンの静脈内投与が[[上部消化管内視鏡|食道胃十二指腸鏡検査]]の際に胃の内容物を排出させるために用いる場合もある。

聴覚障害などのより重大な副作用はである。[[アレルギー反応]]は一般的ではないが、[[蕁麻疹]]や[[アナフィラキシー]]が起こる場合がある。[[胆汁鬱帯]]、[[スティーブンス・ジョンソン症候群]]、[[中毒性表皮壊死症]]などもに見られる。


妊娠後期に母親がエリスロマイシンを摂取すると、子供の[[幽門狭窄症]]の可能性を増加させることが示されている。
妊娠後期に母親がエリスロマイシンを摂取すると、子供の[[幽門狭窄症]]の可能性を増加させることが示されている。


==禁忌==
== 歴史 ==
1949年[[フィリピン]]の科学者[[アベラルド・アギュイラー]] (Abelardo Aguilar) は彼を雇用していた[[イーライリリー・アンド・カンパニー|イーライリリー]]に、ある土のサンプルを送った。[[マクガイア]] (J. M. McGuire) が率いるイーライリリーの研究チームは、そのサンプルに含まれていた菌株 ''Streptomyces erythraeus'' の代謝産物からエリスロマイシン単離に成功した。サンプルが採取されたフィリピンの地名[[イロイロ州|イロイロ]]をって商品名はイロソン'''Ilosone'''と名付られ、1952年に上市された。イロチシン'''Ilotycin'''とも呼ばれた。
初期に[[突然死]]例が報告されたことから大規模な[[コホート研究]]が行われ、[[シトクロムP450]] の1つである [[CYP3A4]] を阻害してエリスロマイシンの代謝を遅らせる[[ベラパミル]]や[[ジルチアゼム]]などを同時に投与した患者におエリスロマイシンと[[頻脈]]や心臓性突然死の関連が明らかにされた<ref>Ray, W.A.; Murray, K. T.; Meredith, S.; Narasimhulu, S. S.; Hall, K.; Stein, C. M. (2004). "Oral Erythromycin and the risk of sudden death from cardiac causes". ''[[ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン|NEJM]].'' '''351''': 1089&ndash;1096. PMID 15356306</ref>。すなわち、エリスロマイシンはそれらの薬剤や[[QT時間]]を延ばすような薬剤を使用している患者に対しての投与は避けるべきであると結論付けられた。他の例として[[テルフェナジン]] (Seldane®, Seldane-D®)、[[アステミゾール]] (Hismanal®)、[[シサプリド]](Propulsid®, 多くの国でQT時間を延長させる効果のため認可が取り消されている)、[[ピモジド]] (Orap®) が挙げられる。

1981年に[[ハーバード大学]]の化学教授で[[ノーベル化学賞]]受賞者の[[ロバート・バーンズ・ウッドワード]]とその研究チームが、エリスロマイシンAの最初の立体選択的不斉合成を報告した<ref>{{Cite journal|last=Woodward|first=R. B.|last2=Logusch|first2=E.|last3=Nambiar|first3=K. P.|last4=Sakan|first4=K.|last5=Ward|first5=D. E.|last6=Au-Yeung|first6=B. W.|last7=Balaram|first7=P.|last8=Browne|first8=L. J.|last9=Card|first9=P. J.|date=1981-06|title=Asymmetric total synthesis of erythromcin. 1. Synthesis of an erythronolide A secoacid derivative via asymmetric induction|url=https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja00401a049|journal=Journal of the American Chemical Society|volume=103|issue=11|pages=3210–3213|language=en|doi=10.1021/ja00401a049|issn=0002-7863}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Woodward|first=R. B.|last2=Au-Yeung|first2=B. W.|last3=Balaram|first3=P.|last4=Browne|first4=L. J.|last5=Ward|first5=D. E.|last6=Au-Yeung|first6=B. W.|last7=Balaram|first7=P.|last8=Browne|first8=L. J.|last9=Card|first9=P. J.|date=1981-06|title=Asymmetric total synthesis of erythromycin. 2. Synthesis of an erythronolide A lactone system|url=https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja00401a050|journal=Journal of the American Chemical Society|volume=103|issue=11|pages=3213–3215|language=en|doi=10.1021/ja00401a050|issn=0002-7863}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Woodward|first=R. B.|last2=Logusch|first2=E.|last3=Nambiar|first3=K. P.|last4=Sakan|first4=K.|last5=Ward|first5=D. E.|last6=Au-Yeung|first6=B. W.|last7=Balaram|first7=P.|last8=Browne|first8=L. J.|last9=Card|first9=P. J.|date=1981-06|title=Asymmetric total synthesis of erythromycin. 3. Total synthesis of erythromycin|url=https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja00401a051|journal=Journal of the American Chemical Society|volume=103|issue=11|pages=3215–3217|language=en|doi=10.1021/ja00401a051|issn=0002-7863}}</ref>。

