「交響曲第1番 (プロコフィエフ)」の版間の差分
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{{Portal クラシック音楽}}
[[File:Sergei Prokofiev 02.jpg|thumb|right|210px|『古典交響曲』作曲翌年のプロコフィエフ（1918年）]]
『'''古典交響曲'''』（こてんこうきょうきょく、{{lang-fr|''Symphonie Classique''}}）'''ニ長調 作品25'''は、ロシアの作曲家[[セルゲイ・プロコフィエフ]]が[[1916年]]から[[1917年]]にかけて作曲した[[交響曲]]である{{sfn|プロコフィエフ|2010|loc=作品目録011}}。大胆な[[転調]]などプロコフィエフ独自の作風が見られるが{{sfn|戸田|1979|p=29}}、全体は[[フランツ・ヨーゼフ・ハイドン|ハイドン]]の技法に基づいた[[18世紀]]風の音楽として書かれている{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=86}}{{sfn|戸田|1979|p=28}}。作曲者自身によって最初の交響曲と見なされた作品であり{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=104}}、'''交響曲第1番'''『'''古典'''』とも表記される{{sfn|プロコフィエフ|2010|loc=作品目録011}}。
4つの楽章からなり、演奏時間は約15分{{sfn|戸田|1979|p=29}}。オーケストラの編成は[[オーケストラ#古典派音楽の二管編成|二管編成]]が採られている{{sfn|戸田|1979|p=28}}。
== 作曲と初演
[[File:Joseph Haydn.jpg|thumb|right|120px|[[フランツ・ヨーゼフ・ハイドン|ハイドン]]]]
=== 作曲の経緯 ===
[[File:Patrol of the February revolution.jpg|thumb|right|260px|二月革命]]
[[セルゲイ・プロコフィエフ]]は[[サンクトペテルブルク音楽院]]在学中から2曲のピアノ協奏曲をはじめとする作品を発表しており、[[1914年]]、23歳のときに同音楽院を優秀な成績で卒業した{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=49}}{{sfn|戸田|1979|p=28}}。
彼は[[ピアノ]]を弾いて音を確かめながら作曲することを常としていたが{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=72}}、頭の中だけで音楽を練り上げた方が良い楽想や響きが得られると考えており{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=72}}、交響曲の全ての楽章をピアノに頼らずに作曲してみたいという気持ちを抱いていた{{sfn|プロコフィエフ|2010|pp=72-73}}。この「難しい旅{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=73}}」への挑戦を実行に移すにあたって、プロコフィエフは在学中に[[ニコライ・チェレプニン]]の教室で研究した[[フランツ・ヨーゼフ・ハイドン|ハイドン]]の作曲技法をもとに「もしもハイドンが今でも生きていたら書いたであろう作品{{sfn|戸田|1979|p=28}}」に取り組むことを思い立ち{{sfn|戸田|1979|p=28}}、そのタイトルを『古典交響曲』とした{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=73}}。
『古典交響曲』は、[[1916年]]の段階で第3楽章「ガヴォット」が完成し第1楽章と第2楽章のスケッチが出来ていた{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=73}}。翌[[1917年]]に[[2月革命 (1917年)|二月革命]]が始まると、プロコフィエフはペトログラード（現[[サンクトペテルブルク]]）の市街地を離れて近郊の田舎でこの年の夏を過ごし{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=72}}、ここで『[[ヴァイオリン協奏曲第1番 (プロコフィエフ)|ヴァイオリン協奏曲第1番]]』と並行して『古典交響曲』の作曲を進めた{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=73}}。プロコフィエフは田舎道を散歩しながら頭の中だけで作曲したという{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=73}}。
=== 初演・出版の経緯 ===
