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'''近赤外線分光法''' (きんせきがいせんぶんこうほう) は、[[近赤外線]]領域での[[分光法]]であり、以下に示すような様々な応用がなされている。英語 ''Near-Infrared Spectroscopy'' を省略して'''NIRS'''とも呼ばれる。近赤外線分光器 ''Near-Infrared Spectroscope'' を指してNIRSと呼ぶ場合もある。近赤外線は[[皮膚]]や[[頭蓋骨]]によっても完全には遮られないため、生体組織を非観血的に調べることもできる。 |
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'''近赤外線分光法'''(きんせきがいせんぶんこうほう、{{lang-en|near‐infrared spectroscopy}} '''NIRS''')は、[[近赤外線]]領域での[[分光法]]である。測定対象に近赤外線を照射し、吸光度の変化によって成分を算出する。特長として、近赤外線は中赤外線・遠赤外線と比較して吸収が極めて小さいため、切片等を作成することなく、非破壊・非接触での測定が可能なことが挙げられる。 |
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実用化のための難点としては、近赤外線分光法では倍音・三倍音を観測すること、光の吸収は様々な要因が複合しているために成分との直接的な関連付けが困難なことなどがあった。しかし、コンピュータの低価格化と多変量解析(ケモメトリックス)の発達により、定量分析に応用することが可能となった。 |
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*畜産 - 鶏などの腹腔内脂肪の検査。 |
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*医科学・神経科学 - [[ヘモグロビン]]や[[ミオグロビン]]は酸素と結合した時としない時とで近赤外領域での吸光度が異なる。この性質を利用して[[大脳皮質]]を初めとした[[ヒト]]の[[組織]]における血流量、酸素消費などを調べることができる。脳に用いるものは、現在も計測原理と技術進歩が継続している。1977年Jobsis(米国)によって提案された直進光を用いた光CTと呼ばれる技術と散乱反射光を用いた方法がある。その後、米国の別なグループが1989年に散乱反射光によっても頭部の3次元的な奥行きを考慮した血液分布計測技術を提案した(現在DOTと呼称している)。しかし、いずれの光計測技術のアイデアは、頭皮と頭蓋骨で覆われた脳実質を確実に計測するに至らなかった。この壁は、1991年に日本、加藤俊徳らによる研究で突破された。外部刺激、課題遂行に対応して局所の脳領域が反応することを2つのペアチャンネルで計測することで解決をしたのである。頭皮上から散乱反射する光を照射して検出するだけでは、脳内の位置情報が確定できなかったが、異なった脳細胞分布から、それぞれ異なった脳反応を得ることで、全く新しい脳機能に関する位置情報マッピングが実現したのである。この加藤の光機能画像法は、NIRSを用いた脳機能計測法の基本原理となっている。 |
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*脳酸素交換機能マッピング(COE: Cerebral functional mapping of oxygen exchange) |
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光CTは、安静時の脳血液分布図を描こうとする目的であったが、散乱・反射光を用いた光機能画像法の原理によって、脳機能に対応した脳血液分布図を描く目的にかわった。この後、国内外の研究者、企業によって、光機能画像法の原理を応用した装置が自作されたり販売されている。 |
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光機能画像法の原理によって、脳のヘモグロビン関連の局在信号が、何を意味しているか?新たな問題が浮上した。既存の考え方や市販の装置もこの問題点を解決したものではなく、研究用の装置として未完成であった。Grattonら(米国)は、EROSと呼ばれる計測法によって、2波長によってヘモグロビン換算する前の電気活動そのものを抽出している。 |
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しかし、2001年光脳機能計測の第一発見者の加藤俊徳は、このヘモグロビン変化の意味する大脳生理学上の問題を酸素交換波動方程式を導くことで解決した。すなわち、毛細血管内で、酸化ヘモグロビンが酸素を放して、還元ヘモグロビンに変化する酸素交換反応は、数学上もっとも美しい式とされるオイラーの公式を用いて、すべて記述できるとしたのである。この式を応用することで酸素動態が直接、頭皮上からも観察できるCOE検査が実現している。 |
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上述のように非破壊・非接触測定が可能なこと、化学分析に比べ迅速に測定結果が求められること、マイクロウェーヴなどと比較し装置が安価なことから、幅広い分野で用いられ、以下に示すように様々な応用がなされている。 |
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== 外部リンク == |
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*[http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2005/1017_itokawa.shtml 近赤外線分光器(NIRS)の観測の状況] - はやぶさによるイトカワの調査 |
