ド・モアブルの定理
ド・モアブルの定理(ド・モアブルのていり、英: de Moivre's theorem; ド・モアブルの公式(ド・モアブルのこうしき)ともいう)とは、複素数(特に実数)θ および整数 n に対して
が成り立つという、複素数と三角関数に関する定理である。定理の名称はアブラーム・ド・モアブル (Abraham de Moivre) に因むが、彼がこの定理について言及したわけではない[1]。数学的帰納法による証明では、三角関数の加法定理が利用される。
実数 θ と正の整数 n に対してド・モアブルの定理を考えると、左辺を展開し右辺と実部・虚部を比較することにより、n倍角の公式が導出される。すなわち、ド・モアブルの公式は三角関数の n倍角の公式を内在的に含んでいる。
オイラーの公式: より、ド・モアブルの定理は複素指数函数についての指数法則の一つ:
が成り立つことを意味している。
証明
編集数学的帰納法による証明
編集証明 —
1. まず、n ≥ 0 について成り立つことを、数学的帰納法により証明する。
[i] n = 0 のとき
- (左辺)
- (右辺)
よって n = 0 のときに本定理は成立する。
[ii] n − 1 のとき、すなわち
が成り立つと仮定すると
ゆえに、n のときも本定理は成立する。
よって、[i], [ii] から、数学的帰納法によって、n ≥ 0 に対して本定理が成り立つ。
2. 続いて n < 0 の場合を、1. を利用して証明する。
n < 0 のとき、n = −m とおくと、m は自然数である。
1. の結果より、m については定理の等式が成り立つから、
ゆえに n < 0 のときも本定理が成り立つ。
したがって、1、2 より、任意の整数 n に対して、本定理が成り立つ[2]。
(Q.E.D.)
複素数の積の性質による証明
編集オイラーの公式による証明
編集指数が非整数の場合
編集ド・モアブルの定理は指数が非整数のとき一般には成り立たない。それは、複素数の非整数乗は複数の異なる値を取る(多価関数)からである(冪乗#指数・対数法則の不成立参照)。n が整数でないとき、ド・モアブルの定理における n 乗の式は、等式が成立する値を含めた複数の値を取ることとなる。
θ を実数、w を複素数とすると
- (n は整数)
である。したがって、w が整数であれば
という 1 つの値を取るが、w が整数でないときは を含む複数の値を取ることになる。
{exp(iθ)}w の値の取り方について、w が有理数であれば、w = a/b (a, b は互いに素)と表すと、2nwπ = 2π × na/b であるから、n = 0, 1, …, b − 1 で循環し、b 個の値を取る。w ∉ Q(無理数または虚数)ならば循環せず、可算無限個の値を取る。
適用例
編集- 虚数単位の累乗
- n を整数とすると、
-
- n が非整数のときは、先述したように、複数取る値のうちの1つだけを求めている。
- 1の冪根
- n を 2 以上の自然数とするとき、zn = 1 を満たす z を求める。
- z の極形式を z = r(cos θ + i sin θ)(r ≥ 0, θ は実数)とする。
関連項目
編集脚注
編集注釈
編集参照
編集- ^ Lial, Margaret L.; Hornsby, John; Schneider, David I.; Callie J., Daniels (2008). College Algebra and Trigonometry (4th ed.). Boston: Pearson/Addison Wesley. p. 792. ISBN 9780321497444
- ^ ド・モアブルの定理
- ^ 2013年度「代数学基礎」, pp.57–60
- ^ ド・モアブルの公式とオイラーの公式 - 九州工業大学工学部 教授 鎌田 裕之