『古典交響曲』の初演は、[[1918年]][[4月21日]]にペトログラードにおいて、作曲者が指揮する元ロシア帝室オーケストラによって行われた{{sfn|戸田|1979|p=28}}{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=79}}。聴衆は1916年に初演された『[[スキタイ組曲]]』のようなモダンな作品を期待していたが、プロコフィエフが一転して軽快で解り易く美しい作風を示したことに驚いたとされる{{sfn|戸田|1979|p=29}}。この初演から約半月後の5月7日、プロコフィエフは『スキタイ組曲』や『[[ピアノ協奏曲第1番 (プロコフィエフ)|ピアノ協奏曲第1番]]』などとともに『古典交響曲』の楽譜を携えて旅立ち{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=80}}、[[ウラジオストック]]からロシアを出国、日本を経由してアメリカ合衆国に亡命した{{Refnest|group="注"|『古典交響曲』が日本で初演されるのは、1949年のことである（5月9日、[[日比谷公会堂]]において[[尾高尚忠]]指揮の[[日本交響楽団]]による）<ref>日本指揮者協会編『日本指揮者協会創立50周年に寄せて 1950～』日本指揮者協会・音楽之友社、2005年6月、p. 174.</ref>。}}{{Refnest|group="注"|アメリカでは『古典交響曲』の楽譜を見た指揮者の[[ウォルター・ダムロッシュ]]が誉め言葉のつもりで「素晴らしい。[[カリンニコフ]]のようだ」と発言してプロコフィエフの怒りを買った{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=86}}。}}。
その後、音楽的に保守的なアメリカに嫌気が差したプロコフィエフは1923年からはパリで暮らすようになる{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=102}}。1925年には指揮者[[セルゲイ・クーセヴィツキー]]が創設した{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=45}}「ロシア音楽出版社（''Editions Russes''）」から『古典交響曲』の楽譜が出版された{{sfn|プロコフィエフ|2010|loc=作品目録012}}{{Refnest|group="注"|ロシア音楽出版社は1947年に[[ブージー・アンド・ホークス]]社に吸収されている{{sfn|プロコフィエフ|2010|loc=原注027}}。}}{{Refnest|group="注"|出版譜には[[ボリス・アサフィエフ]]（{{lang-fr|''Boris Assafieff''}}）への献辞がある{{sfn|スコア|1926|p=1}}。}}。また、プロコフィエフは1931年に『古典交響曲』全曲のピアノ編曲を行っている{{sfn|プロコフィエフ|2010|loc=作品目録012}}{{Refnest|group="注"|プロコフィエフ自身のピアノ独奏による第3楽章の演奏が[[1935年]]に[[パリ]]で録音されており、[[ナクソス (レコードレーベル)|ナクソス]]から発売されている自作自演集のCDに収録されている。}}{{Refnest|group="注"|1931年5月には『古典交響曲』がバレエ化されている{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=102}}。}}
=== 「交響曲第1番」としての位置づけ ===
プロコフィエフは『古典交響曲』に先立ち、サンクトペテルブルク音楽院時代の1908年にホ短調の交響曲を作曲していたが、[[管弦楽法|オーケストレーション]]が良くないため響きが悪く{{sfn|プロコフィエフ|2010|pp=35-36}}、未熟な作品であると判断してアンダンテの楽章を残して破棄している{{Refnest|group="注"|破棄された交響曲の一部であるアンダンテ楽章は後に『[[ピアノソナタ第4番 (プロコフィエフ)|ピアノソナタ第4番]]』に転用された{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=35}}。さらにこの楽章は、改めて独立した管弦楽曲（作品29bis）に編曲もされた。}}{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=35}}。また、1909年には『[[シンフォニエッタ (プロコフィエフ)|シンフォニエッタ]]』作品5が作曲されている{{sfn|プロコフィエフ|2010|pp=39-40}}。この曲は小さな編成のオーケストラによる明快な音楽を目指しており{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=40}}、『古典交響曲』と同じ路線の作品であるが演奏機会に恵まれず、後にプロコフィエフは「この2つの作品がこんなに違った運命をたどるのが理解できない{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=127}}。」と語っている{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=127}}{{Refnest|group="注"|『シンフォニエッタ』はその後2度改稿されており、第3稿には「作品48」の番号が与えられた{{sfn|プロコフィエフ|2010|pp=39-40}}。}}
