丁髷

江戸時代の男性にみられた髪型

丁髷(ちょんまげ)とは、江戸時代の男性にみられた髪型の一種。月代(さかやき)と呼ばれる前頭部から頭頂部にかけての範囲の頭髪を剃り、残りの頭髪を結ったものをいう[1]

丁髷
職人のちょんまげ。1890年。ロバート・フレデリック・ブルム

本来は本多髷(ほんだまげ)と言い、「ちょんまげ」は、えび折りにした髷が(ちょん)に似ているところから生じた明治初期以降の俗称である[2]

江戸時代の男性が結ったを全て丁髷と呼ぶことも多いが、正確には丁髷は髪の少ない老人などが結う髷を指し[3]、一般的に結われた髷は銀杏髷で、丁髷とは異なるものである。

現代でも大相撲においては力士は基本的に丁髷を結っている。十両以上(関取)の場合、本場所の取組などの正式なときには基本的には大銀杏を結う[4]

特徴

編集

頭頂部を剃る露頂(ろちょう)の風習は室町末期以降広がった[5]。成人が月代(さかやき)を剃る武家の風習は織豊期から江戸初期にかけて一般庶民にも広がったが、丁髷(ちょんまげ)の結い方は時代により大きく異なる[5]

成人男性の丁髷は、大きく分けて、束ねた髪を元結(もとゆい)で巻いて先端を出した茶筅髷(ちゃせんまげ)と元結の先端を二つ折りにした髷とがみられた[5]。元服前の男子は前髪を残し中剃りする若衆髷(わかしゅまげ)で元服後に前髪を剃り落とした[5]

散髪脱刀令

編集

明治4年8月9日1871年9月23日)に散髪脱刀令(いわゆる断髪令)が太政官布告され、さらに明治6年(1873年)、明治天皇の断髪に至ると、伝統的な男髷を結う男性が激減し、洋髪やざんぎり頭が流行した[6]。俗謡では「ちょんまげ頭を叩いてみれば、因循姑息の音がする」「総髪頭を叩いてみれば、王政復古の音がする」「ざんぎり頭を叩いてみれば、文明開化の音がする」とうたわれた[7]

山川菊栄は著書『武家の女性』で母方の祖父に当たる青山延寿が維新前には髷結いにとても苦労していたが、維新後、毎日の髷結いから解放されたエピソードを取り上げている[1]

一方、丁髷に対する愛着や誇りから散髪に消極的な者もいた[1][8][9]剣術家榊原鍵吉薩摩藩最後の藩主だった島津忠義は、生涯髷を切らずにいたと伝わる[10]

キャラクター化

編集

漫画やキャラクター商品において「ちょんまげ」と称しているものは簡略化がなされているものがある。

脚注

編集

出典

編集
  1. ^ a b c 難波知子「明治時代の生活に学ぶ 第1回 "ちょんまげ"から"ざんぎり"へ」『国民生活』第65号、独立行政法人 国民生活センター、2017年12月、28-29頁、2022年3月16日閲覧 
  2. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ). “ちょんまげとは? 意味や使い方”. コトバンク. 2023年5月8日閲覧。
  3. ^ 第2版,世界大百科事典内言及, 精選版 日本国語大辞典,デジタル大辞泉,ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典,百科事典マイペディア,世界大百科事典. “丁髷(ちょんまげ)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2023年11月10日閲覧。
  4. ^ 小項目事典, 改訂新版 世界大百科事典,ブリタニカ国際大百科事典. “相撲髷(すもうまげ)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2024年4月9日閲覧。
  5. ^ a b c d シリンガル・レイハン『衣服から見る日本』(レポート)広島大学、2013年11月30日、1-19頁https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/ja/000387022022年3月16日閲覧 
  6. ^ 江戸東京博物館. “明治5年頃の日本人男性の髪型は、ザンギリ頭とちょん髷(まげ)のどちらが多かったか。(2006年)”. 江戸東京博物館. 2023年7月24日閲覧。
  7. ^ 文明開化でなにが強制されたのか?”. ダイヤモンド・オンライン (2017年2月15日). 2023年11月10日閲覧。
  8. ^ 夏目漱石吾輩は猫である』の時代設定は、1905年(明治38年)前後であるが、以下の会話がなされている。
    主人は伯父さんと云う言葉を聞いて急に思い出したように「君に伯父があると云う事は、今日始めて聞いた。今までついに噂をした事がないじゃないか、本当にあるのかい」と迷亭に聞く。迷亭は待ってたと云わぬばかりに「うんその伯父さ、その伯父が馬鹿に頑物でねえ――やはりその十九世紀から連綿と今日こんにちまで生き延びているんだがね」と主人夫婦を半々に見る。「オホホホホホ面白い事ばかりおっしゃって、どこに生きていらっしゃるんです」「静岡に生きてますがね、それがただ生きてるんじゃ無いです。頭にちょん髷を頂いて生きてるんだから恐縮しまさあ。(略)」 — 夏目漱石、吾輩は猫である
  9. ^ 歴史を動かす行動理論”. 株式会社ジェック (2022年4月21日). 2023年11月10日閲覧。 “生涯まげを切らず帯刀し、和装で過ごした。”
  10. ^ 島津忠義公銅像(鹿児島市) | 明治維新と鹿児島みて歩き”. kagoshima-meijiishin150.com. 2024年1月27日閲覧。
  11. ^ TVアニメ『転生したらスライムだった件 転スラ日記』に、ココブ役で出演させていただきました。”. 2024年1月27日閲覧。
  12. ^ キテレツ瓦版 号外”. 小学館. 2024年1月27日閲覧。 “おっちょこちょいだけど、いつも一生懸命なコロ助。ちょんまげ姿の見た目どおり、生き方も武士そのものです!”
  13. ^ デジタル大辞泉プラス. “はち丸とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2024年1月27日閲覧。 “ちょんまげをした殿様の姿。”

関連項目

編集

外部リンク

編集