== 剤形 ==
腸溶コーティング錠剤、徐放性カプセル、[[ドライシロップ]]、経口懸濁液、点眼液、[[軟膏]]、ゼリー、注射剤の形で入手可能である<ref group="注釈">日本において一般に流通しているの一部剤形のみである。</ref>。

[[商品名]]として エリスロシン, Robimycin, E-Mycin, E.E.S. Granules, E.E.S.-200, E.E.S.-400, E.E.S.-400 Filmtab, Erymax, Ery-Tab, Eryc, Erypar, EryPed, Eryped 200, Eryped 400, Erythrocin Stearate Filmtab, Erythrocot, E-Base, Ilosone, MY-E, Pediamycin, PCE Dispertab などが知られる。


==参考文献==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
<references />
=== 注釈 ===
<references group="注釈"/>
=== 出典 ===
<references/>


{{DEFAULTSORT:えりすろまいしん}}
{{DEFAULTSORT:えりすろまいしん}}
[[Category:マクロライド系抗菌薬]]<!--用語を理解していれば判るように、エリスロマイシンは抗生物質ですけれども、エリスロマイシンエチルコハク酸エステルなどは抗生物質ではないので、抗菌薬と総称しないと、誤記です。-->
[[Category:抗生物質]]
[[Category:マクロライド]]
[[Category:配糖体]]
[[Category:配糖体]]
[[Category:WHOエッセンシャルドラッグ]]
[[Category:WHOエッセンシャルドラッグ]]
[[Category:イーライリリー・アンド・カンパニー]]

2024年12月9日 (月) 07:26時点における最新版

エリスロマイシン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
胎児危険度分類
  • AU: A
  • US: B
法的規制
薬物動態データ
代謝肝臓(under 5% excreted unchanged)
半減期1.5 時間
排泄胆汁
データベースID
CAS番号
114-07-8
ATCコード D10AF02 (WHO) J01FA01 (WHO)S01AA17 (WHO)
PubChem CID: 3255
DrugBank APRD00953
ChemSpider 12041
KEGG D00140
化学的データ
化学式C37H67NO13
分子量733.93 g/mol
テンプレートを表示

エリスロマイシン (INN:erythromycin) とは、14員環マクロライド系抗菌薬の1つである。日本では「エリスロシン」の商品名でも販売されてきた経緯が有るものの、化学でエリスロシン英語:erythrosine)と言った場合には、全く別な赤色の合成着色料の1種の名称である。

所在

[編集]

エリスロマイシンは天然に存在する化合物の1つであり、放線菌属の Saccaropolyspora erythraea[1] (旧名 Streptomyces erythraeus[2])によって作り出される。14員環ラクトン環に2つのL-クラジノースとD-デソアミン)が付いた構造を持つ。合計10箇所の不斉中心を有するなど構造が複雑なため、合成するのは難しいとされる化合物である。

作用機序

[編集]

細菌のタンパク質合成装置であるリボソームの機能を阻害する事によって、細菌の増殖を抑える。エリスロマイシンは細菌のリボソーム中の50S サブユニットにおける 23s rRNA に結合し、伸張するペプチドの出口を塞ぎ、ペプチドの転位を阻害する。

細胞壁とは無関係なので、細胞壁を持たないマイコプラズマなどにも効果が望める。一方で、リボソームの結合部位に変異を持った細菌に対しては、エリスロマイシンが結合し難いため著しく効果が減弱する[注釈 1]。また、ラクトンである14員環の部分を特異的に加水分解する酵素を有した細菌も知られている。

薬物動態

[編集]

エリスロマイシンは胃酸によって容易に失活するため、経口投与する場合には、胃酸で溶けないコーティングを施すか、胃酸に対して、より安定な塩やエステル体を投与する必要がある。

吸収・分布

[編集]