『古典交響曲』については、プロコフィエフは当初、厳密には「交響曲」と呼べない作品であると考えていたが{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=104}}、思い直してこれを自身の最初の交響曲に位置づけることとし、1925年に作曲した[[交響曲第2番 (プロコフィエフ)|次の交響曲]]を『交響曲'''第2番'''』とした{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=104}}。
== 楽器編成 ==
[[フルート]]2、[[オーボエ]]2、[[クラリネット]]2、[[ファゴット]]2、[[ホルン]]2、[[トランペット]]2、[[ティンパニ]]3{{sfn|スコア|1926|p=3}}、[[弦楽合奏|弦五部]]
{{External media
| width = 310px
| topic = 全曲を試聴する
| audio1 = [https://www.youtube.com/watch?v=5W18N6GipdE Prokofjew：1_Sinfonie (»Symphonie classique«)] - [[フランソワ・ルルー]]指揮[[hr交響楽団]]による演奏。hr交響楽団公式YouTube。
| audio2 = [https://www.youtube.com/watch?v=e-7VG3Xm_7w Sergey Prokofiev：Symphony no_1 in D major, op_25 ('Classical')]<br />[[:en:Ariel Zuckermann|アリエル・ズッカーマン]]指揮[[イスラエル室内管弦楽団]]による演奏。イスラエル室内管弦楽団公式YouTube。
}}
以下の4つの楽章で構成される。演奏時間は約15分{{sfn|戸田|1979|p=29}}。編成や形式など古典的なスタイルの音楽となっているが、単なる模倣ではなく、大胆な転調や和声の使い方などにプロコフィエフらしさが表れている{{sfn|戸田|1979|p=28}}。しかし、プロコフィエフにとってこのような作風は一過性のものであり{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=100}}、彼は[[イーゴリ・ストラヴィンスキー]]の新古典的な音楽については否定的であった{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=100}}。
* '''第1楽章''' [[wikt:allegro|アレグロ]]
*: [[ニ長調]]、2分の2拍子、[[ソナタ形式]]{{sfn|戸田|1979|p=29}}。
*: 第1主題は[[ニ長調]]で現れた後[[ハ長調]]で確保される{{sfn|戸田|1979|p=29}}。フルートによる推移主題を経て第2主題が[[属調]]の[[イ長調]]で提示され、冒頭の音型から派生した小結尾（譜例）が続く{{sfn|戸田|1979|p=29}}。提示部の反復は行われず、1小節の全休止の後に展開部に入る{{sfn|スコア|1926|pp=12-13}}。再現部では第1主題が主調のニ長調ではなくハ長調で再現され、推移主題の再現からニ長調に戻る{{sfn|戸田|1979|p=29}}。
::<score>
\relative c'' {
\new PianoStaff <<
\new Staff
{ \key d \major \time 4/4 \numericTimeSignature
<a' e cis a>4-> r a,,\ff a e' cis e a cis fis, a cis fis8 a, d fis fis4 <gis d b>-> <a e cis a>-> }
>> }
</score>
* '''第2楽章''' [[wikt:larghetto|ラルゲット]]
*: [[イ長調]]、4分の3拍子、[[三部形式]]{{sfn|戸田|1979|p=29}}。
*: 譜例の前奏に始まり、主部と中間部の動機を核としている{{sfn|戸田|1979|p=29}}。強弱をつけて比較させるやり方に[[古典派音楽]]の特徴が色濃く現れている{{sfn|戸田|1979|p=29}}。
::<score>
\relative c' {
\new PianoStaff <<
\new Staff
{ \key a \major \time 3/4
e8\pp-. e16-( fis e8-) fis-. fis-.-( gis-.-)
a8-. e16-( fis e8-) fis-.\< fis-.-( gis-.-)
a8\p-. fis16-(\> gis fis8-) fis-. fis-. gis-. a\pp-. }
>> }
</score>
* '''第3楽章''' ガヴォッタ：[[wikt:non troppo|ノン・トロッポ]]・アレグロ
*: ニ長調、4分の4拍子{{sfn|戸田|1979|p=29}}。