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*[http://www.med.shimadzu.co.jp/products/om/01.html 近赤外光イメージング装置 NIRStation] - 多チャネルの大脳皮質用NIRS装置 |
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*[http://www.miyuki-net.co.jp/jp/product/etg7000.htm 光トポグラフィ装置 ETG 7000] - 多チャネルの大脳皮質用NIRS装置 |
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*[http://square.umin.ac.jp/~NIRS/ 医用近赤外線分光法研究会] - NIRSに関する研究会 |
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*[http://jofbis.umin.jp/ 日本光脳機能イメージング研究会] - NIRSに関する研究会 |
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*[http://www.katobrain.com/profile/discovery.html NIRSからCOE検査へ] - COE(脳酸素交換機能計測法)に関するサイト |
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== 主な用途 == |
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*[[食品産業]] - 小麦粉、スターチ、食用油、食肉等の材料系の成分分析から、クッキー、チョコレート、チーズ、乳製品等の加工食品系の成分分析に用いられており、さらには、日本酒、ワイン、醤油などの液体の測定にも多く用いられている。<!-- この分野は、近赤外分光法を最も多く利用している分野になる。--> |
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*[[畜産]] - 一般的に多く用いられるのは、飼料の検査分野である。また、鶏などの腹腔内脂肪の検査にも用いられることもある。 |
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*[[医薬品]] - ヨーロッパでの利用を皮切りに、アメリカでも21世紀になり本格的に使用されてきている。近年日本においても、諸外国との取引の関係から、導入する企業が増えている。目的としては、原材料の受け入れ検査や工程管理(混合均一性の確認)に用いられることが多い。また、その他にも、結晶形や結晶化度のチェックに用いることが出来ることが知られている。 |
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*[[医科学]]・[[神経科学]] - 近赤外線は[[皮膚]]や[[頭蓋骨]]によっても完全には遮られず、生体組織に含まれる[[ヘモグロビン]]や[[ミオグロビン]]は酸素と結合した時としない時とで近赤外領域での吸光特性が異なる。これらの性質を利用して、生体の非侵襲計測に利用することができる。1940年代にGlenn Allan Millikan<ref>「[[ミリカンの油滴実験]]」の[[ロバート・ミリカン]]の二男である。</ref>は、''[[in vivo]]''での血中ヘモグロビンの酸素飽和度の計測を試みた。この方式は1970年代に[[青柳卓雄]]によって[[パルスオキシメーター]]に発展し、近赤外線を用いた経皮的動脈血酸素飽和度(SpO<sub>2</sub>)計測が実用化された。また、近年では[[大脳皮質]]における血流量、酸素消費などの計測に発展している。 |
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*医科学・神経科学 - [[ヘモグロビン]]や[[ミオグロビン]]は酸素と結合した時としない時とで近赤外領域での吸光度が異なる。この性質を利用して[[大脳皮質]]を初めとした[[ヒト]]の[[組織]]における血流量、酸素消費などを調べることができる。--> |
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脳に用いるものは、現在も計測原理と技術進歩が継続している。1977年Jobsis(米国)によって提案された直進光を用いた光CTと呼ばれる技術と散乱反射光を用いた方法がある。その後、米国の別なグループが1989年に散乱反射光によっても頭部の3次元的な奥行きを考慮した血液分布計測技術を提案した(現在DOTと呼称している)。--> |
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==関連項目== |
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* [[NIRS脳計測装置]] |
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[[category:光学|きんせきがいせんふんこうほう]] |
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* [[赤外分光法]] |
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* [[光トポグラフィー]] |
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== 参考文献 == |