空腹時であれば吸収される速度は高く、ほとんどの組織や食細胞に拡散する。食細胞中での濃度が高くなり易いため、感染部位に到達し易く、食細胞が活動している間に高濃度のエリスロマイシンが放出される。ただし、髄液への移行は無い。適切な剤形で経口投与した場合のバイオアベイラビリティは、50パーセント程度である。

代謝・排泄

[編集]

体内に吸収されたエリスロマイシンは、大部分が肝臓脱メチル化を受ける。脱メチル化されたエリスロマイシンの抗菌活性は、低下する事が知られている。参考までに、主な排出経路は胆汁である。なお、ごく少量は尿に排出されるものの、血液透析や腹膜透析を行ってもエリスロマイシンは、ほとんど体内から除去されない。半減期は約1.5時間である。

用途

[編集]

エリスロマイシンの抗菌スペクトルペニシリンと類似するが若干幅広く、ペニシリンにアレルギーを持つヒトに対して、しばしば使用される。クラミジア梅毒淋病の流行に対処する場合にも用いられる。呼吸器系への感染症に関しては、マイコプラズマクラミドフィラなどの非定型微生物に対しても効果を持つ。しかし、市中肺炎の原因菌の1つであるインフルエンザ菌には抗菌活性を示さない。

併用禁忌・薬物相互作用

[編集]

かつてエリスロマイシンを投与した場合に突然死を起こした症例が報告されたため、大規模なコホート研究が行われ、ベラパミルジルチアゼムなどをエリスロマイシンと同時に投与した患者において発生し得る、頻脈や心臓性突然死との関連が明らかにされた[3]。エリスロマイシンは、シトクロムP450 の1つであるCYP3A4と複合体を形成して、CYP3A4を阻害し、ベラパミルやジルチアゼムなどの代謝も遅らせる。このため、それらの薬剤やQT時間を延ばすような薬剤を使用している患者に対して、エリスロマイシンの投与は避けるべきであると結論付けられた。他の例としてテルフェナジン (Seldane, Seldane-D)、アステミゾール (Hismanal)、シサプリド(Propulsid, 多くの国でQT時間を延長させる効果のため認可が取り消された)、ピモジド (Orap) が挙げられる。

さらに、エリスロマイシンはCYP3A4の阻害作用に加えて、P糖タンパク質の機能も阻害するため、他の様々な薬物の代謝や排泄などに影響を与え得るため、薬物相互作用に注意が必要である。なお、エリスロマイシンの胃酸に対する不安定さを改善するために化学修飾を行って開発した、同じ14員環マクロライド系抗菌薬であるクラリスロマイシンでも、同様の現象が知られている。

また、エリスロマイシンの作用点は細菌のリボソームだが、これはリンコマイシンクリンダマイシンと作用点が重なる関係で、リンコマイシンやクリンダマイシンの作用が消える[4]

副作用

[編集]

下痢吐き気腹痛嘔吐などの消化器系障害がよく見られる。これらの症状はエリスロマイシンが胃酸によって分解された際に生じる、ヘミケタルと言う物質が、消化管の蠕動運動を亢進するため発生するとされる。これが発生する理由は、消化管ホルモンの1つであるモティリンの代わりに作用し、すなわち、モティリン受容体を刺激して、結果として胃の運動を促進すると判明した[5]

このような問題が有る事も手伝って、エリスロマイシンを第1選択薬として処方する事は、あまり無い。しかしながら、このような運動性を誘発する効果をエリスロマイシンは持つため、胃不全麻痺 (gastroparesis) を処置する際には有効であるとされる。エリスロマイシンの静脈内投与が食道胃十二指腸鏡検査の際に、胃の内容物を排出させるために用いる場合もある。

聴覚障害などのより重大な副作用は稀である。アレルギー反応は一般的ではないが、蕁麻疹アナフィラキシーが起こる場合がある。胆汁鬱帯スティーブンス・ジョンソン症候群中毒性表皮壊死症なども稀に見られる。

妊娠後期に母親がエリスロマイシンを摂取すると、子供の幽門狭窄症の可能性を増加させることが示されている。

歴史

[編集]

1949年にフィリピンの科学者アベラルド・アギュイラー (Abelardo Aguilar) は、彼を雇用していたイーライリリーに、ある土のサンプルを送った。マクガイア (J. M. McGuire) が率いるイーライリリーの研究チームは、そのサンプルに含まれていた菌株 Streptomyces erythraeus の代謝産物からエリスロマイシンの単離に成功した。サンプルが採取されたフィリピンの地名のイロイロを取って、商品名はイロソン(Ilosone)と名付られ、1952年に上市された。イロチシン(Ilotycin)とも呼ばれた。