*: [[古典派音楽|古典派]]の交響曲でよくある[[メヌエット]]のかわりに、[[組曲|古典組曲]]に由来する[[ガヴォット]]が用いられている{{sfn|戸田|1979|p=29}}（譜例）。この楽章はポピュラーな作品になり、『[[交響曲第3番 (プロコフィエフ)|交響曲第3番]]』（1928年）のソ連での初演（1933年）が行われた際にプロコフィエフは「『[[3つのオレンジへの恋]]』の行進曲と『古典交響曲』のガヴォットのみでわたしを判断してもらいたくはない{{sfn|プロコフィエフ|2010|pp=161-162}}。」と述べている。なお、この「ガヴォット」は、後のバレエ音楽『[[ロメオとジュリエット (プロコフィエフ)|ロメオとジュリエット]]』（1935年）において、舞踏会から客人が帰るシーン（第1幕第2場）の音楽に転用されている{{sfn|小倉|1980|p=102}}。
::<score>
\relative c'' {
\new PianoStaff <<
\new Staff
{ \key d \major \time 4/4 \numericTimeSignature
\partial 4*2 b8\f^\markup { pesante} a gis a <a' fis d>4-> <a, fis d>-. <g' e c >-. <g, e c >-. <fis' dis b>-. <fis, dis b>-. <b dis,>\f-( <dis fis,>-) }
>> }
</score>
* '''第4楽章''' フィナーレ：[[wikt:molto|モルト]]・[[wikt:vivace|ヴィヴァーチェ]]
*: ニ長調、2分の2拍子、[[ソナタ形式]]{{sfn|戸田|1979|p=30}}。
*: 第4楽章については最初に書かれたバージョンが破棄され、完全に作り直されて現行のものとなった{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=73}}。書き直す際にプロコフィエフは短調の和音を避けることに努めたとされる{{sfn|プロコフィエフ|2010|p=731}}。ニ長調の[[分散和音]]による第1主題で開始され、この楽章では提示部が反復される{{sfn|スコア|1926|p=58}}。展開部では結尾主題（譜例）の[[ストレッタ]]が聞かれる{{sfn|戸田|1979|p=30}}。
::<score>
\relative c'' {
\new PianoStaff <<
\new Staff
{ \key d \major \time 2/2 \numericTimeSignature
e2\mp^\markup { schertzando}-( a4-) fis8. fis16-( e4-.-) d-. cis-. b-. a->-( fis-) a-. b-. cis~cis8. a16-( a'4-) fis-. e-> }
>> }
</score>
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist2|2}}
=== 出典 ===
{{Reflist|20em}}
== 参考文献 ==
* {{Cite book|
|first = Serge | last=Prokofieff
|year = 1926
|title = SERGE PROKOFIEFF SYMPHONIE CLASSIQUE
|publisher = Boosey & Hawkes
|ref={{SfnRef|スコア|1926}}
}}
* {{Cite book|和書
|author = 小倉重夫
|year = 1980
|title = 最新名曲解説全集 第7巻 管弦楽曲IV
|publisher = 音楽之友社
|ref={{SfnRef|小倉|1980}}
}}
* {{Cite book|和書
|author = セルゲイ・プロコフィエフ
|translator = 田代薫
|year = 2010
|title = プロコフィエフ 自伝/随想集
|publisher = 音楽之友社
|isbn = 978-4-276-22661-6
|ref={{SfnRef|プロコフィエフ|2010}}
}}
* {{Cite book|和書
|author = 戸田邦雄
|year = 1979
|title = 最新名曲解説全集 第3巻 交響曲III
|publisher = 音楽之友社
|ref={{SfnRef|戸田|1979}}
}}
== 外部リンク ==
* {{IMSLP2|work=Symphony_No.1,_Op.25_(Prokofiev,_Sergey)|cname=交響曲第1番 ニ長調 作品25『古典』}}
* [http://www.magazzini-sonori.it/esplora/teatro_comunale_bologna/sinfonia_maggiore_classica.aspx 実演データ] [http://www.magazzini-sonori.it Magazzini Sonori]（イタリア語）より。
{{プロコフィエフの交響曲}}
{{Normdaten}}
[[Category:プロコフィエフの交響曲|*01]]
[[Category:ニ長調|こうきようきよく1ふろこふいえふ]]
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