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*『近赤外分光法 (分光法シリーズ2)』 尾崎幸洋 編著、講談社 、2015年、ISBN 9784061569027 |
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*『近赤外分光法 (日本分光学会 測定法シリーズ)』 尾崎幸洋・河田 聡、学会出版センター、1996年、ISBN 9784762298233 |
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*『近赤外分光法入門』 岩元睦夫・河野澄夫・魚住 純、幸書房、1994年、ISBN 9784782101278 |
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*G.A. Millikan, "The oximeter, an instrument for measuring continuously the oxygen saturation of arterial blood in man," ''Rev. Sci. Instrum.'', vol.13, 1942, pp.434-444. |
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== 注 == |
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[[Category:分析化学]] |
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[[Category:赤外線]] |
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[[Category:光学]] |
2024年6月27日 (木) 17:48時点における最新版
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近赤外線分光法(きんせきがいせんぶんこうほう、英語: near‐infrared spectroscopy NIRS)は、近赤外線領域での分光法である。測定対象に近赤外線を照射し、吸光度の変化によって成分を算出する。特長として、近赤外線は中赤外線・遠赤外線と比較して吸収が極めて小さいため、切片等を作成することなく、非破壊・非接触での測定が可能なことが挙げられる。
実用化のための難点としては、近赤外線分光法では倍音・三倍音を観測すること、光の吸収は様々な要因が複合しているために成分との直接的な関連付けが困難なことなどがあった。しかし、コンピュータの低価格化と多変量解析(ケモメトリックス)の発達により、定量分析に応用することが可能となった。
上述のように非破壊・非接触測定が可能なこと、化学分析に比べ迅速に測定結果が求められること、マイクロウェーヴなどと比較し装置が安価なことから、幅広い分野で用いられ、以下に示すように様々な応用がなされている。
主な用途
[編集]- 宇宙 - 天体の組成を調べる。例えば宇宙探査機「はやぶさ」はこの装置によって小惑星「イトカワ」を調査した。
- 食品産業 - 小麦粉、スターチ、食用油、食肉等の材料系の成分分析から、クッキー、チョコレート、チーズ、乳製品等の加工食品系の成分分析に用いられており、さらには、日本酒、ワイン、醤油などの液体の測定にも多く用いられている。
- 農業 - 代表的なものとして、お茶の成分測定(窒素、タンニン、水分など)や、野菜の硝酸イオン濃度、ミカンなどの糖度評価/選別に用いられる。
- 畜産 - 一般的に多く用いられるのは、飼料の検査分野である。また、鶏などの腹腔内脂肪の検査にも用いられることもある。
- 医薬品 - ヨーロッパでの利用を皮切りに、アメリカでも21世紀になり本格的に使用されてきている。近年日本においても、諸外国との取引の関係から、導入する企業が増えている。目的としては、原材料の受け入れ検査や工程管理(混合均一性の確認)に用いられることが多い。また、その他にも、結晶形や結晶化度のチェックに用いることが出来ることが知られている。
- 医科学・神経科学 - 近赤外線は皮膚や頭蓋骨によっても完全には遮られず、生体組織に含まれるヘモグロビンやミオグロビンは酸素と結合した時としない時とで近赤外領域での吸光特性が異なる。これらの性質を利用して、生体の非侵襲計測に利用することができる。1940年代にGlenn Allan Millikan[1]は、in vivoでの血中ヘモグロビンの酸素飽和度の計測を試みた。この方式は1970年代に青柳卓雄によってパルスオキシメーターに発展し、近赤外線を用いた経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)計測が実用化された。また、近年では大脳皮質における血流量、酸素消費などの計測に発展している。
関連項目
[編集]参考文献
[編集]- 『近赤外分光法 (分光法シリーズ2)』 尾崎幸洋 編著、講談社 、2015年、ISBN 9784061569027
- 『近赤外分光法 (日本分光学会 測定法シリーズ)』 尾崎幸洋・河田 聡、学会出版センター、1996年、ISBN 9784762298233
- 『近赤外分光法入門』 岩元睦夫・河野澄夫・魚住 純、幸書房、1994年、ISBN 9784782101278
- G.A. Millikan, "The oximeter, an instrument for measuring continuously the oxygen saturation of arterial blood in man," Rev. Sci. Instrum., vol.13, 1942, pp.434-444.
注
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