1981年にハーバード大学の化学教授でノーベル化学賞受賞者のロバート・バーンズ・ウッドワードとその研究チームが、エリスロマイシンAの最初の立体選択的不斉合成を報告した[6][7][8]

剤形

[編集]

腸溶コーティング錠剤、徐放性カプセル、ドライシロップ、経口懸濁液、点眼液、軟膏、ゼリー、注射剤の形で入手可能である[注釈 2]

商品名として エリスロシン, Robimycin, E-Mycin, E.E.S. Granules, E.E.S.-200, E.E.S.-400, E.E.S.-400 Filmtab, Erymax, Ery-Tab, Eryc, Erypar, EryPed, Eryped 200, Eryped 400, Erythrocin Stearate Filmtab, Erythrocot, E-Base, Ilosone, MY-E, Pediamycin, PCE Dispertab などが知られる。

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ このリボソームを変化させる事で細菌が獲得した耐性は、マクロライド・リンコマイシン・ストレプトグラミン耐性(MLS耐性)として知られる。これは、14員環や16員環のマクロライド系抗菌薬だけでなく、リンコマイシンストレプトグラミンに対しても耐性を発揮するためである。
  2. ^ 日本において一般に流通しているのは、一部剤形のみである。

出典

[編集]
  1. ^ エリスロマイシン Erythromycin”. 第十八改正日本薬局方名称データベース. 国立医薬品食品衛生研究所 (2021年7月16日). 2022年6月4日閲覧。
  2. ^ Labeda, David P. (1987-01-01). “Transfer of the Type Strain of Streptomyces erythraeus (Waksman 1923) Waksman and Henrici 1948 to the Genus Saccharopolyspora Lacey and Goodfellow 1975 as Saccharopolyspora erythraea sp. nov., and Designation of a Neotype Strain for Streptomyces erythraeus”. International Journal of Systematic Bacteriology 37 (1): 19. doi:10.1099/00207713-37-1-19. 
  3. ^ Ray, W.A.; Murray, K. T.; Meredith, S.; Narasimhulu, S. S.; Hall, K.; Stein, C. M. (2004). "Oral Erythromycin and the risk of sudden death from cardiac causes". NEJM(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン). 351: 1089–1096. PMID 15356306
  4. ^ 上野 芳夫・大村 智 監修、田中 晴雄・土屋 友房 編集 『微生物薬品化学(改訂第4版)』 p.188 南江堂 2003年4月15日発行 ISBN 4-524-40179-2
  5. ^ 重信 弘毅・石井 邦雄(編集)『パートナー薬理学』 p.310 南江堂 2007年4月15日発行 ISBN 978-4-524-40223-6
  6. ^ Woodward, R. B.; Logusch, E.; Nambiar, K. P.; Sakan, K.; Ward, D. E.; Au-Yeung, B. W.; Balaram, P.; Browne, L. J. et al. (1981-06). “Asymmetric total synthesis of erythromcin. 1. Synthesis of an erythronolide A secoacid derivative via asymmetric induction” (英語). Journal of the American Chemical Society 103 (11): 3210–3213. doi:10.1021/ja00401a049. ISSN 0002-7863. https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja00401a049. 
  7. ^ Woodward, R. B.; Au-Yeung, B. W.; Balaram, P.; Browne, L. J.; Ward, D. E.; Au-Yeung, B. W.; Balaram, P.; Browne, L. J. et al. (1981-06). “Asymmetric total synthesis of erythromycin. 2. Synthesis of an erythronolide A lactone system” (英語). Journal of the American Chemical Society 103 (11): 3213–3215. doi:10.1021/ja00401a050. ISSN 0002-7863. https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja00401a050. 
  8. ^ Woodward, R. B.; Logusch, E.; Nambiar, K. P.; Sakan, K.; Ward, D. E.; Au-Yeung, B. W.; Balaram, P.; Browne, L. J. et al. (1981-06). “Asymmetric total synthesis of erythromycin. 3. Total synthesis of erythromycin” (英語). Journal of the American Chemical Society 103 (11): 3215–3217. doi:10.1021/ja00401a051. ISSN 0002-7863. https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja00401a051.